芒果布甸/Mango pudding



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 今朝は、のだめの予測不可能な攻撃により、欲望のままのだめのヴァージンを奪ってしまいそうになった真一。


 苦しげなのだめの喘ぐ声に引き戻されたものの、不自然にバスルームに逃げ込んでしまった上に、のだめに高ぶらされた欲望を鎮めることもできずバスルームで自身を慰めてしまった。


 のだめは、俺の不自然な態度を、変に思ってないだろうか?


 でも、モノを見せろだとか、触らせろだとか言い出すアイツのことだ、心配ないか?


 てゆーか、どちらかといえば俺が被害者なんじゃねーか?


 そんなふうに悶々としながら朝食を準備していると、ふんわりとオムレツが仕上がったところにタイミングよくのだめが現れる。


 「むはー!ふんわりオムレツっ!美味しそうデス!」


 いつも通りの無邪気な笑顔にほっと胸を撫で下ろすと、真一は不機嫌な表情を無理矢理つくって言う。


 「美味しそうじゃなくて、実際旨いんだよ」






 Virgin Snow 8






 テーブルに向かいあい朝食をとりながら、真一はさらっと仕事のことを切り出した。


 「明日から仕事になった。
 今夜、夜行でスペインに発つから……」


 のだめは食事の手を止め、顔をあげる。


 「……ずいぶん急デスね?」


 「うん……さっきお前がシャワー浴びてるとき、エリーゼから電話があった」


 「……いつまでデスか?」


 「……5日間」


 「……ミルヒーとの演奏旅行に比べたら、あっという間デスね」


 よかったぁ!とのだめは笑顔を見せる。


 「メシの心配か?」


 「ゲハ、ばれまシタ?」


 けろっとした顔でのだめはあっさり答える。


 「じゃあ先輩、今日は準備とかオベンキョで忙しいデスね?
 のだめ、お邪魔にならないように、部屋に帰ってピアノの練習でもしてマス」


 のだめはそう言うと、顔も上げずに一気に朝食をかきこみ、ごちそうさまでシタ!と、さっさと食器を片付けにキッチンへ向かう。


 真一は、邪魔なんかじゃないとか、準備なら出かける直前で十分だとか、そんな言葉を思い浮かべるが、口には出せないまま……。


 「先輩のも洗っときますカラ、食べ終わったらそのまま置いといてくだサイ!」


 キッチンから、洗い物をする音と一緒に、のだめの元気に張り上げる声が聞こえてくる。


 「わかった……」


 のだめの淡白な態度に、ほっとすると同時に、真一はなんだか割り切れない思いを抱えたまま、食べ終わった食器をそのままに、準備にとりかかった。








 今日は学校がお休みだから、少しでも一緒にいたいとか、明日飛行機で出発じゃだめなんデスか?とか、先輩と離れるの寂しいデスとか、そんなことを言うのはのだめの我が儘なんデスよね?


 先輩は駆け出しの指揮者で、のだめはただのピアノ留学生。


 先輩に世界で活躍してほしくって、のだめはあの日、先輩と離れてしまうことも覚悟して先輩の背中を押したのだから。


 こうして、今でも一緒に居られて、先輩と恋人同士になれて、あの時に比べたら夢みたいな状況で……。


 寂しいだなんて、贅沢なこと。


 だからのだめは、先輩を困らせるようなことは言っちゃだめなんデス。


 それに、先輩の恋人として恥ずかしくないよう、先輩に少しでも早く追いつくために、のだめはピアノを頑張らなくちゃいけないんデス!


 ざーーー。


 のだめの食器を洗う手が止まる。


 口をへの字に曲げ、下唇を噛みしめると、こぼれそうになる想いに蓋をした。








 のだめのことは気になるけど、あとで昼メシを作って、呼べばいいだろう。


 そんなふうに真一も自分の気持ちに蓋をして、客演の準備に集中する。


 総譜をひらき、音楽の世界に向かえば、真一はあっという間に引き込まれてゆき、時間の過ぎるのも忘れてしまう。


 「……いけねぇ、今何時だ?」


 気付けば、ランチにはもう十分に遅い時間。


 キッチンに向かうと、テーブルの上にはのだめ手製のおにぎりと……手紙?


 "千秋先輩

 お勉強に集中しているようなので、おにぎりをつくっておきまシタ。よくできた妻を持って、幸せな夫デスね?

 のだめは、ピアノも十分練習したので、ターニャとショッピングに行って来マス!

 ちゃんと食べてくだサイね?

 LOVE のだめ"


 勉強してる俺を気遣って、ピアノは切り上げたのか……。


 「誰が夫だ……」


 受ける相手もいないまま、おきまりのツッコミを口にして。


 真一は時間を気にしつつ、のだめのおにぎりを頬張る。


 そろそろ出なくちゃいけねーのに、アイツ、何時に帰ってくる気だ?









 そのころのだめは、ターニャを誘ってカフェでお茶をしていた。


 「で?私に話ってなによ?」


 「実は……千秋先輩のことで……」


 のだめはカフェオレボールを両手で包み込み、視線を落としたまま、もじもじとなかなか言い出せない。


 「チアキがどうしたのよ?やっと告白でもされた?」


 「ええっ?!ターニャー、どうしてそれを……」


 「ふふふ……やっぱりねぇ〜。おめでと、ノダメ!」


 「あ、ありがとございマス」


 「それで?その幸せいっぱいのノダメさんが、一人身で寂しい私になんの話?
 のろけるんだったら、短めにしてよね〜」


 「……えと、その……。ターニャは年下だけど、もう経験済みなんデスよね?」


 「なにが?」


 「そのぉ……つ、つまりデスね、男の人とそういうコト……」


 「ああ、セックス?」


 「ぎゃぼっ!ターニャーそんなはっきりと……はぅぅ……」


 「え?ノダメってやっぱりヴァージンなの?」


 「……はぅぅ……」


 「それで?何を悩んでるのよ?
 そんなのチアキに任せておけばいいじゃない〜!

 きっとあの生真面目な性格でねちねちと教えてくれるでしょ?何から何まで……くっくっくっ……」


 「……ターニャ、顔がやらしいデス……」


 「う、うるさいわね。私だってただで相談に乗るほどお人よしじゃないのよ?
 最近ご無沙汰だから、手近なアンタたちで妄想くらい楽しませてもらわなくちゃ。
 で?どこまでいったの?」









 のだめは恥ずかしがりながらも、真一のデビューコンサート後から、今朝までの出来事を、ターニャに促されるまま、包み隠さず報告する。


 「へぇぇ……。チアキって結構優しいじゃなぁい?

 うぶなアンタに付き合って、モノまで触られても襲わないなんて、よっぽどアンタのこと、大切に思ってくれてるのね〜。
 愛を感じるわぁ〜!ああっ!私だって、そんなふうに思われてみたい〜!」


 「そ、そなんデスか……」


 「そーよー?それにしてもチアキ、かわいそうに……くっくっくっ」


 「……可哀想というわりには、笑っているようデスが……」


 「まぁとにかく、さっさと許してあげなさいよ?
 アンタ、本物の恋人同士になりたくないの?」


 「ホンモノ?」


 「そうよぉ〜。男と女はセックスしてこそ本物の恋人同士になるのよ。
 身も心もささげて、すべてをさらけ出して愛し合ってこそ、本物の恋人でしょ?」


 「……でも、のだめ……怖いデス……」


 「何が怖いのよ?」


 「……何ってそれは……ターニャだって女の子なんだから、わかるデショ?」


 「はぁ?わかんないわよ。

 だって相手はチアキでしょ?
 アンタがずっと大好きで、やっとチアキもその気持ちに応えてくれて……。

 その上、ピアノも含めて全部、のだめのことを一番理解してくれて、大事にしてくれてる男でしょ?

 その相手にすべて捧げることの、何が怖いの?

 ノダメ、これ以上の幸せなロスト・ヴァージンはないわよ?」









 「はぁ……アイツ、どこで何やってんだよ?」


 出発時間を目前にして、真一はアパルトマンのドアに鍵をかけると、大きくため息をついた。


 荷物を手に、重い足取りでアパルトマンの階段を下りる。


 「センパーイっ!」


 どーんっ!


 「あぶねーなっ!」


 聞きなれた舌足らずで自分を呼ぶ甘い声に顔を上げれば、胸に飛び込んでくる愛しい恋人。


 弛みそうになる頬をおさえ、不機嫌な声をつくってその行動をたしなめつつも、空いた右手でしっかりと抱きとめる。


 自分の胸元でふぐふぐと匂いを嗅いでいたのだめが顔を上げ、上目遣いで真一を見つめる。


 「先輩……もう行っちゃうんデスか?」


 「うん……時間だから。
 いちおうギリギリまで待ってたんだぞ?」


 「ごめんなサイ……」


 「いいよ……間に合ったから。
 ……おにぎり、サンキュ」


 「先輩、気をつけて。頑張ってくだサイ。
 のだめ、先輩が帰ってくるのをいい子で待ってマスから」


 真一は、のだめのそんな台詞にくすっと頬をほころばせる。


 「……お前は留守番の子供か?
 じゃあ……向こうに着いたら電話するから……」


 「はい……」


 「ん!んんっ!」


 アパルトマンの中庭で、そのまま二人の世界にどっぷりと浸かってラブシーンを演じそうな二人に、咳払いがとどく。


 「まったく、私のことなんか目にも入らないみたいね」


 「げっ……」


 ターニャの存在にまったく気付いていなかった真一が、慌ててのだめから離れる。


 「じゃあね、ノダメ。また、明日ね〜!」


 「はいっ!今日はありがとデス!」


 にかっ!


 ターニャは、チェシャ猫のような微笑みで、真一に何かいいたげな視線をなげかけるも、黙って手を振りながらアパルトマンの中に消えていった。


 「おい、アイツがいるならいるって言えよ……」


 「……ごめんなサイ……」


 真一は左手のクロノグラフで時間を確認すると、アパルトマンの中庭にそわそわと視線を走らせ、誰もいないことを確認する。


 「じゃあ、時間だから行かないと……。
 メシ、ちゃんと食べろよ?ピアノもちゃんと練習して……。
 朝夜は冷えてきたから、温かくしておけ。
 あと、ちゃんと毎日風呂にもはいって……」


 「先輩、お母さんみたいデス……」


 「……うるさい。
 ……じゃあ、恋人じゃないとしないこと、してやる……」


 そういって、真一はのだめの腰を引き寄せると、すばやくのだめの唇にキスを落とす。


 二度、三度と柔かいのだめの唇に唇を寄せ、名残惜しそうにすっと自分の唇でのだめの唇を撫でると、もう一度右腕だけでのだめを強く抱きしめる。


 「じゃあな……」


 真一の唇が、のだめの耳元を掠めるようにささやく。


 「はい……、いってらっしゃい……」









 真一は、プラットホームに滑り込んできた、スペイン行きの夜行に乗り込んだ。


 今朝、エリーゼから連絡をもらったときは、これで少し離れて、のだめへの膨らむばかりの気持ちをクールダウンしようと思っていたのに。


 シートに体を預け、考えるのはただひとつ。


 真一は、そっと人差指で自分の唇をなぞってみる。


 まだ唇に残っている、のだめの柔かい唇の感触。


 俺、どうしちゃったんだ?なんなんだよ、このザマは。


 日本からずっと一緒で、さんざん迷惑をかけられて、面倒ばかりみさせられていた後輩に、すっかり骨抜きにされて……。


 さっき離れたばかりなのに、もう会いたい。あの舌足らずで甘い声が自分を呼ぶのを聞きたい。


 そして、抱きしめて、キスして……。


 真一は、惚けてうっすらと開けられた唇を意識して閉じると、ぼぉーっとする頭を左右に小さく振り、仕事に集中するため、総譜を広げ音楽の世界に没頭していった。



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