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真一がいそいそとドアを開けると、のだめは突っ立ったままで、部屋に入らない。 「どうした?入らないのか?」 ありえないほど優しい声で促す自分に、真一本人が一番驚いた。 それだけコイツに帰ってほしくないんだな、俺は。 「はい……」 のだめは真一に促され、静かに部屋に入る。 ジャケットをクロゼットにしまい、リビングに移動しようとしたが、のだめはまだ寝室に立ち尽くしたまま。 「どうした?今、カフェオレでも……」 「先輩、今日……、 のだめ泊まっていってもいいデスか?」 Virgin Snow 5 「えっ!?」 のだめはそう言うと、真一の顔を覗き込む。 「明日、ガッコはお休みだし……、そのう、のだめと先輩は恋人同士デショ?だから……」 そういって固まったままの真一のそばまで近づくと、真一の袖口を掴みもう一度、"だから、泊まってもいいデスか?"と真っ赤な顔でつぶやく。 「お、お前それ……どういう意味で言ってるんだ?」 同じように赤面して、真一が尋ねる。 「え?どういう意味って、そのままの意味デスけど……。 恋人同士なら、お互いの部屋に泊まって、朝まで過ごしてもいいのかなぁって、思ったんデスけど、だめデスか?」 「駄目じゃねーけど……、その……つまり……俺は男であってお前は女なんだから……若い男女が一つの部屋で一夜を過ごすってことはだな……つまりその……」 「なんデスか?モジモジしちゃって先輩らしくないデスよ?」 「だ、だからっ! それはすなわち、今夜お前のヴァージンをもらっていいってことなのかって聞いてんだよっ!」 「ぎゃぼっ!」 「はぁ……そういうことかよ……」 「ごめんなサイ……」 のだめは直接的な表現が真一の口から飛び出した途端、慌てて言い訳をしはじめた。 「のだめの部屋、いまちょっと住みにくいんデス。 久しぶりにバスタブにも浸かりたいし、清潔で気持ちいい先輩のベッドで、先輩に腕枕してもらって眠ってみたいなぁって……。 大学時代には許されないことでしたケド、今なら許してくれるのかなぁって……。だめデスか?」 「はぁ……駄目じゃねーけど、そういうの今の俺にとっては生き地獄なんだぞ?」 「ふぉ?どういう意味デスか?」 「好きな女がベッドの横で寝てたら、やりてーんだよ普通に」 「ぎゃぼっ!」 「……いやか?」 「……いやじゃないデスけど、まだ心と身体の準備が……」 「心はわかるけど身体の準備ってなんだよ?」 「女の子にだって色々あるんデスよ? 好きな男の人に、自分のす、すべてを見せるにあたって事前の準備が……」 「そんなもん、しなくていいから……、なぁ?ちょっとだけ……」 「ぎゃぎゃぼっ!だめデスー!じゃあのだめ帰りマス!」 「お、おい待てって!」 結局、真一はのだめを帰したくなくて、生き地獄を選んだ。 今のだめは、ご機嫌で風呂に入っている。 「……俺っていつから、こんなにアイツに甘くなったんだ? はぁ……」 先に入ってほしいと言われたので、真一はすでに風呂上がりでやることもなく、リビングのソファーに座り、ビールを煽っている。 時々、バスルームから聞こえる水音にいろいろと妄想してしまうのは仕方のないことで、それが嫌ならアイツはまだ身体を交わしてない付き合い始めの彼氏の家で風呂に入りたいなんて言い出すべきではないのだ、絶対。 だから俺は悪くない、これは不可抗力だ。 「いいお湯でシタ!」 「わっ!びっくりした……」 そんなふうに悶々としていたところに、風呂上がりで肌をピンク色に染め上げ、しっとりと濡れ髪の、のだめが現れた。 「先輩、気持ち良かったデス。ありがとうございまシタ」 「うん……なんか飲むか?」 「じゃあ……のだめもビール飲もうカナ? たまには夫にお付き合いしマス。妻ですカラ」 「誰が夫だ……」 真一が冷蔵庫にビールを取りに行く。 そのあとを、のだめがちょこちょことついてくる。 「ん?なに?グラスいる?」 「……そのままでいいデス。ありがとデス」 真一からビールを受け取ると、おとなしくリビングに引き返していく。 ふわりっ。 のだめからの甘い残り香が真一の鼻腔をくすぐる。 「……」 真一はため息をつくと、冷蔵庫から2本目のビールをとり、リビングに戻った。 「ぷはぁー!お風呂上がりのビールは美味しいデスね?」 のだめは、湯上がりとアルコールの相乗効果で、目元はぽわんと緩み、くちびるは赤みを増し、まさに"美味しそう"に仕上がっている状況。 そんなのだめの様子を、真一はソファーの背もたれについた右手に頭をもたげ、ビールを飲みながら眺める。 ちょびちょびとビールを煽るのだめの、無防備にさらされた白い喉元から目が離せない。 コトン。 真一はテーブルにビールを置き、のだめの手にあるビールも取り上げる。 「むぅ。まだ飲んでるのに……」 「もう終わり……」 真一の美しい顔が、のだめに吸い寄せられるように覆いかぶさり、右肩が真一の大きな手に掴まれる。 「せんぱ……」 「黙って……」 そう言った隙から、真一の唇がのだめの唇を塞ぐ。 優しく重ねられた唇が、ちゅっと音を立ててすぐに離れていく。 「苦しくなったら言えよ?」 「……はい……」 のだめ、大学時代から夢だったんデス。 もし、先輩と恋人同士になれたら、先輩のベッドで、先輩に腕枕してもらって眠りたいなって。 だって、先輩は一度そうしてくれるって約束して、だからのだめはミルヒーのお寿司とかお肉の魅力的な誘惑を断ったのに……。 嘘に決まってんだろっ!って廊下に放り出されて、のだめあの時は辛かったデス。 ちょっといいワインを飲んで、少し気持ちが大きくなってたのかもしれまセン。 先輩の部屋に着いて、のだめは思い切ってお願いしてみたんデス。 先輩ってば、すっかりのだめのお願いを勘違いして……むきゃー! も、もちろんのだめのヴァージンは先輩に捧げるつもりデスよ? でも、まだそんな……キ、キスにだって慣れてないのに、無理デスよ、えっちだなんて……。 それに、大好きな先輩にのだめの全部を見てもらう時、先輩の目に少しでもよく映りたいカラ、のだめは昨日からお手入れだって始めたんデス。 先輩、ごめんなサイ。 もうちょっとだけ、のだめのこと待っててくだサイ。 のだめ、先輩のために、ぴかぴかになってみせますカラ! お風呂から出て、先輩のところに行ったら、先輩はお風呂上がりのフェロモンむんむんで……。 なんだか落ち着かなくて、一人リビングで待っているとどうしていいかわからなくなって、ビールを取りにキッチンに向かった先輩の後をついていったんデス。 "ん?なに?グラスいる?"ってのだめを気遣ってくれる先輩の表情は、ありえないくらい優しくって……。 のだめはまたドキドキしちゃって、慌ててリビングに戻るとあんまり得意じゃないビールをぐびぐび飲むしかなくて……。 むきゃ?先輩にビールの缶を取り上げられてしまいまシタ。 ぎゃぼ!先輩の綺麗な顔がのだめに近づいてきマス……はぅん、キスされちゃいまシタ。 昨日キスしたときは、ちょっとひんやりしてるって思ったけど、今夜の先輩の唇はほんのり温かいデス。 少し重なって、あっという間に離れていってしまったけど、それはキスに慣れていないのだめに対しての先輩の気遣いで、"苦しくなったら言えよ?"って言ったあと、また先輩の唇がのだめの唇に戻ってきてくれまシタ。 嬉しい……! もうずっとキスしていたいほど……。 ちゅっ、ちゅっ……。 何度か触れるだけの優しいキスを繰り返して、真一はのだめの様子を窺いながら、徐々に触れる時間と強さを深めていく。 お互いの唾液で滑りのよくなった唇を、吸って、舐めて、そして撫でる。 そのうちにのだめが少しずつ、ぎこちないけど、真一の動きにあわせて、ついばむように動きはじめた。 ソファーの背にのせられていた真一の腕は、のだめの頭を抱き寄せ、のだめの両手もそれに合わせて、ぎこちなく真一の背中に回される。 真一が薄めを開けて、そっとのだめの顔を見下ろしてみれば、のだめの瞼は自然に閉じられ、眉はそっとよせられていて、苦しいというより気持ちよさそう? のだめは今、真一の動きに合わせて、夢中で真一の唇を吸っていた。 先輩の唇、男の人なのにとっても柔らかくて気持ちいい……。 先輩の柔らかい唇が撫でるように触れて……、そして何度ものだめの唇を吸って、それだけですごく気持ちよくて……。 気がついたら、のだめも先輩の下唇をはさんで吸ってまシタ……。 吸われるだけじゃなくて、のだめからも吸い付くと、さらに唇が先輩の唇の柔らかさとか、温かさとかをもっと感じることができて。 求めて、求められているこの行為に、どんどん夢中になって、身体が熱くなっていくのを感じマス。 のだめの頭を抱える先輩の右手に、ぎゅっと力が込められて、先輩の唇がさらにのだめの深いところを求めてくるのを感じマス。 のだめも何かに強くしがみつきたくて、先輩に回した両手に力を込めて、ぎゅうっと抱きつきまシタ。 キスって、自分が言葉にできない切ない想いを、相手に伝えるためにするのかも知れない。 "お前が好きだ。俺のものになって?" "あなたが好き。このままずっと離れないで……" のだめの、真一の背中に回した腕にぎゅっと力が込められた。 二人のくちづけは、さらに加速度を増して。 静かなリビングに、二人がたてるキスの音と、抱きあった身体がたてる衣擦れの音が響いていた。 6へ> |