芒果布甸/Mango pudding



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 佐久間さんって、夢見がちでぼーっとしてる人かと思ってたけど、結構鋭いんだな。


 クラシックライフの取材ということで会って早々、"昨夜の君は、本能と感覚で旋律を統制していて、今までと違った演奏だと感じたんだけど、何かあったのかな?"と聞かれる。


 「えっ?!ど、どうでしょう、師匠のもとで修業した4ヶ月のおかげかもしれません……」


 「そうかー。いやぁ、うれしい発見だったよ!」


 そういって豪快に笑うと、その後はいつものような佐久間節が炸裂して、インタビューというよりも、ポエムを聞かされ続ける数時間を過ごした。






 Virgin Snow 4






 急いで帰宅すると、すでに学校から帰宅したのだめの弾くピアノが聞こえる。


 演奏旅行から戻ってすぐ聞いたような、叩きつけるようなリストではなく、ふわふわと弾むようなピンクのモーツアルト。


 やっぱり演奏には、その時の感情が表れるものなんだな。


 昨夜の俺もバレバレだったのだろうか?


 「ただいま……」


 「おかえりなサーイ!」


 俺の帰宅に気づいたのだめが、ピアノを弾く手をとめ、出迎えてくれる。


 「むきゃ?先輩、なんだか顔赤いデスよ?」


 「……ちょっと急いだから……」


 のだめの恋するモーツアルト(愛の告白)に照れてとは言えず、そんなふうにごまかす。


 「もう出られるか?」


 「はいっ!」








 アパルトマンを出て、のだめはいつものように俺の左腕に右腕を絡めて、学校での出来事を楽しそうに話す。


 弾むようにふわふわと歩くので、時々俺の腕には"むにゅ"っと柔らかいものがあたるのだが……。


 大学時代も、こんなこと幾らでもあったんだろうけど、今の俺はそんなことすらスルーできず、、その柔らかな感触の正体を想像をしてしまい、ついついのだめの話にも上の空で……。


 「むぅ、先輩のだめの話、聞いてマス?」


 「……ごめん、ちょっと考え事してた」


 「先輩ってば、ひどいデスー」


 ぷー。


 頬を膨らませて拗ねたのだめが、俺の腕を両腕でぎゅっと抱え込むものだから、さらに柔らかなものが俺の腕におしつけられて……。


 むぎゅぅぅぅ。


 その無自覚攻撃は反則だろ?


 「もー、先輩なに考えてたんデスか?」


 上目づかいで、口を尖んがらせたのだめ。今の俺には、そんなのだめの表情も、この思いを煽る要素にしかならなくって。


 「お、お前のこと考えてたんだよっ!」(反撃)


 「ぎゃぼっ!」


 途端にのだめは真っ赤になって、大人しくなる。


 なんなんだよ、その恥じらいぶりは……可愛すぎだろ?!


 真一とのだめは、ふたりとも頬を桃色に染めて、言葉少なく残りの道筋をレストランに向かって歩き続けた。









 「なに二人とも赤い顔してんの?」


 到着した途端、俊彦からツッコミが入る。


 「……うるせー」


 「なんでもないデス……」


 向かい側にいる、母親の何か言いたげな視線が気になるのだが、とりあえず気づかないふりをして……。


 上品なフレンチレストランで、夕食が静かに始まった。









 「ぎゃぼっ!」


 骨付きのラム肉を注文したのだめが、うまく切り分けられず、肉と格闘してる。


 「しょーがねーな……」


 のだめを抱え込む形で後から手を伸ばし、のだめの両手に自分の両手を重ねて、お手本を見せる真一。


 「こうしてここにフォークを置いて、ナイフはこのへんに沿わせて……。
 ほら、簡単だろ?」


 「ほわぉ……先輩さすがデス!
 一口食べマス?」


 切り分けられた肉をフォークに差し、のだめは真一に差し出すと、真一はそのままのだめの手を掴んで、自分の口へと運ぶ。


 「うん、旨いな。
 で、どーせお前もこっちが食べたいんだろ?」


 「ゲハ、お見通しデスね?」


 「ほら……」


 真一は自分の皿のフィレ肉をフォークに差し、のだめの口に運ぶ。
 その際、のだめの口にシンクロして、自分の口も"あーん"と開いているのには、もちろん気付いていない。


 「あーん……。
 むきゃぁぁぁ!肉汁たっぷりで美味しいデス!」


 いちゃいちゃ……。


 あの、のだめ受験準備中にも三善家で繰り広げられた二人の無自覚なイチャつきは、さらに甘さを増してバージョンアップしており、目の前に繰り広げられる光景に唖然とする三善家一同。


 しかし、本人たちは、日常的に行っている行為を無意識にしているだけなので、周囲の戸惑いにはまったく気付かない。


 「……真一も変わったな」


 「ほんと、あんなに堂々とやられると、何も言えないよ……」


 「のだめちゃん、ずるいー!
 由衣子も真兄ちゃまにお肉切ってほしいー!」









 「真兄ちゃま!のだめちゃん!いろいろ頑張ってね!」


 「はいっ!ありがとデス!」


 「真一、これからが大事だぞ?油断しないで頑張りなさい」


 「はい。わざわざありがとうございました」


 食事を終えた一同は、店を出て挨拶をかわす。


 「真一、ちょっと」


 「な、なんだよ」


 征子が、一同から離れたところへ、真一を引っ張ってくる。


 「真一、わかってると思うけど、のだめちゃんは私がご両親から預かっている大切なお嬢さんなの。
 変なことして、泣かせるようなこと、しないで頂戴ね」


 「……どういう意味だよ……」


 「のだめちゃんは女の子で、あなたは男ってこと。わかるでしょ?
 そこんとこよく考えて、大切にして。頼んだわよ?」


 「……わかった……」


 俺の返事を聞くと、母はにやりと笑って俺の肩を意味深に叩くと、のだめと由衣子のもとへ行き、のだめにもなにやら話しているようだ。


 「くくく……真兄もついに観念したのかぁー」


 「……何の話だよ?」


 「言ってもいいの?」


 「……言わなくていい……」









 三善家一同とわかれ、アパルトマンへ戻る道を二人で辿る。


 「お料理、美味しかったデスね?
 三善の皆サンとも久しぶりにゆっくりお話できて、とっても楽しかったデス!」


 「うん……」


 「先輩?どうかしました?飲み過ぎまシタ?」


 「うん……」


 「先輩のワインの飲み方って、お水飲むみたいデスもん。ホントに大丈夫デスか?」


 「うん……」


 「もー、さっきから"うん"しか言ってないデスよ?」


 「うん……あ、ごめん……」


 のだめは"変な先輩"と失礼なことをつぶやくと、これ以上は何を言っても無駄だと思ったらしく、俺との会話は諦め、鼻歌を歌いはじめた。


 俺は先ほど、母親から釘を刺されたことを考えていた。


 もちろん、母親から何か言われたからって、俺たちの関係が変わるわけでもないし、俺だってアイツに対する何かが変わるわけでもない。
 今までだって、のだめのことは大切にしてきたし、これからだってそれは変わらない。


 ただそれと、若い男女が行う愛の営みはまた別の話であって、俺はアイツと早くそういう関係になりたいと思ってるし、それにあたってはアイツの意志を尊重して、気持ちを大事にしてやりたいと思っているわけであって……。


 ただ、この点について、のだめがどんなふうに思っているのかが、まったくわからない。

 のだめは、真一が付き合ってきた女性たちとまったく違うのだ。というか、のだめのようなタイプの女性というのが、今まで自分の知っている女性の中にも見当たらない訳で……。


 しかも、初めてだったとはいえ、少し深いキスをしただけで、気絶してしまうような状態で、それ以上先になんてすぐに進めてもいいのか、さっぱりわからない。


 真一がそんなことを悶々と考えているうちに、アパルトマンに到着してしまった。


 今日はもう遅いし、少し二人っきりで過ごしたい気持ちもあるけど……。


 「先輩、これからお部屋に寄ってもいいデスか?」


 「えっ?!い、いいけど……」


 自分があれこれ迷って躊躇しているうちに、のだめから自分が望んでいたことを言われ、真一はいそいそと玄関のドアを開けた。




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