芒果布甸/Mango pudding



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 「先輩……お腹すきました……」


 「なんか食べてくか?」


 挨拶など諸々済ませると結構な時間になっており、デビューの日にしては簡単な食事しかとれなかったが、今の俺たちにとっては、食事なんてもう何だっていい。


 店を出て、セーヌ河岸を歩けば、少しいいワインを飲んで火照った頬に風が心地よい。


 「のだめ、こっち」


 俺は適当な場所を見つけて腰掛けると、のだめを手招きする。


 「は、はい……」


 のだめはおどおどとやってくると、俺とは少し距離をおいて座る。


 ガチガチに緊張して固まっているようだ。


 「さっき楽屋で……何があったか思い出せない?」


 「……えと……、のだめ何だかぼぉーっとしちゃって……。
 ごめんなサイ」


 「結構ショックなんだけど」


 「え?」


 「お前がしてほしいって言ったんだぞ、……キス」


 「……」


 「俺もしたかったから、したんだけど……」


 「え?」


 真一はのだめの膝の上に置かれた両手をとると、のだめを自分のほうに引き寄せ、抱きしめる。


 「ぎゃぼっ……」


 自分の腕の中で、緊張のあまり固くなっているのだめを、真一はなだめるように右手でのだめの髪を優しく撫でる。


 「俺だって……、急にお前を好きだっていう気持ちが溢れてきて、どうしたらいいのかわかんねーんだよ。
 まだお前を好きな自分に慣れてないというか……」


 「……のだめだって慣れないデスよ。
 のだめのことが好きな千秋先輩なんて……。

 ききききキスされるのだって……」


 「うん……どうしたら慣れてくれる?
 さっきみたいに、気絶されてばっかりじゃ困るんだけど……」


 のだめは少し驚いたように顔をあげると、真っ赤な顔をして上目づかいで俺を見つめる。


 「じゃあ……毎日のだめに好きって言って、キスしてくだサイ……」


 「え……」


 ……やられた。


 そういって俺を見つめるのだめが可愛くって、俺はそれ以上何も言えなくなって、ただただ、のだめのことを抱きしめていた。






 Virgin Snow 3






 本当は帰したくなかったけど、今日はこのまま一緒にいても、俺の負けがこむばかりだと思い、部屋の前でお休みを言って帰すことにした。


 「じゃあ、また明日」


 「はい、おやすみなサイ……」


 のだめをドアの前で見送り、一人自分の部屋に戻る。


 シャワーを浴びてベッドに入っても、アイツを抱きしめたときの思ったより華奢な肩とか、キスする瞬間の目をとじた顔とか、柔らかい唇の感触とか、そんなものが後から後から浮かんできて、俺はその夜、なかなか寝付けなかった。


 なんなんだよアイツ……。
 この前まで、変態で世話の焼ける、ただの後輩だったくせにっ。


 俺様にこんな思いさせるなんて……、覚えておけよっ!








 ばたんっ。


 後ろ手にドアを閉めると、のだめはそのままベッドにダイブした。


 「ち、千秋先輩が、のだめのコト好きだって……、むっきゃあぁぁぁ!」


 枕を抱きしめて、奇声を発しながらのだめはベッドをのたうちまわる。


 「のだめ、どしたらいいんデショ?
 先輩から抱きしめられたり、顔が近づいてきただけで、ドキドキして……。きききキスに慣れるなんて、ぜったい無理っ!

 だって……先輩のこと、ずっと好きだったんデスよー……」


 のだめの頬を、涙が伝う。突然の涙に、のだめはその日、自分の身に起きた出来事に、やっと気持ちが追いついたのだと気付く。


 「今日は、のだめが生まれてきてから、いちばん幸せな日デス……。
 明日になったら先輩にこの気持ち、伝えなくっちゃ……」


 のだめはそうつぶやくと、幸せな気持ちのまま眠りについた。









 「おはようございマス!」


 「お、おはよう……」


 のだめは朝、いつもの調子で俺の部屋にやってくると、いつものように朝食の準備を手伝って、いつものように食事を始めた。


 俺は寝不足で食欲もなく、コーヒーをすすってるっていうのに。


 「千秋先輩」


 「ん、なに?」


 「ごはんが終わったら、昨日した約束のキス、ちゃんとしてくだサイね?」


 「ぶっっ!」


 「やだぁー、先輩ってば汚いー」


 「だ、だって、お前が朝から変なこと言うから……」


 真一は、噴出したコーヒーを拭きながら、真っ赤になって言い訳をする。


 「むきゃ?恋人同士の愛のささやきとか、キッスとかは、朝からするのは変デスか?
 のだめ、そういうのよくわからなくて……。
 ごめんなサイ……」


 「ちがっ!そそそそうじゃなくて……。
 朝からしても全然おかしくねーし、大丈夫だからっ」


 「ほわぉ……よかったデス!
 じゃあのだめ、急いで食べたら、歯磨きしてきマスね?」


 「お、おう……」


 やっぱり変態は先が読めねぇ!
 昨日まで、抱きしめただけでもあんなにガチガチになってたくせに、こんな奇襲をかけてくるなんて……。


 どきどき……。


 ごちそーさまでシタ!と言って、食器を片付けると、のだめは部屋に戻っていく。
 真一は上の空で後片付けをしながら、のだめの戻ってくるのを待った。








 「先輩……、のだめ準備できまシタ」


 「う、うん……、今行く」


 のだめは学校の準備をととのえ、真一の部屋に戻ってきた。


 真一はのだめのためのカフェオレと、自分のコーヒーをもう一度入れなおし、ソファーに座るのだめのもとへ向かった。


 「先輩……、のだめ言いたいことがあるんです」


 二人のカップをテーブルに置き、ソファーに腰掛けると、のだめからそんなふうに切り出された。


 「な、なに?」


 「のだめ……、昨日はいろんな事が突然起こったから、気持ちがついていかなくて……。
 あの……、のだめ昨日は、生まれてきてからいちばん、幸せだったって、先輩に伝えなくちゃって……」


 そういってモジモジと鍵盤バックの持ち手をいじりながらささやくと、のだめは真っ赤な顔をあげ、真一を見つめる。


 「先輩……、のだめのコト好きになってくれて、ありがとうございマス。
 のだめ、とっても幸せデス……」


 「うん……、俺も」


 真一は、のだめの手からバックをとり、床に置くと、のだめの両手を掴み、しっかりとのだめの目を見つめて言う。


 「俺は……お前のことが好きだ。
 だから、キスさせて?」


 「はい……」


 真一は、のだめの小さな顎を掴み、顔を上に向かせる。


 「のだめ、目とじて」


 「はい……」


 真一はそっとのだめの顔に近づき、両手でのだめの顔を優しく包み込むと、のだめのくちびるに自分のくちびるを重ねた。









 ほわぉ……。

 先輩がのだめの顎を掴んだとたん、そこが火がついたように熱くなるのを感じマス。


 ぎゃぼっ!先輩の綺麗な顔がのだめに近づいてきマス!

 瞳が潤んで色気ダダ漏れデスよ?その少し薄くて、綺麗なくちびるが、のだめのくちびるに重なるんデスか?

 はうん……少し開き気味のくちびるから漏れた吐息が、のだめの頬をくすぐって……。

 はい、もう目とじちゃいマス……、これ以上、至近距離で先輩のこと見つめていたら、のだめまた気絶しちゃいマス。


 ふわり。


 人間のくちびるって、こんなに柔かいものなんデスね。
 ちょっと湿った感触が気持ちいいデス……。
 あん……、まだ離れないでほしいって思うのは、のだめのわがままデスか?


 「……気絶してない?」


 「はい……、のだめ、気持ちよかったデス……」


 「えっ!そ、そんなに?!」


 「ほえ?先輩のくちびる、やわらかくって、ちょっぴり湿ってヒンヤリして……、キスって気持ちいいなって……。

 お、おかしいデスか?のだめ……」


 「い、いや、そ、そういう意味か……。
 はぁ……よかった……」


 「じゃあのだめ、学校いってきマスね?
 先輩の今日の予定は?」


 「うん、午後からクラシックライフの取材を受けて……。
 夕方から母さんたちと合流して食事だ。お前も来られるよな?」


 「はいっ!まっすぐ帰ってきますから!」


 「うん、じゃあ行ってこい」


 ソファーからバッグを持って立ち上がり、玄関を開けようとドアノブにかかったのだめの手をつかむ。


 「ほえ?」


 「もう一回だけ……」


 振り向いたのだめに、もう一度、行ってらっしゃいのキスを。


 あっという間の出来事に驚いて、真っ赤になってるのだめが可愛くて。


 「もう……先輩ひどいデス……」


 「ほら、遅刻するぞ」


 朝から俺様を翻弄した罰だ。


 真っ赤な顔でアパルトマンの階段を駆け下りてゆくのだめを見送って、今までではありえない自分の行動に呆れながら、こんな新しい関係も悪くないとニヤつく俺がいた。




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