芒果布甸/Mango pudding



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 ドアノブに手をかける。


 「やっぱりいないか……」


 鍵をあけ室内に入ると、天井に届いて先の折れ曲がった特大のツリー。


 ドアを閉めるのも忘れて呆然としていると、通りかかった長田がのだめが酒屋からもらってきたツリーだと教えてくれた。


 「ターニャもユンロンもフランクの実家にいっちゃったし、のだめも学校の友達ンとこに行くって出て行ったぞ?」


 「え?」


 「せっかく帰ってきたのに、ノエルにひとりぼっちか?
 かわいそうだから、夜まで付き合ってやろうか?」


 ばたんっ!


 「はぁぁ……」






 Virgin Snow 16






 こんなもの(特大ツリー)なんか用意してるんだ、そのうち帰ってくるだろ?


 荷物を片付け、洗濯と掃除を軽く済ませると、ツリーを眺める。


 ノエルにツリーを用意するなんて、アイツも可愛いとこあるよな。


 中途半端で放りだされた飾りつけにクスリと微笑み、真一は箱の中からオーナメントを取り出し、飾り付けていく。


 「全然、たりてねーし……」


 大きさのわりに寂しい飾りつけに、真一は思いついて、ずっと渡すことができていなかったルビーのネックレスをデスクの引き出しから取り出すと、ツリーの目に付く場所に注意深く取り付ける。


 アイツ、これ見たらどんな顔するかな?


 奇声をあげて喜んで、胸に飛び込んでくる恋人を想像して、また真一の頬はゆるむ。









 出発前に用意していた食材で、ご馳走とまではいかないが、のだめの言うところの呪文料理とやらを準備する。


 アイツ、どこいってんだよ……。


 やることもなくなり、いくら待っても帰ってこない恋人に痺れを切らし、真一は屋根裏の長田のもとを、オランダ土産のワインを手に訪れていた。


 「お、やっぱり寂しかったか?ふられてバンザーイ!(by マッチ)」


 「ふられてねぇっ!」


 長田の口から語られる、幼い頃の恥ずかしい話に赤面しながら、美味しいワインも味わう余裕がなく、真一は酔いがまわっていくのを感じる。


 「そうだ、お前の親父の抽象画あるぞ?見るか?」


 思い出したくもない人物のことを言われ、真一はついに耐え切れず、しっかりとワインを回収して長田の部屋をあとにする。


 部屋に戻っても、まだ恋人は帰ってきた様子はない。


 「学校の友達って……黒木君かな……」


 ノエルだからきっと帰ってくると、心待ちにした人物は、帰ってこなかった。


 はからずも長田から引き出されしまった人物との、辛い記憶が思い出されてしまう。


 ノエルだから、ツリーなんか用意してあるから、アイツは帰ってくるだろうなんて、俺のうぬぼれなのか?


 真一は、どんどんと膨らむネガティブな思考に耐え切れず、部屋をあとにした。









 コートを羽織るのも忘れ、気がつけばポンヌフ橋。


 寒さに震えながら、真一らしからぬ行動に、自分でもあきれてしまう。


 俺がアイツに期待しすぎなのか?


 俺が思うほど、アイツは俺のことなんて、大切に思っていないのだろうか?


 ああ、俺って、こんな女々しいこと考えるような男だったのか?


 違う!アイツが少しでも、普通に恋人らしい態度で俺に接してくれれば、こんな風に、ノエルに寒さに震えて、悶々としなくていいはずなのに!


 なんなんだよ?アイツは!


 アイツと付き合う限り、俺はこんな風にずっと振り回されつづけるのか?


 それでいいのか?千秋真一!









 ほわぉ……のだめ、頑張ったからでショウか?


 ノエルに、宿敵バッハとの戦闘に打ち勝つための、すばらしい経典を手にいれまシタ!


 それに……今日は先輩が帰ってきマス!


 子供のクリスマス会だから、夕方には終わるだろうと高を括ってまシタ……。パリの子供たちは生意気デス。大川町内子ども会は、16時には終わってまシタよ?


 思ったより、遅くなってしまいまシタ……。


 急いで帰って、ツリーの飾りつけを完成させて、先輩とラブラブなノエルを過ごすんデス!









 ポンヌフで、悶々鬱々としている真一の視線の先に、今その思考のすべてを占めている恋人がこちらに向かって来るのが見えた。


 「のだ……」


 (のだめサン、完全にスルー)


 自分に気付きもしない恋人に、身も心も完全に凍りつく真一。


 いったんスルーしたものの、その動物的嗅覚で愛しい恋人を嗅ぎつけたのだめ。


 「せんぱいっ!」


 ぷいっ!スタスタ……。


 (真一クン、スルー仕返し)


 今さら気付いたって遅いンだよっ!


 俺は、心の底から傷ついたんだ……。


 もういやだ、こんな恋人。


 散々振り回されて、女々しい感情に支配されるなんて、こりごりだ。


 まだ、今なら引き返せるだろ?


 のだめを無視して、アパルトマンとは反対の方角に歩きだす真一のあとを、のだめが追う。


 「せんぱいっ、千秋先輩でショ?待ってくだサイ?
 先輩の帰りをイイ子で待ってた、あなたののだめデスよ?」


 「しらねーな?そんな奴。
 恋人の帰りも待たずに、好きなようにふらふら出歩いて、ばったり会った恋人の呼びかけもスルーするような、冷たい女なら知ってるけどな!」


 きっ!


 足をとめ、のだめを振り返り、睨みつけて啖呵を切る真一。


 ノエルの夜に再会した恋人たちは、何故かポンヌフ橋の真ん中で睨み合っていた。









 「先輩……怒ってるんデスね。
 でも……のだめ待ってまシタよ?  先輩のお仕事の邪魔しないように、のだめはのだめで頑張ってたんデス。
 今日だって……」


 「俺は……お前が普通じゃないことくらいわかってたつもりだったけど……。
 もう、お前みたいなタイプのやつに、振り回される人生はこりごりなんだよ……。
 同じ星の男を見つけて、お前も幸せになれ。

 じゃあな……」


 これくらい言っておけば、コイツも少しは態度を改めるだろ?


 俺様をあんまりコケにした罰だ!少しはお前も心を凍らせてみろ!


 先ほどの啖呵と、仕返しとばかりに、すがりつく恋人に冷たい態度をとって、自分の鬱々とした気持ちをすっきりと吐き出すと、真一はお仕置きとばかりに、のだめを置いて歩き出す。


 と、背中にぞくぞくっと寒気が走ったと思ったら、"むきゃぁぁぁーーー!"という聞きなれた奇声とともに、背中に受ける強烈な痛み。


 どぉーんっ!ばたっ!


 のだめのとび蹴りが真一の背中にヒットした。


 予測もしていなかった突然の攻撃に、真一の体は宙を飛び、ポンヌフの冷たい石畳に激しく叩きつけられた。


 は?はぁ?俺……今、攻撃うけたよな?
 しかも相手は……。


 痛みに顔を歪ませながら、身体を仰向けに起こすと、自分の前に立ちはだかる、業火を背負って、怒りに燃えるのだめ。


 一瞬、恐ろしいと思いながらも、綺麗だと思ってしまった自分の甘さに頭を振り、真一は言葉を失って、ただただ、のだめを見上げる。


 「何をめそめそと……ケツの穴のちいさか男ねっ!
 そげんか男、こっちから願い下げたいっ!」


 くるっ!


 いさぎよく、真一に背をむけ、立ち去るのだめ。


 え?何?俺って今、のだめに捨てられた?


 むっかぁーーーっ!


 真一の女々しい意地に、粘着な怒りの火がついた。


 「待て!この変態女!」


 真一は背をむけるのだめのマフラーを掴むと、高校の体育でやって以来の体落としを決める。


 「願い下げなのはこっちだ!
 ふざけんなっ!」


 「ふざけとっとはどっちですかっ!」


 のだめはマフラーを真一の足に巻きつけ(カンフー?)真一を再度、石畳に沈める。


 「おまっ、いい加減に……」


 再度のだめからの強烈な攻撃に、身も心もぐったりと疲れ、真一はなんとかのだめをなだめようと、石畳に横たわったまま、仰向けに身体を起こそうとした瞬間……


 「ひぃっ!!!」


 真一の上空で宙に舞い、怒りに瞳を燃やしたのだめが襲い掛かってくる。


 がしぃっ!!


 真一の体に跨ると、その弱くはない握力で真一の首をぎりぎりと締め付ける。


 「のだめはいつでっちゃ本気とけ……。
 なんで逃げるとデスか!?」


 のだめの瞳からは怒りの業火は消え、双瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


 「近づいたかち思うたら離れてく……。
 先輩も……音楽も……はぅぅぅ……」


 「別に俺は……俺から離れたりなんか……」


 「たった今離るうかしよったじゃなかデスかぁーーーっ!
 うわぁぁぁぁーーーーんっっ!」


 ぎりっぎりり……。


 のだめは悲しみに我を忘れて、まったく手加減する余裕がない。


 や、やばい……マジで殺される……。


 「の"、の"だめ"、俺が悪がっだがら"……」



 真一の言葉に、のだめの両手が弛む。


 その隙に真一はのだめの両手を掴み、自分の身体を起こすと、のだめを抱きしめつぶやく。


 「もう一度、やりなおそう……な?」


 「ほ、本当に?」


 のだめはさっきまでの様子が嘘みたいに、俺の言葉に嬉しそうに涙をぽろぽろとこぼして、俺の胸に顔を埋める。


 俺は思わず、そんなのだめがやっぱり可愛くて、さっきまでこの宝物を手放そうとしていたなんて、恐ろしい考えを思い出して身体を振るわせる。


 「う、うん……」


 「はぅぅぅ……真一クン……(さっそく匂いを嗅いでいる)」


 怒っていたはずの俺が、のだめに怒られて、捨てられそうになって、そしてすがって謝るなんて……。


 やっぱりなんか、納得できねえ!


 でも俺はきっと、諦めるしかないんだろう……はぁ……。


 真一の脳裏に"惚れた方が負け"という言葉が浮かんだ。









 静まり返ったアパルトマン。


 無駄な争いに疲れきって、それでもお互いの胸の思いを吐き出して、もう一度、愛情の確認をすませた二人は、すっきりとした気持ちで部屋のドアを開ける。


 「先輩、のだめお腹すきまシタ……」


 「うん、準備できてるから……」


 オランダの出発前に購入していた、あの日のためのシャンパンをあける。


 俺の向かい側で、いつものように美味しい美味しいと次々と口に運んでは皿を綺麗にしていくのだめに、心の底からほっとする。


 どこに行っていたのか聞いてみれば、なんだよ、子供のクリスマス会かよ……。


 黒木君も一緒だったらしいけど、そんなものに嫉妬してた俺って……(鬱)


 「のだめは今日、その頑張りのお陰か、最強の経典を手にいれたんデス!
 これでフーガの構造も完璧デスよ!」


 「これ……その経典とやらの日本語版な?」


 真一は本棚から日本語版を抜き出し、さらっと渡す。


 いい気になってはしゃいでるアイツに、ちょっとお仕置きだ。


 フルーツとアイスクリームという簡単なデザートでクリスマスディナーを終わらせると、俺はオランダの演奏会がうまく行ったご褒美の、ちょっといいワインを開け、ソファーに移動した。


 「のだめ、ピアノ弾けよ?
 1人で頑張ってたんだろ?」


 のだめは嬉しそうに微笑むと、ピアノに向かう。


 教会の響き……。バッハは苦手だったはずなのに……。


 近づいたかと思うと離れていくのは、お前だろ?


 もう、そんなお前から、俺は離れられない気がしているのに。


 「どでシタ?」


 わかってるくせに、挑発的な微笑みで、俺の瞳を覗き込むのだめ。


 俺は言葉にするのが苦手だから……。


 ソファーに座る俺の前に立つのだめの手を引いて、膝の上に抱え込むと、ずっと触れたかった唇にくちづけを。


 「せんぱい……」


 唇と唇が離れたすきに、のだめが切ない声で俺を呼ぶ。


 「名前で呼べよ……」


 「真一クン……」


 俺は、のだめの耳に唇を寄せ、ささやく。


 「めぐみ……」


 唇で、耳のふちをなぞり、そのまま首筋をなぞっていけば、のだめははぁ……と息を吐き出しながら、俺の腰に回した手の力が抜けていくのを感じる。


 「真一クン……のだめ……」


 「なに?」


 唇をもう一度耳元に戻して、息を吹きかけながら訪ねる。


 「のだめ……お風呂に入りたいデス。
 それで……今日、真一クンのお部屋に泊まっていいんデスよね?」


 がばっ!


 真一は抱きしめていたのだめから身体を起こし、のだめの顔を覗き込む。


 「そ、それ……そういう意味だよな?
 い、いいのか?お、お前今日は疲れたかと思ったんだけど……」


 こくり。


 のだめは無言で、首を縦に振り、恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋める。


 やったっ!!!(大きくガッツポーズ)


 先ほど、のだめが弾いたバッハがオルガンの音となって、教会の鐘の音とともに脳内で鳴り響く。エンジェルが天井を舞い、真一は祝福の光に包まれた。


 「ば、バスタブにお湯、溜めてくるから……」


 いそいそ……。


 今日は俺、生まれて初めて、女に殺されそうにもなったけど……。


 それでも人間、生きてればいいことがあるんだなっ(涙)


 ついに、のだめのヴァージンを奪う……。


 俺はもう迷わねー!


 今夜こそ、決めてやる!



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 大変お待たせいたしました!
 いよいよですよ、皆サマ!
 よくもまぁ……ここまでひっぱったもんです(笑)

 この回の流れは、ほぼ原作に忠実なものとなりました。ちょっとしたアレンジはありますが(アラフォーにしかわからないw)
 ポンヌフのあたり、オリジナルのお話も考えてはいたのですが、やっぱりここはこれしかないだろーということで、なんの捻りもありませんが、原作の復習をするということで……(汗)

 さ、次回からいよいよ、のだめサンのロスト・ヴァージン、真一クンの攻撃が始まります(笑)
 がんばれ、真一クン!