芒果布甸/Mango pudding



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 変態の森に足を踏み入れてからというもの、俺はのだめのちょっとした仕種、表情、言葉に翻弄されつづけている。


 先の読めないジェットコースターに乗り込んでしまったかのように、俺の感情は急上昇したり、急下降したり、右へ左へ振り回されたりと、かなり心臓に悪い。


 これが恋なのか?






 Virgin Snow 12






 「それで?その後どうなったのよ?」


 コンヴァトのカフェテラスで、ターニャとのだめはランチを終えると、顔を近づけてコソコソと内緒話を始める。


 のだめのカフェテラスでの個人授業は、これまでのリュカによる音楽教室から、ターニャによる恋のレッスンABCに変わっていた。


 「えと……昨日、千秋先輩がスペインから帰って来て……」


 のだめは昨夜の出来事を逐一包み隠さずターニャに報告すると、


 「先輩は優しくってカコよくて最高の彼氏デス、はぅん……」


 と惚気る。


 「ふん、それは良かったわねっ!
 それにしても、あんたってタイミングが悪いというか、チアキはとことんツイてないっていうか……くっくっくっ……」


 「それで相談なんデスが、のだめは来るべき日に備えて、何をすればいいデスかね?」


 「そーねぇ……エロい下着でも買っとく?」


 「先輩喜びマスかね?」


 「あの顔は絶対好きよ、エロい下着が」


 「がぼん……」









 「はーくしょんっっ!

 やべえ、風邪引いたか?
 1週間後に備えて、早く治さねーと……」


 真一は、ターニャとのだめに好きなように噂されているとも知らず、盛大なくしゃみをする。


 昨日は帰宅後、のだめのワイシャツ姿に驚かされ、ヴァージン捧げます宣言に昇天させられ、最終的にはお預けをくらってガッカリさせられたものの、今から思えば、あのまま流れでベッドインするより、覚悟を決めた上で、来るべき決戦の日に向けて、入念な準備をするべきであると前向きに思えるようになっていた。


 「のだめの初めてを、いい思い出にしてやりたいからな……」


 来るべき日に備えて、準備を進める男子がひとり。









 カチャカチャ……。


 真一は真剣な眼差しでPCに向かっていた。


 "ヴァージン 初めて 処女膜 挿入 痛くない"


 「絞り込みすぎか?……お、あった!」


 "女性の身体を知り尽くした女医 Dr.香水があなたに教える究極のロスト・ヴァージン☆
 当サイトで伝授する心得とテクニックで、めくるめく官能の一夜と、素敵なメモリーを彼女にプレゼントしましょう!"


 「おおおっ!神だ……」


 真一は、検索で一つのサイトを見つけると、真剣に閲覧を始めた。









 "ヴァージンの女の子とは、まだ快楽も喜びも知らない、真っ白なキャンバスのようなものです。

 あなた好みの色に染め上げることができるのと同時に、何も知らないがゆえに行為に対する恐怖心も大きいのです。

 あなたには想像できますか?自分が見たこともふれたこともない場所に、自分以外の人間のモノを受け入れる恐怖心を。

 女性は生まれたままの姿になって、その場所を無防備に開放して、そのような行為を、あなたを受け入れるのです。

 まだ何も受け入れたことのないその場所は、処女膜にガードされ、初めての行為に痛みを伴います。

 あなたはそのような彼女の犠牲と引き換えに、快楽を得ようとしているのです。

 まずはそれを十分に認識して、彼女への優しい思いやりをもって、その行為に及んでほしいのです。

 ロスト・ヴァージンは、男性の思いやりと正しいテクニックがあれば、決して辛いものではありません。

 いかにしてリラックスさせ、恐怖心を取り除いてあげ、初めての快楽を教えてあげられるか……それはあなた次第です!"


 「真っ白なキャンバス……好みの色に染め上げる……(むっつり妄想中)」


 そうだ、のだめはまだ何も知らない。


 俺がこれから、あんなことも、こんなことも、全部教えてやるんだ……。


 でも、そのためには、最初が肝心だ。初めてが苦痛であっては、その後のいろいろに影響するからな!


 真一は気合いを入れ、読み進めていく。









 "まず、大切なのはシチュエーションです。
 できるだけ彼女がリラックスできる、清潔で雰囲気のよい場所を選んであげましょう。
 あなたの部屋などであれば、事前に何度か来てもらって、場所に馴染んでもらうとよいでしょう"


 「よしっ!俺の部屋ならのだめもリラックスしまくりだろ?
 とりあえず1週間はこっちで一緒に寝ることにしよう……」


 "照明は真っ暗よりも、少し明るいほうが安心できるし、あなたも彼女の表情を確認することができます。

 彼女が嫌がっていないか、気持ち良く感じているかなど、表情の確認は絶対に必要です。

 間接照明や、リラックスできるアロマキャンドルなどもオススメですよ"


 「アロマキャンドルだな?
 早速午後にでも買い物に行って、のだめに好きな香を選ばせるか。
 匂いには人一倍うるさいからな、アイツは」


 "さて、いよいよ彼女が部屋にやってきました。

 でもいきなりベッドに誘ったり、シャワーを勧めるなど論外です!

 まずは彼女の好きな音楽を聴いたり、DVDを見たり、お酒を飲むのもよいでしょう。

 そうやってふたりっきりの空間を徐々に親密な空気にしていきます"


 「こ、これって昨日の俺か……(がっくり)
 よし……次は絶対にがつがつしねーぞ。

 この日は、口当たりがよくて、のだめも飲みやすいロゼのシャンパンでも買って……。」


 PCに向かって、ひたすら独り言を繰り返す、かなりの不審人物になっている真一だが、今は来るべき1週間後に向けて必死であった。









 "さて、ふたりの間に親密な空気が流れてきたら、徐々に彼女をエロティックなムードで包んであげましょう。

 まずここで大切なのは、ハグやキスなどの行為よりも、あなたがどれだけ彼女を大切にしているのか、愛しているのかを、目や言葉で真剣に伝えること。

 男性はとかく、口に出さなくてもわかるだろう?と思いがちですが、女性にとって恋人からの甘い愛のささやきはとっても重要で、ダイレクトにハートに響きます。

 そしてキス。初めからセックスを予感させるようなハードなものはNGです。まずはソフトに触れ合うだけのキスから始めましょう。

 女性は、焦らされれば焦らされるほど、その後にあるものへの期待が高まり、感じやすくなります。焦ってはだめです、彼女が焦れて求めてくるくらい、ゆっくりとソフトに進めましょう"


 「なるほど……。勉強になるな、たしかに……」









 "さて、あなたの甘いささやきや優しいキスで彼女が感じてきたか、表情をよく観察してみてください。彼女の頬がうっすらと桃色に染まって、瞳が潤んできたら、もう彼女の全身が感じやすくなっているはずです。

 まだですよ?ここでいきなり胸を触ったり、スカートの中に手を入れるなど、最低です!
 何度も言いますが、焦らされれば焦らされるほど、後が盛り上がります。焦ってはだめです。まずは服で隠れていない耳や首筋などを優しく愛撫しましょう。

 全身が感じやすくなっている彼女は、それこそ髪に触れられただけで、気持ちよさに悶えるかもしれません。指だけではなく、あなたの唇も使って、愛してあげましょう。

 さぁ、いよいよシャワーを勧めましょう。セックスの前に清潔にすることは、お互いへの愛情の証です。そうそう、男性は前日までに指の爪なども手入れしておいてくださいね?"


 「爪、爪、爪……忘れずに手入れしとかねーとなっ!」


 "さて、いよいよベッドインです。
 どのような格好にするか、これは好みの問題ですからお任せしますが、いきなり真っ裸だけはいけません。ヴァージンは男性自身に対して恐怖心がありますから、いくら自分自身に自信があるからといって、見せつける、触らせるなどの行為を無理強いしてはいけません!"


 「本人が望む場合は、いいのだろうか……」


 "ここからは、あなたの本能の赴くまま、彼女を愛してあげましょう。手だけではなく、唇、舌など使って、それこそ頭の先からつま先まで。

 彼女はまだ、どこがどのように感じるのか知らないのです。
 二人で彼女にとって気持ちのいい場所を探していくことは、恋人同士の重要なコミュニケーションです。
 彼女の表情を伺いながら、彼女の感じる場所を開発していくのです!"


 「開発……俺がのだめを開発……(むっつり爆妄想中)」


 "言葉をかけることも忘れてはいけません。
 「可愛いよ」「好きだ」「気持ちいい?」など、思いつく言葉を素直にかけてあげてください。
 言葉攻めではありませんよ?いきなり初めての彼女に「淫乱だな……」とか「もうびしょびしょじゃねーか……」などといった言葉を間違ってもかけてはいけません!

 ここで、本能の赴くまま、彼女を愛撫するうえで大切なことを1つ。

 彼女が感じる場所を見つけたら、それはもうしつこく、粘着に攻めてください。スピードや強さを変えてはいけません。女性の身体は、同じリズムでゆっくりとネチネチ攻めるほど、感じるものなのです……"


 「しつこく、粘着に、同じリズムでゆっくりとネチネチ……(得意かもしれない)」


 "さて、いよいよあなたが一番気にしていることをお教えしましょう。

 ヴァージンの証である、処女膜についてです。
 処女膜といっても、けっして入り口をがっちりと封じ込めているわけではありません。1センチほどの隙間がすでに開いており、一部が土手のように盛り上がった、狭まった場所と考えておけばよいでしょう。

 もちろん、そのためにその場所にあなた自身を受け入れる際には苦痛を伴いますが、その前にあなたが十分に彼女を愛してあげることで、彼女の全身は心地よさに包まれ、その場所はたっぷりと温かく湿っているでしょう。

 それではこれから、あなた自身を挿入するまでにどのような手順を踏めばよいのか、いよいよ本題に入りましょう!"


 「ほわぉ……のだめのココって、こんな風になっているんデスね?」


 ぎぎぎぎ……。


 PCに向かっていた真一の顔が、突然聞こえた恋人の声に、ゆっくりと振り向く。


 「……うわぁぁぁぁぁっ!!!
 お、おまっ!いつからそこにいた?!
 ひ、人の部屋に無断で入るンじゃねぇっ!!!」


 真一は、突然ののだめの侵入に死ぬほど驚き、椅子からひっくり返りそうになりながら、大声を張り上げる。


 「……さっきから声かけてるのに、先輩が全然気づいてくれなかったんじゃないデスか……。

 のだめは今朝、先輩が『学校から帰ったら、まっすぐ俺の部屋にこいよ?おかえりのキスするからな……』って言ったから、まっすぐ先輩のお部屋に来たのに……。

 お邪魔だったんデスね……わかりまシタ、のだめ帰りマス……」


 「ま、待てっ!ごめんっ、俺が悪かった!
 の、のだめさん?待ってください?
 美味しいスイーツ作りますから……」


 真一は慌ててPCをシャットダウンすると、自分の部屋に帰ろうとするのだめを追いかける。


 そんな、初々しい恋人たちの、ある日の午後。


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