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演奏旅行から帰ってきて真一を待っていたのは、真一のワイシャツ一枚で無邪気にベッドに横たわるのだめだった。 真一は、キッチンで肉を煮込みながら、先ほどの衝撃の光景をもう一度脳内に浮かべていた。 真一のワイシャツ一枚の格好で、ベッドに眠っていたのだめ。 想像の中で、真一はそのボタンに手を伸ばし、上から一つずつ外していく。 ぷちっ、ぷちっ……。 すべてボタンを外し終わると、シャツの襟元に両手をかけ、少しずつ肌からはだけさせていく。 ごくり。 「……先輩……?」 「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 突然かけられた声に、真一は身体を10センチメートルくらい飛び上がらせ、死ぬほど驚いて振り向いた。 その視線の先には、先ほど想像の中でシャツを脱がせようとしていたのだめが、まだ依然としてシャツ一枚の格好で、眠そうに右手で目をこすりながら、立ち尽くしている。 「おおおお起きたか?」 「ふぉ?本物の先輩。おかえりなサイ」 「た、ただいま……」 「それより先輩、お肉が焦げる寸前5秒前の匂いデス……」 「おおおおそうだな、今、火を止めようと思ってたところだ」 真一は慌てて鍋の火を止める。 「そ、それよりお前……、その格好……」 のだめは、ねぼけ眼で自分の格好を見下ろすと、ワイシャツ一枚だったことを思い出し、焦りまくる。 「ぎゃぎゃぼっ!こ、これは2週間前にランドリーボックスから盗んだシャツじゃないデスよ? そ、それに、身につけてベッドにもぐりこんで胸いっぱいに空気を吸い込むと、より濃厚な先輩の匂いがするからなんて、変態的な行為をするために着たわけでもないデスよ?(完全に目そらし)」 「い、いや……、そういうことじゃなくて……。 さ、寒いだろ?そのままじゃ……」 「はい、じゃあのだめ、いつものワンピースに着替えてきマスね?」 そういって、自分の部屋に戻ろうとするのだめを、なぜか引き止めてしまう真一。 「ま、まてっ!もう夕食だから……。 ほ、ほら、このカーディガンでも羽織っとけ」 真一は、自分が羽織っていたカーディガンを脱ぎ、のだめにそっけなく渡す。 「メシ、並べるから。手、洗って来い」 そういい残すと、そそくさとテーブルに準備に向かう。 「ほわぉ……、先輩のカデガンっ!ムハー!」 真一の黒カーデに顔を埋め、喜ぶのだめの姿を、ダイニングからこっそりと覗く真一。 ワイシャツにカーディガンもなかなか……って俺は何を考えてんだ……。 Virgin Snow 10 久しぶりに二人でとる夕食。 といっても、たった1週間たらずだけど。 ずっと会いたかった対象を目の前にして、真一はいつもよりワインの回るのが早いことを自覚していた。 よく動くてろてろと光る唇や、飲み込むたびにこくんと動く首筋など、視界に映るものすべてに煽られて。 しかもその恋人は、彼氏のワイシャツ1枚(+黒カーデ)のベタな姿で、無邪気に料理を頬張っている。 これは何の拷問だ? 「先輩、演奏会はどうでシタか?」 「うん、まぁなんとか……」 「むきゃ?余裕デスね?」 「……そんなことねーよ」 のだめ、完全に充電切れデス。 たった5日間なのに、先輩と別れる前の優しいキスを思い出しては、毎日切なくて……。 先輩の匂いに包まれたくなって、思わず、2週間前にランドリーボックスからお借りした(盗んだ)先輩のワイシャツを身につけて、ベッドにもぐりこみまシタ。 のだめ、うっかり眠っちゃったみたいデス。 目を覚ますと……ふがふが……キッチン方面からとってもいい匂いがしマス! そおーっとキッチンに向かうと、お鍋の前で先輩が腕組みをして目をとじたまま、微動だにしまセン。 ほわぉ……夢にまで見た、本物の先輩デス。 嬉しい! のだめの変態的な行為が先輩にもばれそうになったケド、なんとかごまかしまシタ(いや、ごまかせてないけど) むきゃ?着替えようとしたのだめを先輩が止めて、しかもカデガンまで貸してくれまシタ。 とっても嬉しいケド、どういう風の吹き回しデショ? 食事が始まってからも先輩はとっても無口で、のだめが話かけても不機嫌そうに短く返事するだけ……。 お仕事、うまくいかなかったのでショウか? 「先輩……お疲れでしょうから、のだめ、もう部屋に戻りマスね?」 食事を終え、食器を片付けると、キッチンで食器を洗ってた俺のところへのだめが顔を出した。 「え……もう帰るのか?」 「……だって先輩、口数も普段よりさらに少ないし、ご機嫌もあまりよくないみたいだし……、帰ってきたばかりでお疲れみたいだカラ……」 のだめは真一から目をそらすとうつむき、モジモジとつぶやく。 「……そんなことねーよ。 それともお前、もう帰りたいのか?」 うつむいていたのだめが、顔を上げる。 「……そんなことあるわけないじゃないデスか……。 のだめは……もっと先輩と一緒にいたいデス……」 真一は、さっきまでの不機嫌な顔はそのままに、それでも少しうわずった声でつぶやく。 「……じゃあ、ソファーで待ってて。 今、コーヒー入れるから」 「……いいんデスか?」 「……大丈夫だから、待ってろ」 「はいっ!」 スキップをしながら、リビングに戻るのだめを見送ると、真一はほっと安堵のため息をついた。 真一は自分のコーヒーと、のだめのためにカフェオレを入れ、いそいそとリビングのソファーに腰掛ける。 「ほら、カフェオレ」 「ありがとデス!」 それから二人は、離れていた間に起きた、とりとめのない話をする。 コンヴァトでののだめの学生生活は順調なようで、真一は自分のことのように嬉しい。 のだめはのだめで、プロの指揮者として順調に仕事をこなす真一を、頼もしく誇らしく感じていた。 「本番の日はオリバーが来てくれたんだ」 「ふぉ?オリバーさんって、どんな人デスか?」 「覚えてないか?ジジィが桃ヶ丘から連れ戻されそうになった時にいた、体の大きい、サングラスかけたドイツ人だよ」 「ふぉぉ……あの人がオリバーさんデスか?のだめ、ボディーガードかなにかかと……。マネージャーさんなんデスね?」 「まぁ、ボディーガード兼マネージャー? ああ見えて、結構繊細でいい奴なんだよ……」 会話が途切れる。 二人の手の中にあるカップは、すでに中身は飲み干され空っぽで。 のだめは、自分に向けられている真一からの射るような視線を感じ、ふと顔を上げる。 「……先輩……おかえりなさい」 「……ただいま」 真一は、ずっと触れたかったのだめの唇に唇を寄せる。 空になったカップをとりあげ、サイドテーブルに片付けると、その両手でのだめの柔かい身体をしっかりと抱きしめる。 「なんで電話してこねーんだよ? 焦らせやがって……」 「そんなつもり……」 ふたたび、真一の熱い唇がのだめの唇を塞ぐ。 のだめの腕が、真一の首に絡まる。 真一は左手を、のだめのむき出しのふとももにそっと這わせる。 「あ……せんぱ……」 うわ……なんだよ、赤ん坊みたいなすべすべの肌しやがって。 やばい、気持ちよすぎる……。 真一は夢中で、のだめの肌と甘いキスを味わう。 どうする?このまま進んでしまおうか? のだめは拒否する様子もなく、柔らかな身体を真一に預けて、キスに感じているようだ。 真一はキスをとめ、抱きしめるのだめの身体を優しく撫で擦りながら、耳元でささやいてみる。 「のだめ……俺やめられそうにない。 お前は?まだその気になれないか?」 「先輩……のだめ、決めたんデス……。 先輩が帰ってきたら、のだめのこと……」 のだめは真一の胸に埋めていた顔をあげると、真一を潤んだ瞳で見つめる。 「先輩、のだめのヴァージン、受け取ってもらえマスか?」 11へ> |