芒果布甸/Mango pudding



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5.中環




 「真一クン、少し疲れてたみたいデスね……」


 のだめは、真一との通話を終わらせ携帯をベッドサイドに置くと、さっとシャワーを浴びるためバスルームに向う。


 徐々に覚醒する脳内。
 なぜ自分は真一の声が聞きたくなったのか?電話をして何を確認したかったのか?自分の居場所はどこなのか?
 もやもやは解消されるどころか、のだめの胸に広がり、その濃度を深めてしまった気がする。


 バスルームを出て、身支度をしていると、Ruiが部屋まで迎えに来た。


 「ノダメサン、おはよう!きょうの調子はどう?」


 「バッチリですヨ。今日は何を食べさせてくれるんデスか?のだめ、もうお腹ぺこぺこデス」


 「あははは!さすがノダメサンだネ。
 今日は香港島に渡るヨ。フェリーにのることもできるけど、ノダメサンのお腹の減り具合だと、最短ルートで行ったほうがよさそうだネ」


 「はい。のだめもう限界が近いデス」


 あははは!じゃあ、急がないとネ。Ruiは笑って、のだめの背中を押し、二人は部屋を出た。








 ホテルと接続した駅のモールから地下へ降り、MTRに乗る。早速、昨日空港で購入した八達通を使う。
 日本の自動改札と方法は同じだが、1つ1つの改札が狭く、回転式のバーが行く手を阻んでいるタイプが多い。
 八達通を改札にかざし、腰でグイっとバーを回転させて通る。


 ホームに下りると、広東語の洪水だった。

 MTRを待つ人、携帯で会話する人、ホームのアナウンス。ホームから線路側に向かって立つと、向かい側には広告動画が流れるモニターが並んでいる。


 MTRがすぐにホームに滑り込んできた。
 ぴかぴかのステンレスカラーのボディーに、バーやつり革に赤のアクセントがかわいい。シートもステンレスでツルツルだ。


 ドアの上部には、香港中心部を走るMTRの路線図があり、乗っているMTRが現在走っているところ、停車しているところが、ライトが点灯することにより分かるようになっている。

 車内に目を移せば、広東語でおしゃべりを楽しむ人たち、携帯プレイヤーで音楽を聴く人、携帯を操作している人などは日本と同じだが、堂々と携帯で会話する人が多く、驚く。


 「ぎゃぼっ!車内で携帯使用、オッケーなんデスか?」


 「あー、香港人って日本人以上に携帯ダイスキな人たちなんだよね。完全に依存症?
 まぁ、広東語が話し言葉だから、メールするより会話しちゃいたいってところもあるんだろうけど。オッケーな訳ではないんだけどね、悪いと思っている人が少ないというか……」


 映画見てても、ガンガン携帯鳴ったりして、ビックリするヨ!とRui。それはすごいですね……。


 中環という駅で降りる。地上に出るとすっごい人です!
 昨夜、旺角に帰ってきて見た24時の人ごみもすごいと思ったケド、そんなものじゃないデスね。さすが、世界トップクラスの人口密度デス。


 通りには、狭い歩道を行き交う人々、車道にはバスや車はもちろん、車道の真ん中には、ん?路面電車?


 「むきゃっ!2階建ての路面電車、可愛いデス!」


 「あ、dingdingネ。ちょうどきたところだから、ちょっとだけど乗っちゃおう!」


 「あ、Rui、待ってくだサイ!」


 ちょうど目の前に停車した路面電車『トラム』に乗り込む。MTRの改札同様、回転式のバーを腰でグイっと押して乗り込む。慣れてきまシタね。ふんふん。


 「八達通はピッ!しなくていいんデスか?」


 「うん。dingdingは一律料金だから、降りるときに清算するだけだヨ」


 Ruiに促され、入り口付近の狭いらせん状の階段で2階席に上がる。


 「むっきゃー!視界が高いデス。楽しいデスね〜」


 窓際の席をゲットして、窓を開けて身を乗り出す。


 「あははは!ノダメサン、落っこちないように気をつけてネ」


 「ところで、どしてRuiはdingdingって言ったんですか?この乗り物のコト」


 「この路面電車、トラムっていうんだけど、香港人はみんなdingdingって呼ぶんだヨ。ほら、今から停車するから、音を聞いてて」


 トラムが停車する。


 ”dingding!”


 「あ!今、dingding!って鳴きまシタ!」


 「あははは!鳴いたって、可愛い表現だネ。ね、この音がするから、dingdingって呼ばれてるらしいヨ?」


 「なんだか愛着が沸いて、可愛いデス」


 素朴で古めかしい車両のつくりも、ガタガタとのんびり進む速度も、ノスタルジーを感じる。

 車窓から見える景色は、香港のビジネスの中心街を主張する、超高層のぴかぴかの建物ばかりなのに、不思議な感覚。


 「さ、ノダメサン、美味しいモノ食べに行こうよ!」


 dingdingを降り少し歩いたところ、通り沿いに面した店は狭い入り口が開放され、入り口脇には腰から上がガラス張りで調理場が覗けるようになっており、大鍋で煮込まれているスープが見える。

 狭い店内に通されると、濃厚なスープの匂いに空腹な胃を強烈に刺激された。


 「む〜ん……、ステキな匂いデス。何のお店なんデスか?」


 周囲のテーブルに目を移せば、麺類のどんぶりのような入れ物が並んでいる。
 ん?お皿に乗せられたあの”うまい棒”のようなブツはなんでショウ?


 「うん、この店はネ、お粥の専門店なんだヨ」


 「お、お粥デスか…?
 あのぅ、誠に申しあげにくいのデスが、のだめはとってもお腹が空いているのデス。
 そんな精進料理のような、さっぱりとした味もそっけもない代物では、こののだめの底ナシの胃は満たされないというか……」


 「あははは!まぁ、ノダメサンが心配する気持ちもわかるけど、このお粥を食べたら、ノダメサンのお粥に対する概念が覆ると思うヨ。騙されたと思って食べてみてヨ。」


 テーブルには、漢字で書かれたメニューのようなものがガラスの天板の下に敷かれている。牛とか魚とかは読めますケド、ぎゃぼん、この猪っていうのは、あの猪突猛進なヤツのことですカネ?


 「はぅぅ、のだめは何をどしたらいいのか、わかりマセン」


 「任せてもらっていいよネ!」


 任せるも何も、自分ではどれを選んでいいのか皆目わからないのだから、Ruiに委ねるしかない。

 悪いようにはしないからって、はぅっ!恐ろしいデスね、何食べさせられるんでショウ?


 待つこと数分、中くらいの大きさのどんぶりに、なみなみとお粥らしきものが注がれている。

 2つのどんぶりには違う具がのっているようだ。
 そして、小ぶりのお皿に山のように詰まれたうまい棒のようなブツ。他のテーブルにもちらほらのせてあるものだ。


 「とりあえず、ピータンと豚のレバーの2種類を選んでみたヨ。どっちも私がダイスキでオススメのヤツだから、間違いないと思うヨ?」


 「あのぅ、そのうまい棒のようなブツは?」


 「うまい棒って何?まぁいっか、ヤウティウのコトだね。あげパンみたいなものダヨ。そのまま食べても美味しいし、お粥につけて食べても、ちぎって混ぜる人もいるネ」


 まぁ、まずお粥を一口食べてみたら?とRuiに促され、レンゲですくって口に運ぶ。


 「むっきゃぁぁぁぁーーー!」


 なんデスか?この濃厚な出汁。すきっ腹にも優しい、けどしっかりしたお味。
 これがお粥なんデスか?じゃあ、風邪ひいたときに食べてるあれ、あれはなんだったんデスかね?
 お口の中がレボリューションですヨ!

 豚のレバーだといわれたものも、いわゆる腎臓と肝臓の2種類の肉が入っているようだ。 店のおばちゃんに、肉はタレにつけて食べろといわれる。


 「むぅ〜ん、美味しいでしゅ。幸せぇ〜あへぇ〜」


 朝からあまりの美味しさに脳がとろけそうデス。
 Ruiが食べているピータンも頂いて、おいひ〜い!こっちもいけマスね?
 のだめ、あっという間に完食しまシタ。おかわりしたいデス!!


 「ほ、ほんとに?じゃあ、違う味にスル?」


 ちょっと引き気味のRuiに、うまい棒(ヤウティウ)をガツガツかじりながらうなずく。 これもなかなか、ジャンクなおやつ感覚でいいっすネ。あ、具はRuiにお任せしマスよ?


 うまい棒を平らげ、おかわりに出てきたのは牛筋肉を揚げた具の乗せられたお粥。おいしいっ!
 中くらいのどんぶり2杯を平らげ、食いしん坊の香港人のおばちゃんたちにも驚かれマシタ。ゲハ。


 店を出て、腹ごなしに歩く。


 「ノダメサン、ちょっとお願いがあるんだよネ?」


 「なんデスか?」


 「今日、香港島に来たのは、さっきのお粥とか、お昼の飲茶とかもあるんだけど、お昼まで時間があるじゃない?買い物したいんだけど……」


 付き合ってもらえるかナ?ね、いいよネ?
 絡めた両手をあごにあて、ウィンクをする。Ruiおねだりのお決まりのポーズが出た。


 「も、もちろんデスよ?美味しいモノ、いっぱい頂いてマスからね、のだめもRuiにお返ししないと」


 じゃあ決まりネ!Ruiは颯爽とショッピングモールに向かい、歩きだした。





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