芒果布甸/Mango pudding



■top>>>
■長編 index>>>
■SS index>>>
■About Hongkong>>>
■About site,About me>>>
■備忘録>>>
■link>>>





6.湾仔



 中環にある、大きなショッピングモールをRuiに引きづられるように歩きまわり、有名ブランドから香港のデザイナーズブランドまで、ショッピングしまくる。


 13時をまわったところで、のだめから、お腹が空いてもう歩けマセン!とギブアップの声があがり、二人は湾仔にある飲茶レストランにやってきた。


 ここは香港の有名なレストランチェーン『美心グループ』の経営するお店。ランチ時は大人気で行列ができるが、店内は広くテーブル数も多いので、30分ほど待つと席に通された。


 席についたら、お茶をオーダーして、あとはひたすらワゴンで運ばれてくる飲茶を好きなだけとって食べる。


 これならメニューを読む必要はないから、のだめでも食べられマスね。


 この透き通るように白い、ウェッティーなクレープ包みみたいなのはなんデスか?腸粉?ムハー!このとぅろっとぅろ、ぷりゅんぷりゅんの皮の食感が最高デス。
 中に入っている蝦がプリプリでっ、とぅりゅんっ、ぷりんっ、て口の中の緩急がたまりマセン〜!

 ふわっふわっ、ジューシーな叉焼包うんまいっ!
 もぅっ、ワゴンごと買い取りたいくらいデス!うわ、このワゴン、全部叉焼包?専用車?シャー様みたいな?


 ぎゃぼっ!鶏さんの手というか足というか、とってもリアルなんですけど……、ってしゃぶりついたら、離せないくらい旨いじゃないデスか!?
 このグロさには目をつぶって余りある旨み。はぅん、コラーゲンもタプリで千秋先輩も喜びマスよ、きっと。


 のだめはワゴンが通るたび、蒸篭でもお皿でもどんどんピックアップしては、お腹におさめていく。そのたび、見た目も美しく美味しい点心たちに、感嘆の声をあげた。


 「ふぃ〜、さすがに満腹デス。もう、食べられマセン」


 「ノダメサン、どう?満足した?」


 「大満足デスよ〜!飲茶って、天国みたいなとこでシタ。あへぇ〜」


 二人の座る席は、全面ガラス貼りの窓際で、建物の目の前に広がるヴィクトリア湾を見渡すことができる。


 さっぱりとしたポーレイ茶を飲みながら、満足そうにお腹をさするのだめ。


 「ぷっ!あはははっ!」


 「むきゃ?Ruiどうかしましたか?」


 「ノダメサンって、ほんと不思議な女性だネ。黙ってればキュートでチャーミングなのに、こうして喋ったり動き出すと元気いっぱいで、動物的というか、変態っていうか」


 「ぎゃぼっ!」


 「それであの魅力的なピアノだもん。千秋が夢中になるのもわかるヨ」


 「むむ、なにやら照れマスね」


 なんの作戦デスか?のだめ、おごったりしマセンよ?
 照れながら、茶化すのだめに、Ruiが真剣に語りだす。


 「実はワタシ、パリのコンセルヴァトワールに留学したとき、ピアノから離れるつもりだったんだよネ」


 「……え?」


 「ピアノやママから離れたくって、でも演奏活動休止するには、留学を理由にするしかなくて」


 「そうだったんデスか……。」


 「それでもやっと認めてもらって、これで普通の女の子として遊んだり、恋愛したりできるって、すごく楽しみにしてたんだけど……。」


 Ruiは、当時の気持ちを思い出してるのだろう、窓からのヴィクトリア湾の美しい景色を眺め、ふぅーっと息を吐いた。


 「ほらマルレに、チェレスタのトラでのったあと、千秋のこと、ママに誤解されたじゃない?
 あの時、二人にとても迷惑をかけちゃったから、翌日、ママに連れ戻される前に、ワタシ謝ろうと思ってアパルトマンまで行ったんだヨ」


 そこで聞いちゃったんだよね、ノダメサンのピアノ……。


 Ruiが小さく呟く。
 のだめは黙って、Ruiの言葉を待つ。


 「嫉妬したんだよネ。」


 「シット……デスか?Ruiが?のだめに?」


 のだめは、Ruiからの意外な告白に、驚いて言葉も出ない。


 「そう。ノダメサンのピアノに。
 ワタシみたいに、幼い頃から音楽漬けの生活を送ってきたのでもなく、普通にお友達がいて、恋愛もして、楽しんでいて。
 そして特別な音を持ってるノダメサンのピアノに」


 そこまで話すと、Ruiは視線をのだめに戻し、微笑む。


「でも、そのおかげで今のワタシがあるんだと思う。
 もう一回ピアノ頑張らなくちゃって思えたから。
 だからね、一度ノダメサンにお礼がしたかったんだヨ」


 あははは!ちょっと恥ずかしい話しちゃったヨ〜、と笑うRuiに、のだめは真剣な視線を向ける。


 「のだめだって……。のだめだって、Ruiには数え切れないくらい、嫉妬してマスよ?」


 「え?」


 「最初にRuiに嫉妬したのは、千秋先輩が上海デビューした時の、コンチェルトの相手としてでシタ。あの時、のだめは千秋先輩と距離も立場も遠く離れていて。
 Ruiの超絶技巧をDVDやCDで何度も何度も繰り返しチェックしては、コピーしてピアノを叩きまくりました。ヨーダに聞かせたら、『ベーベちゃん、何しに来たの?全然ダメ』っていわれましたケドね」


 ふぃ〜、あの時はつらかったデスね。のだめは寂しそうに笑う。


 「そもそも、のだめがミルヒーとのコンチェルトでデビューしたのだって、Ruiのおかげなんデスよ?」


 「え?」


 「のだめ、千秋先輩とRuiのラヴェルのピアノコンチェルトを聴いて、『もう頑張るのやめちゃおう』って思ったんデス。あれも嫉妬でしたね。Ruiに嫉妬して、何もかも嫌になって、やけくそだったんです」


 「やけくそで巨匠とデビューって、ちょっとムカツクけど……」


 「まぁ、『隣の芝生は青い』ってことですカネ?」


 「え、なにそれ?」


 「それはデスね〜、隣のご主人は園芸が趣味で、マメに手入れをしているから、芝生が青々して綺麗なのに、うちの旦那ったら休みは寝てばっかりで、家のことなんかなんにもしてくれないのヨ?という、人のご主人は自分の旦那より、ちょっとばかり良く見えるっていう奥様の愚痴?」


 「うーん、なんかよく分からないけど、きっととんでもなく間違ってるのよネ」


 「むきっ!Ruiってば、人に聞いておいて失礼デスね!」


 ふたりは、お互いの胸の奥にしまい込んでいた、懐かしいような、ちょっと恥ずかしい部分をさらけ出して、すっかりココロが軽くなっている気がした。


 それによって、今まで以上に素直に、もっとお互いを奏者としてリスペクトして、友達とはちょっと違うけど、少し深い関係に踏み込んだのかもしれない。




<5.中環へ

7.尖沙咀へ>