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7.尖沙咀 少し日が傾いた頃、二人は店を出ると、すぐ近くにある埠頭に向かった。 「ノダメサンっ!飲茶も大満足で、ガソリン満タンだよネ?」 「またなんデスか? そのおねだりポーズ、見飽きまシタよ?」 ここからフェリーに乗って、九龍に渡るというプランには大喜びだが、また買い物に付き合わされるというのにはウンザリする。 「だってぇ、アジア最大のLOUIS VUITTONなんだヨ。行かないで後悔するより、行って後悔しようヨ。」 LOUIS VUITTONなんて、パリでいくらでも見ているはずなのに、Ruiのショッピング熱にも困ったものだ。 フェリーにも八達通で乗ることができる。 ちょっと割高の上層に乗り込む。気持ち良い潮風を受けながら、夕日にきらきら照らされる香港島の高層ビル群が美しい。 「はぅん、気持ちいいデスね」 15分ほど乗っていただろうか、到着したのは九龍一番の繁華街、尖沙咀(チムサーチョイ)。 Ruiは人混みの中を、慣れた様子ですいすいと進んでいく。 「ちょっ……、Ruiってば、待ってくだサイー!」 アジア最大のLOUIS VUITTONで、のだめはたっぷり2時間Ruiの買い物に付き合わされた。 午前中に大量購入した荷物の番をさせられ、店内に備えられた良質のソファーに手持ち無沙汰に座っているしかなかった。 「ひゃーーーー!楽しかったヨ」 Ruiは両手いっぱいに戦利品をぶら下げ、疲れなどまったく見せず上機嫌。 もちろん、一人で持ち切れない荷物はのだめが持つことになる。 香港人っぽい街歩きが聞いて呆れる。 おもいっきり、どこからどうみてもお買い物目当てのツーリストではないか。 ノダメサンも買えばよかったのに。パリの店で買うより安く買えたヨ?ほら、千秋のお土産とかさ。 「千秋先輩はオシャレさんですカラ、身につけるものとかは自分のこだわりのものじゃないとダメで」 「ふうーん、そうなんだ」 「それよか、その大量の荷物、どするんですか?一度ホテルに戻って置いてきマスか?」 「ん?無問題! この近くに、馴染みのお店があって、そこで預かってもらえるから。 夕飯もそこで食べるヨ」 「むきゃっ!今日の夕飯はどんな美味しいもの食べさせてもらえるんデスか?」 ふかひれ?燕の巣?楽しみデスね〜!と、すでによだれを垂らさんばかりののだめを盗み見て、Ruiはいたずらっこのように笑った。 「ニセモノ トケイ ヤスイヨ?」 「がぼん……、危険な匂いがしマス……」 Ruiに連れて来られた場所は、怪しい雰囲気満載のビルだった。 エントランスを入ると、両脇に何軒か並ぶのは両替商。 ブランド物の買物袋を両手いっぱいに下げたRuiたちは、客引きの格好のターゲットのようで、先ほどからのだめは、インド人のニセモノ時計屋にまとわりつかれ、片言の日本語で話し掛けられ、固まっていた。 「これからローカルなものも食べるから、香港ドルが必要だヨ。カードが使えないからね。ここの両替商はレートが格段にいいんだヨ」 インド人にまとわりつかれたまま、のだめはRuiについていくしかない。 Ruiが両替をしている間、辺りを見回してみる。 ビルの内部は細かく仕切られていて、デジカメやムービーなどが積まれた電化製品を置いている店や、DVDやCDなど、メディア類を扱うお店が目につく。 ローカルの香港人らしい人たちや、外国人旅行客もちらほらいるが、店員やうろついてるのもインド系の人たちばかり。 「……ここはリトル・デリーですカ?」 「あははは!そうかもネ。 ここは重慶(チョンキン)マンションっていって、インド系の人たちのルツボなんだよネ。 今日も、そのうちの一つの美味しいカレー屋さんに行くヨ」 カレー?何故に香港で、リトル・デリーで、カレー……。 のだめはわけがわからないまま、Ruiに引きずられ、魔窟へと足を踏み入れた。 今にも止まってしまうのではないか、閉じ込められたらどうしまショウ? そんな不安を無意識に感じてしまうようなエレベータで上昇。 目的階に到着し、扉が開くと、途端にスパイシーな匂いが鼻につく。 そこはまさしくインドであった。 怪しい通路をすいすいと進むRuiにぴったりと引っ付いてたどり着いたのは、オープンスタイルのカレー店。 Ruiが店内に英語で呼びかけると、気づいた店員がぱぁっと笑顔になり、二人は再会を喜ぶようにハグをする。 店員は、何も言わなくとも、Ruiとのだめの持っている大量の荷物を受け取り、店の奥に引っ込んだ。 「ここはね、店構えこそオープンスタイルでファストフードみたいだけど、味は本格的だからね、期待してくれていいヨ」 店の奥から戻ってきた店員が、Ruiに親しげに話しかける。ひとしきり話したあと、Ruiがのだめを紹介したようだ。 店員は、のだめを見て、 「コニチワー」 と、日本語で挨拶をしたので驚いた。 「ラジョさんは、料理の修行で世界各国を訪れてるんだヨ。 日本でも暮らしてたことがあるんだよネ?」 「ハイー!ニッポンの秋葉原でカレー屋さんしてたことアルネ」 「むきゃっ?!アキハバーラ?ナマステー!」 インド人ラジョさんから、懐かしい日本語が飛び出し、不思議な重慶のインドテイストにもテンションが上がる。 食事は、本場インドのカレーを経験したことのあるのだめも大満足の味で、さくさくのドーサや、ココナッツの甘みが美味しいオリジナルナン、マトンのカレーはトマトの酸味が癖のある匂いをうまく消して、柔かく煮込まれたマトンを引き立てている。 「ラジョさん、とっても美味しいデス!」 むはー。デリーで食べたカレーもおいしかったデスけど、重慶のカレーも負けてマセンね。香港、恐るべしデス。 |