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4.Miami 「何故に海……」 千秋真一は、コーディネーターに連れられ、マイアミのビーチにいた。 なんだこれ?おもいっきり既視感。 ブラジルのビーチをあの時の焦りとともに思い出し、青ざめる顔、額には嫌な汗が浮かぶ。 最近、いろいろな事を思い出す。 一年前、常任としてのマルレの仕事以外は、無期限でヴィエラのもとで勉強をしたいと宣言。 エリーゼとそれこそ命がけの交渉をして、掴み取ったのはほぼオフの存在しない生活。(結局全敗) パリで常任の仕事が終わるとイタリアのヴィエラの元へ行ってはオペラの勉強。ヴィエラの仕事がオフになると同時に、ヨーロッパ、北米、アジアと文字通り世界各地に客演へ出かける日々。 のだめとは半年前、マルレの定期公演のためにパリに帰った際、一緒に過ごしたのが最後だ。 追いかけられていたはずが、いつしか追いつかれ、気づいた時には軽く手の届かないところまで追い越されていた。 「俺がウサギで、アイツが亀?」 最近、無意識に語尾が疑問形の独り言を発している。 のだめがシュトレーゼマンと衝撃のデビューをし、その後いなくなってしまった時、自分の将来にはのだめが必要だと思い知らされたし、それ以外の選択肢などありえないのだし、だからこそ1年前に決意した際、『約束』という言葉を口にしたわけで。 だからといって世界のNODAMEになったアイツと、今はのんびりと甘い恋人の時間を過ごす気分にはなれない。がむしゃらに音楽に没頭するしかないと焦る。 「また見失ってるか?俺……」 やっとホテルの部屋にたどり着き、不快な潮の感触をシャワーで洗い流し、腰にバスタオルを巻いただけでベッドに横たわる。ライトなビールを一気に飲み干すと、携帯が着信を知らせてブルブルと震えた。 「……おぅ、久しぶり」 想い人からの着信。 疲れた身体に一気に入ったアルコールのおかげもあって、想いはあふれてこぼれそうになる。 「千秋先輩、今どこデスか?」 相変わらずの、舌足らずな甘い声に、敏感な指揮者の耳が、感じて、身体が微かに震える。 「さっきマイアミに着いて、やっとホテルで一息ついたとこ」 「むきゃ!?マイアミですか?」 オイ。カノジョのくせに、同じ音楽家のくせに、カレシのスケジュールも把握してないのかよ……。 あぁ?CSI?ホレイショ・ケインって誰だよ! 「お前は?音楽祭、どうだった?もうパリに帰ってるのか?」 「えと……。なかなか刺激的デシタ。お客さんもすごく盛り上がって……。とっても楽しかったデス」 「ふぅーん」 コイツの生のピアノも、だいぶ聞いてないな……。 「なぁ……、今、部屋にいンの?」 「……のだめ……。部屋……に、いるンですカネ?」 「……はぁ?」 「えとデスネ……、部屋にいることはいるんですが……、部屋は部屋でも、部屋違いというか……」 「はぁ?何いってんのか相変わらずわかんねーな。ていうか、ちょっとピアノ聞かせてほしかっただけなんだけど……」 いつも自分を救ってくれる、のだめの魔法の鈴の音。 ”なぁ、ダメ?” 真一は、のだめの好きな、低くて、微かに掠れた声で囁く。 「はぅん……。シンイチくんからのカワイイおねだりには、出来ればお応えしたいのデスガ……、何しろこの部屋にはピアノがないデスし」 ゴメンナサイ、と呟く声に、自分を上目遣いで見つめる、大きく揺れるのだめの綺麗な瞳が脳裏に浮かぶ。ヤメテクレ。 「……お前いまどこにいるンだよ?」 できることなら、今すぐこの腕に抱きしめたい。 「せんぱ……のだめ、今どこにいるンでショウ?のだめの居場所ってどこですカネ……」 のだめが消え入りそうなか細い声で呟く。 「オイ……。いい加減にしろよ?」 時折のだめが見せる、儚い、放っておけなくなる、決して打ち勝つことのできない、真一だけに絶対的な存在感を訴える感覚。 マジで迷子とかじゃねーよな?と不安に胸が押しつぶされそうになる。頼むから、また俺の前から消えたりしないでくれよ。 そんな真一のイラつきと焦りが伝わったのか、のだめが声を絞り出して、答える。 「えと……、ホンコン?」 「……はぁぁぁ?!ホ、ホンコンって、それ、国の名前言ってンのか?どこのホンコンの事だよ!」 「はぅっ!伝わらナイ?のだめ、またなんか間違ってますカネ? つまりその……東洋の真珠と呼ばれていて、カンフーアクションといえば世間的には成龍(ジャッキー・チェン)や李小龍(ブルース・リー)ですが、のだめ的にはデブゴンこと洪金寳(サモ・ハン・キンポー)で……」 やっぱり、あの身体であのキレはただ者ではないというか、天下一武道会でも大活躍間違いナシですヨネ? 「……国なんだな?」 「えぇ?国っていうか、香港特別行政地区っていうらしいデスよ?」 「いっぺん死ね!」 前言撤回。今すぐこの手で首を絞めたい。 「音楽祭でRuiと一緒になって……。予定がないなら、遊びにいかないかって誘われたんデス」 「Rui……。オマエらそんなに仲よかったか?」 「……イイエ?」 うっ……。やっぱり変態の行動は理解不能だ。 「Ruiと二人で香港なんか行って、何してんだよ?」 「ゲハ。それがですねぇ、昨日の午後着いたばかりなんデスが、郊外の海鮮街に連れていってもらって、それはそれは美味しいモノをお腹いっぱい食べさせてもらいマシタ! 近くにある有名なスイーツのお店にも連れていってもらって、のだめ、あんなに美味しいマンゴーを食べたの、生まれて初めてデスよ〜!」 今まで食べてたマンゴーってなんだったんですカネ?バッタモン?今日もこれからいろいろと美味しいもの食べに連れていってもらえるみたいデスよ? 「なんだよそれ。ピアニスト二人で食べ歩きかよ」 「なんだかRuiが言うにはお礼なんだそうデス。 でも、すんごく楽しいデスよ?」 先輩、のだめこれから一ヶ月ほどのオフ、楽しむことにしました、と、のだめがぽつりと呟く。 「あ……、それもいいンじゃねーか、たまには。このところ忙しかったし、大きな仕事も多かったしな」 自分は3日後にマイアミで公演本番、そのあとはヒューストンに移動してまた5日間、そのあとは……。 移動と移動、仕事の合間ちょっとでもいい、時間あったら逢いに来い……。 伝えたい言葉は、気持ちは、今は素直に言葉にすることができない。 「先輩は?順調デスか?マイアミってビーチの近くなんじゃ……」 ぎゃぼっ!やっぱり海恐怖症も妻の愛タプリな催眠療法で治しておいたほうが…。 夫の真一クンには、世界のマエストロとして7つの海をまたにかけて活躍していただくわけですカラ! 「誰が夫だ。大丈夫だから。 移動にも、だいぶ慣れたし」 久しぶりのボケに定番のツッコミをいれ、こぼれそうな気持ちになんとか蓋をした。 「ほら、俺あした朝早いし、もう寝るぞ」 「ぎゃぼっ!そっちは今何時デスか?」 「もうすぐ23時になる」 「はぅぅ、ゴメンナサイ」 「いいけど。あんまり食べすぎンなよ?」 「了解デス!」 「じゃあ、Ruiにもよろしく」 「はいっ。先輩も公演、頑張ってくだサイね!」 「うん、サンキュ」 携帯を切り、ベッドの上で横になったまま伸びをする。 「……逢いてーなぁ……」 さっきまで携帯から聞こえていた、のだめの甘い声に抱かれたまま、千秋はそのまま目を閉じ眠りについた。 |