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12.私房菜 1 テーブルにつくと、Ruiが持ち込んだ白ワインがグラスに注がれる。 「まず乾杯しようヨ」 「はいっ!」 二人はにこやかに、グラスを気持ち掲げると、 「香港に!」「二人旅に!」 と、それぞれ口にした。 「ノダメサン、初めての香港一人歩きはどうだった?」 「Ruiのおかげで、大成功でシタ! 博物館には3時間もいたんデスよ?驚くことばっかりで、すっごく楽しかったデス。 そのあと、偶然通りかかった尖沙咀の市場を探索して、おいしい肉団子麺を食べマシタ! 麺も美味しかったけど、市場もなかなか楽しかったデスね〜! そうそう、裕華でソフビのツボ模型を買ったんですヨ?ホテルに戻ったら、この模型を見ながら、Ruiのツボも押してあげますヨ?」 いや、いいから!丁重にお断りするRui。 「最後に上海灘に行ったんですが、もぉ〜店ごと欲しくなっちゃいまシタよ! 部屋履きとガウンを買って、自分にもご褒美でドレスを1着買っちゃいまシタ!」 え、どんなの?あとで見せて!と、ショッピング話で盛り上がっていると、さっそくカーリンからの一品目が運ばれる。 美しいガラスの器はほんのりと冷やされている。 器の底には色とりどりの野菜がさいの目にカットされて宝石のよう。黄金色で透き通っているのは、なにかのゼラチンのようだ。 その上に、半透明で黒っぽい麺状のものが、葱の千切りと和えられて乗せられている。 ひとくちすくって食べてみると、麺状のものは、ぷりぷりとほどよい弾力と、こりこりとした歯ごたえもある不思議な食感。ごま油風味のソースがかけられていて、葱との相性がとてもよい。 「これ、ナンデスカ?食感が面白くて、とてもおいしいデス!」 「これは生魚皮(さんゆーぺい)だね。 普通はこんなふうに麺状にはカットしないけど、カーリンの手にかかるとさすがだネ、とっても美しい」 「はい?さんゆーぺいって、ナンデスカ?」 「ああ、ごめんごめん。魚の皮だヨ。 白身魚の皮をうすーくはいで、さっと湯通ししただけのシンプルな料理だけど、めちゃめちゃ美味しい」 「ぎゃぼっ!想定外の素材でシタ……」 でも、とっても美味しいデス。カーリン、なかなかやりマスね? 「炸魚皮(ざーゆーぺい)っていう、魚の皮に衣をつけて揚げたのもあるんだけど、これがまた美味しいんだよねぇ〜! スナック菓子みたいにそのまま食べるのもいいし、麺のスープにつけて食べるのも……」 「はぅん……それも美味しそうデスね。今度はそっちをお願いしマス」 続いて、出されたのは白いシンプルな器に、レースのような被いがかぶせられたスープ。 「むむ、これはナンデスカね?」 サクサクとした被いを、もったいない気もするが、スプーンで壊して口に運んでみる。 「うん、ジャガイモだネ。ほそーく切ったものを編んだように成形して揚げてあるんだネ」 被いの下には、黄金色に澄んだ美しいスープ。 さらりとしたスープは鶏と野菜のうまみがしっかり溶け出していて優しいお味。 控えめに沈められたキヌガサ茸の食感と一緒に楽しむ。 「ほわぉ。シンプルだけど、口に入れるといろいろな素材の味がして、アンサンブルのようデスね。包み込むような優しい美味しさデス!」 ふたりは、ひとくち、ひとくち、大事そうにゆっくりと口に運んでいった。 「そうそう、今日ノダメサンとホテルで分かれてすぐ、千秋から電話があったんだヨ」 「ぎゃぼ、千秋先輩。そういえば電話があったんでシタ。忘れてました……」 「あははは!冷たい恋人だネ。 昨日の夜、遅くに電話したのに出ないし、朝も連絡がないからって、千秋とっても心配そうだったヨ。今日は電話してあげたら?」 「心配……、デスかね?」 「心配っていうか……、だって半年も逢ってないんでしょ? 久しぶりに電話があったら、恋人はワタシなんかと香港にいるっていうし、いろいろ思うところがあるンじゃない?」 「いろいろ……、のだめのことで思い悩む千秋先輩って、のだめには想像つきまセン」 Ruiはへぇ?という表情で、面白そうに片方の眉をあげた。 「ワタシには想像つくな。 だって、ノダメサンがロンドンから突然いなくなった時のこと、ターニャーとか、フランクから色々聞いたし……」 気のせいか、『フランク』と言ったRuiの顔が赤らんだ気がする。 「ほぇ?どんな事デスか?」 「それはさぁ、ノダメサンがいなくなって、身持ちを崩すほど悩んだ千秋とか、みんなに毎日のようにメールや電話をしてきて、ノダメサンからなにか連絡はないかって、そりゃーしつこかったって」 あははは!黒木クンあてのメール、誤字がひどかったって聞いたヨ。あの千秋がねぇ。 「そうそう、この前、ニナと一緒だったマサユキ・チアキに初めて紹介されたんだけど、『NODAMEってどんなヤツだ?』って興味津々だったよ。 やっぱりノダメサンが失踪中に千秋からいろいろ相談されたらしいヨ。千秋とマサユキ・チアキって、和解したの?」 「え?先輩がお父さんに?」 失踪中って……。 のだめはちょっと旅に出てただけデスよ。 でも思い起こしてみれば、あのころのことを、千秋からまったく聞いていなかったことに気付く。 真一クン、血迷って雅之さんに相談しちゃうくらい、のだめとっても心配かけちゃったんデスね…。 スープ皿が下げられ、新しい料理が運ばれてくる。 「うわぁーーー!ガチョウのロースト!これが食べたかったんだよねぇ〜」 大きなお皿に、堂々と乗せられて出てきたのは、ツヤツヤの照りで眩しいくらいのガチョウのロースト。 「ノダメサンも、とにかく食べてよ!いただきまーす!」 「むきゃぁーーーーーー!」 はぅはぅ。のだめにこんなに美味しいモノを食べさせて、どうしようっていうんデスか? このテリテリで甘ーい皮はぱりっぱりで美味しいし、そのくせ皮の下の身はすぐにほぐれてなくなりそうなくらい柔らかくて、じゅわっと出てくる旨みがたまりマセン! ガチョウのローストと一緒に、小さな木製のお櫃があり、ご飯が炊きあがっている。 小さな器に入れられた液体が2種類、Ruiにより注がれ、さっと混ぜ込んでお碗に盛られたものが添えられる。 「あの……。これは?」 「猪油撈飯(じゅーやうろうふぁん)っていって、ご飯に猪油(ラード)と老抽(しょうゆ)をかけただけなんだけど、まぁ食べてみてよ」 そういって、Ruiはお碗にガチョウのローストもひときれのせ、ご飯と一緒に口に運び、満足そうな笑みを浮かべた。 のだめはまず、ご飯だけ食べてみる。 「む〜ん、う、うまいデス……」 香港のご飯は、日本の白米と違いぱさぱさなので炒飯にはよいが、そのまま食べるのは日本人的にはイマイチ。 でも、このラードかけご飯は、ぱさぱさのおコメとうまく絡み合って、絶妙である。 素朴な美味しさで、峰パパの裏軒マーボを思い出しマスね。 ふたりは、にこにこしながら、美味しい、美味しいと夢中で食べる。 満足したRuiがワインを飲みながら、夢中で食べ続けるのだめを楽しそうに見つめる。 「ノダメサン、ワタシね、千秋に恋してたんだヨ?」 |