芒果布甸/Mango pudding



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10.一個人行街 2



 のだめはホテルを出ると、MTRで尖沙咀にむかった。最初の目的地は香港歴史博物館。


 「ほわぉ、たった10ドルって100円ってことデスか?」


 破格に安い入場料を支払い、順路にそって地下へ降りると、


 「がぼん……4億年前からスタート……」


 4億年前の香港から、歴史はスタートする。今日中に見終わることができるのか一抹の不安を覚えつつ進む。


 入り口付近には、香港の自然生態環境を紹介する、地層の模型や化石の標本。
 いかにも博物館ぽいが、そこをすぎると突然、目の前にジャングルが現れた。


 吹き抜けの広い空間に、小鳥のさえずりが聞こえる。
 キツネを狙うトラ。木の上の蛇を狙うクマ。
 はぅん、ぜひ虎柄の腰布だけ巻いた、真一クン人形も展示して欲しいデス。


 ジャングルを抜けると、海辺で生活する原始人たち。6千年前の石器時代の人々の生活が再現されている。
 むきっ、真一クン人形は、海辺には置けませんネ。残念。


 民俗文化を紹介するエリアは、古い時代の住居や水上生活者のジャンク船、お寺などが実物大で再現されている。


 各地のお祭りの様子や、京劇の風景、当時の婚礼の様子など、建物だけではなく、当時の着物を着たマネキンが実際に小物をもってポーズをとっていて、今にも動き出しそうだ。


 圧巻だったのは近代香港の街をそのまま再現したエリア。


 古き良き時代の街並みには、銀行、郵便局、薬局、テーラー、喫茶店に写真館、果物屋のおじさんが怒鳴りながら飛び出してきたり、通りにはもちろん実物のトラムも走っている。


 レトロな街並みプラス、音声による演出もされていてなかなかニクイ。小物にも当時の実物が使われていて、タイムスリップした気分になる。


 「ふぃ〜、やっと現代に帰ってきました。楽しかったデスね」


 大満足で博物館を出れば、入館から3時間も経過していた。さすがにお腹が空きまシタ。









 とりあえず、駅の方角を目指し、ぶらぶらと歩きだす。


 ここは繁華街で、食事を提供する店はいくらでもある。
 しかし、たくさんあるからこそ、どこに入ったらいいのか悩むところでもある。


 食事する店をきめかねて、ふらふらと歩くうち、ふと覗いた路地の先に市場のようなものが見える。
 なにやら食欲をそそる匂いもするようだ。のだめは自分の動物的直感にしたがって、細い路地を進んだ。


 路地の先には、薄暗い中に、オレンジ色の柔かい照明が並ぶ、市場がひろがっていた。
 びっしりと食材を売る店が連なっている。野菜、果物、魚、肉。乾物や、得体の知れない瓶詰めが並べられた、怪しげな店もある。


 しかし、そのほとんどは、人のよさそうな店主が主婦たちを相手に商いを行う見慣れた風景であった。


 「ほわぉ……。パリのマルシェを思い出しマスね」


 日本の商店とは違い、むき出しの食材が色とりどりに並べられ、肉屋の店先には、美味しそうな鶏の丸焼きがずらっと吊るされている。


 「パリのチキンも美味しいデスが、香港のチキンも負けてまセンね」


 のだめは口元に溢れてきたよだれをぬぐった。


 「思い出しマスね、祝サロンコンサトで、千秋先輩衝撃の独立で、ノクターン……」


 はぅっ!のだめはなにやら思い出し、顔を真っ赤に染め、足早に肉屋を通りすぎた。


 「むきっ!なにやら美味しそうな匂いがしマス!」


 食材を売る店と店の間に、麺だろうか、美味しそうなスープの匂いを漂わせる屋台があった。


 休憩をとる店員や、買い物途中の主婦などが、店先のテーブルで美味しそうな麺をすすっている。


 「ココデス!」


 のだめは、店主に身振り手振りで他の客と同じものを注文し、遅い昼食にありつく。


 シコシコの細めんに、ぷりっぷりの肉団子。とても大きな肉団子で、5つ麺の上にのっているが、大きな器を塞ぐほど。
 ひとくち噛りつけば、ぷりぷりの弾力にジューシーな肉汁が溢れ出る。


 「むっきゃぁーーーー!」
 

 奇声をあげてうれしそうにかき込むのだめに、最初は冷ややかな反応だった周囲の香港人たちも、あまりののだめの喜びように、うれしそうに微笑む。


 言葉はわからないが、『旨いか?』と聞かれた気がして、『美味しいデス!』とにこやかに答える。


 「オイシイ〜!」


 「むきゃ?オイシイ〜?わかるんデスかね?」


 香港人にも日本語の『おいしい』という言葉が浸透していることを知ったのは、だいぶ後になってからだったが。


 麺を2杯たいらげ、サービスで『ヤウチョイ』という青菜の油炒めも頂き、(めちゃウマでシタ!)、さらに市場を進んで、『ガーイダンジャイ』というカステラボールのような焼き菓子もゲットして、袋を抱えて頬張りながら探索を続け、市場の店が途切れるころにはお菓子も完食して、満腹になった。
 駅に向かう大きな通りに戻りつつ、途中のジューススタンドで喉を潤し、今度はチャイニーズテイストのショッピングにむかう。









 尖沙咀からMTRに乗り一駅、佐敦駅(ジョーダン)で下車。


 Ruiから聞いた、裕華國産百貨という中国系デパートへむかう。


 定番のシルク製品や漢方薬、茶器や小物売り場をスルーして、最上階へ。
 ここは、チャイニーズ不思議ワールドが売り場いっぱいに広がっていた。


 京劇グッズやカンフーグッズにもかなり惹かれたが、やはり目をひきつけたのは東洋医学用品売り場。
 昨夜の『足ツボ初体験』で東洋医学の神秘を実感したのだめは、ツボおしグッズにひきつけられる。


 「ぷっ!ぎゃはぁーーー!」


 驚いた。ソフビ製のツボ模型。人体ならまだしも、犬猫から豚、馬まである……。
 動物たちの体には、ツボの位置と、その名称が書き込まれている。


 「ほ、ほしいデス……」


 しかし、パリのアパルトマンに持ち帰っても、真一に見つかって叱られるのが関の山だと物欲にストップをかけ、無難に手と足(もちろん人用)のソフビつぼ模型を購入する。


 「これで真一クンをメロメロにしちゃいマス。ゲハ」


 キッチュなチャイナグッズを手に入れ、ご満悦で次の目的地へとむかった。 





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