芒果布甸/Mango pudding



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9.一個人行街 1



 翌朝、目覚めると時計の針はすでに10時を回っていた。


 さっとシャワーを浴び、携帯にRuiからの着信がないかチェックすると、思わぬ人からの着信があった。


 「せんぱい?」


 千秋とは一昨日電話で話したばかりだ。
 二日と空けずに電話してくるなんて、真一クンにしてはめずらしいデスね?


 マイアミは今ごろ24時過ぎのはず。
 もう遅いだろうから、明日の朝にでも早起きして電話してみよう……。








 Ruiと朝食にむかう。
 今朝はホテルのビュッフェで簡単にすませて、お茶をしながら街歩きのアドバイスを受ける。


 のだめの希望は、香港カルチャーを感じる場所に行きたいというもの。


 「まず、オススメは香港歴史博物館だネ。博物館っていっても、ただ展示物を見るだけじゃなくて体感する感じなんだよネ」


 香港の太古の時代からスタートして、近代香港までの歴史と文化が再現されているのだという。


 「お台場小香港のデラックス版っていう感じかナ。1日いても飽きないと思うヨ?」


 昨日行った尖沙咀にあるのだという。まずここを目的地の一つにする。


 「あとは、チャイニーズテイストのお買い物なら、裕華(ユウワー)っていうデパートがいいね。
 もっとハイセンスな雑貨ならGODとか、上海灘(シャンハイタン)とか」


 上海灘はシルクのお店だが、お洋服だけではなく、小物からインテリア、クッションやリネンなどもオシャレでオススメだという。


 「モノがいいぶん、ちょっとお高いけどネ」


 「あと、旺角には信和中心っていうビルがあるんだけど、ここはオタクビルって言われてて、日本のコミックとか、アニメとか、キャラクターグッズとかを扱うお店がごちゃごちゃ集まってるらしいヨ」


 ノダメサンが好きな、あのヘンな人形のキャラクターとか、あるんじゃない?


 「ぎゃぼ!ごろ太の広東語版DVDとかありますカネ?」


 のだめは、昨日コンビニで購入した『香港街道指南』の地図に、目的地の印をつけ、Ruiがメモしてくれたお店の名前などを挟み込んだ。


 「夜ご飯は一緒に食べようヨ。素敵なところを予約してあるから」


 そういって、待ち合わせの場所と時間を指定し、こちらもメモに書いてのだめに渡す。


 「じゃあ、頑張ってネ。ワタシはホテルのスパにいるつもりだから、なにかあったら電話して」


 そういって、二人はホテルのビュッフェで別れた。









 ランガムプレイスモンコックホンコンには、評判のよいスパがある。
 エステも受けることができるので、Ruiは夕飯までホテルでのんびり過ごそうと計画していた。


 「ん?」


 ホテルの部屋を出ようとしたところで、携帯に着信がはいる。相手はめずらしく千秋。


 「ハーイ!千秋、ひさしぶりだネ。どうしたの?」


 「久しぶりだな。なんだかのだめがお前に世話になってるって……」


 「お世話なんてしてないヨ?
 音楽祭で一緒になって、たまたまオフが重なってることがわかって、ノダメサン、特に予定ないっていうから誘っただけだヨ」


 ノダメサンのおかげで、美味しいものがいろいろ食べられるから、かえって助かってるし、二人で楽しんでるヨ?


 「それより、なんなのよ?ワタシに電話してくるなんて」


 「……いや、別になんかってわけじゃねーんだけど、のだめのやつ昨日夜中に電話しても携帯出なかったから。朝も連絡ねーし……」


 「ははーん、千秋ってばノダメサンが心配でワタシに電話してきたんだぁ」


 「ばっ……!そんなんじゃねーよっ!ちょっと時間あったから、お前も最近どーしてるかと思って、つ、ついでだよっ、ついでっ!」


 「あははは!千秋も素直じゃないネ」


 ノダメサンのこと、気になって電話してきたくせにぃー。


 「……で?のだめは?」


 「昨日は、ホテルに帰ってきたのが1時過ぎてたから、ノダメサン、千秋からの着信、気づかなかったんじゃないかな?
 今朝は二人とも10時過ぎまでぐっすり寝てたから、電話するのには時間が遅いと思ったんじゃないの?」


 なんでワタシがこんなことまで説明しなくちゃいけないのヨ?
 今日は、一人で街歩きに出かけたヨ。


 「そっか……。悪かったな。サンキュ」


 千秋はホッとしたことをRuiに悟られまいと、小さく返事をする。
 しかし、そんなことに気づかないようなRuiではない。


 「千秋さ……、もっと素直になったら?
 意外に分かりやすいよネ。
 まぁ、ノダメサンもだけどさ」


 「…なにがだよ」


 「だからさぁ〜、逢いたいなら逢いに来てほしいって、言えばすむことじゃない?」


 「……」


 「ノダメサン言ってたヨ?千秋はいま、キャリアアップのために必死で頑張ってるから逢いに行けないって」


 「……そっか」


 「千秋……、ノダメサンはワタシが初めて会ったころから、全然変わってないヨ?」


 「え?」


 「モチロン、無名のピアノ留学生から、世界のNODAMEにはなったけど。
 それはあくまでノダメサンの一部分であって、女性としてのノダメサンは今も変わらず千秋だけを見つめてるデショ?」


 「……」


 「二人とも、いろいろ一緒にしずぎなんだヨ。
 幼い頃から世界のRuiやってるワタシから、大好きな二人へアドバイスする。
 二人は確かに音楽で深く結ばれていて、お互いの音楽性を認めてリスペクトしてるのはわかるケド、音楽家としての千秋真一やNODAMEと、男と女としてのスペースは分けなくちゃ。」


 う…。いつか誰かに言われたような台詞だな…。


 「……やっぱりお前って大人だよな……。
 分かったよ。サンキュ、Rui」


 「まったく世話がやけるネ。夜、ノダメサンに会ったら、千秋に連絡するように言っておくヨ」


 通話を切り、マイアミの千秋は、今の電話で少しは安心したかと思うと、Ruiはなんだか複雑な気持ちになる。


 「このワタシが潔く身を引いたんだから、しっかりして欲しいヨ……」


 Ruiは誰に言うのでもなく、ひとりごち、ホテルのスパへとむかった。





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