芒果布甸/Mango pudding



■top>>>
■長編 index>>>
■SS index>>>
■About Hongkong>>>
■About site,About me>>>
■備忘録>>>
■link>>>





14.打電話



 「もしもし、先輩?」


 無理やりベッドに潜り込んだものの、明け方まで熟睡することもできず、早朝に諦めて起き上がることにした。


 朝の6時、真一のいるマイアミは20時くらいだろうか?


 「おう。元気か?」


 「今、大丈夫ですか?」


 「ああ、さっき夕飯たべて、部屋に帰ってきたところだから。
 そっちはどう?」


 「昨日はのだめ一人で香港の街をいろいろ歩いてみたんデス。
 博物館に行ったり、市場を探索したり、お買い物もたくさんしまシタ。
 夜はRuiにプライベートレストランに連れて行ってもらって、それはもう美味しいものをたくさん頂きました!
 すっごく楽しんでマスよ?」


 「そっか……楽しんでンだな」


 「……先輩はどうデスか?順調ですか?」


 「うん。明日午後からゲネプロで、明後日は本番」


 淡々と会話が進む。
 お互い、言いたい事を胸のうちに秘めたまま。


 電話でなんか話しているのではなくて、顔が見たい、触れたい、抱きしめたいという思いでいっぱいになって、次第に言葉は出てこなくなる。


 「……」


 「……」


 沈黙を破ったのは真一だった。


 「……あのさ、昨日Ruiに言われた」


 「なんてデスか?」


 「俺が素直じゃないって……。
 お前に逢いに来てほしければ、逢いに来て欲しいって、素直に言えばいいのにって……」


 「……そデスか……」


 「……うん……」


 「……(だから?)……」


 「……(だからって……うぅ、言えねぇ)……」


 重い沈黙に、昨日から脳内を占める事柄について、のだめは思い切って口にした。


 「……昨日行ったプライベートレストランのオーナーシェフは、カーリンさんという女性なんデスが、香港で仕事をしながら、フランスに住むご主人と遠距離結婚をしているんデス」


 「……それはすごいな……」


 「……はい。
 カーリンさん言ってまシタ。人間は弱いからあっという間に流されてしまう。
 だから大切な人との関係を続けるためには、流されないように碇が必要なんだって……」


 「……碇……」


 「のだめと真一クンにも必要なんでしょうか?碇」


 「……」


 「今だって真一クン、のだめに逢いに来いって言えないんデショ?」


 「……うっ……。そ、そんな事……ねえよ……


 「ちゃんと言ってくだサイ?
 言ってもらわないと、のだめ、わかんないデスよ?」


 「……そ、その……。あ、逢いにくれ……ば?……」


 「もぉーーーーー、なんで疑問系ね!?
 俺様なら俺様らしく、貫き通したらよかろーもんっ!」


 真一のあまりのヘタレぶりに、ひさびさに大川弁でキレまくるのだめ。
 そんなのだめに、逆ギレしながらも、まんまと言葉を引き出される真一。


 「あぁぁぁーーーー!わかったよ、言えばいいんだろっ!
 逢いに来いって言ってんだよ!これで満足かよっ!」


 「あへぇ〜、久々の俺様で破壊力バツグンでシタ。今日はぐっすり眠れそうデス」


 今回も、まんまとのだめにやられてしまったと気付くも、時すでに遅し。(連敗記録更新中)


 「……お、おい。それでこっち来るのかよ?どうなんだよ?」


 「えとデスね、明日まではホテルを押さえてあるので、明後日まで香港にいマス。
 先輩だって、明後日の本番終わったら、翌日には移動なんデショ?
 のだめ、到着早々移動とかヤですモン。
 先輩の移動先で逢いまショ?」


 「はぁぁぁっ!?
 なんだよ、人が恥ずかしい思いして言ってやったのに!
 本番はどうでもいいのかよ……。
 ……はぁ……、お前ってそういうヤツだよな……」


 「そのかわり、移動先にはずっと一緒にいてもいいデスよね?」


 「……え……、仕事中、かまってやれねーけど、いいの?」


 「しょうがないデスね。
 寂しがりやの夫のためデスから、妻は一人で待っててあげマスよ?ゲハ」


 「……誰が夫だ……」


 「がぼん……ツッコミに威力がありマセン。
 はぅん、やっぱり今すぐ駆けつけなくちゃだめデスかね?」


 「ち、ちげーよ。いいよ、ヒューストンからで……」


 実はうれしすぎて、ツッコミが弱くなってしまったとは意地でも言えない。


 でもなんだろうか。
 しばらくのだめが自分のそばにいてくれると分かった時の、この安心感は。


 「そういえば先輩、ヒューストンって、ヒューストン交響楽団ですか?」


 「そうだけど?(フェスティバルのかなりカジュアルな演奏会だけど)」


 「ぎゃぼっ!メジャーじゃないデスかっ?!大丈夫なんデスか?」


 「……お前……。俺をなんだと思ってンだよ……」


 「えと、むっつりのメジャーリーガー?」


 「おいっ!お前、こっち来たら覚えてろよ?」


 「ぎゃぼっ!」


 こうやって、いつものように軽口を叩いて……。


 なにが『おっぱい星人としてNASAに捕まえられないデスかね?』だ!
 お前こそ、地球外生物だろうが!


 なかなか素直になれない俺を、いつものペースに戻してくれるのはアイツだったりする。
 ヒューストンでの再開を約束して、俺たちにしては長い電話を切った。




<13.私房菜 2へ

15.半島酒店へ>