芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 8






 のだめの宿泊しているホテルに戻り、さっそく母親に電話する。


 「だめだ……。留守電になって繋がらない」


 意地になって三善の家にも電話するが、やはり母は仕事でヨーロッパだと言われ、連絡はとれない。


 「今日はあきらめるか……」


 「そデスね、急ぐことでもないデスし」


 続いて、報告のために電話した野田家では、ちょっとした騒ぎになった。


 のだめから、ローマの郊外に素敵な教会を見つけたから、そこで二人っきりで式を挙げたいと聞いたからだ。


 「じーちゃんも、ばーちゃんも、冥土の土産に恵の花嫁姿ば、見たいにきまっとろーが!」


 「そ、そんな冥土の土産ち、縁起の悪か……」


 辰男もヨーコもよっくんまでもが、口々に地元に帰って盛大な披露宴をしろとまくし立てた。


 「で、でも……」


 口ごもるのだめに味方してくれたのは静代だったようだ。


 「私らは写真だけでも見せてもらえれば幸せたい。恵と千秋さんの結婚式やけん、二人がおもたごつ、したらよかろーもん?」


 そんなふうに静代から諭されて、辰男たちも渋々了承してくれたようだ。


 ただ、衣装だけはヨーコの手作りにすることが条件となったが、それはのだめにしても願ったりで、断る必要などない。


 「ふぃー、疲れまシタね」


 「ゴメン……。


 もし、お前が……」


 「いいんですよー。
 真一クンはそんなこと気にしなくて」


 のだめは、真一クンのお嫁さんになって、ずっと一緒にいられるだけで幸せなんデスから……。


 そんなのだめからの可愛い告白に、やられっぱなしでは悔しいので、


 「俺も……」


 と、のだめの耳元で低く囁けば、のだめの身体から甘い香りが立ち上ってくるのを感じる。


 俺はきっと、今最高に緩んだ甘い表情をしているのだろうな。


 もう、そんなことに抵抗する気もないけど。









 のだめの短いイタリアでの滞在が終わった。
 次に逢えるのは2週間後。


 フィウミチーノ空港のターミナル1まで一緒に行き、パリへ向かうエールフランスの搭乗口でのだめを見送る。


 「部屋、あんまり散らかすなよ?」


 「ふぁい」


 「ピアノに夢中になっても、メシもちゃんと食えよ?」


 「ふぁい」


 「それから……」


 真一クン、お母さんみたいデスと、可愛くないことを言うのだめにゲンコツをお見舞いする。


 「痛いデスよー」


 「お前が悪い!俺がどんだけお前のこと心配してるか……」


 「分かってマスよー。
 真一くん、愛してマス」


 「……」


 こんなところでそんなこと言われても、なにもできねーし。


 「ばかのだめ!」


 「酷い夫です……」


 俯きかげんののだめの表情がちょっと淋しそうだったから、俺は周 囲に人目がないか見渡すと、あっという間にのだめの唇を掠める軽いキスをして、


 「じゃ、気をつけて帰れよっ!」


 と、アイツに背をむけて歩きだした。


 背中にいつもの奇声を聞きながら。









 自分の部屋に戻って、ふと思いついて携帯を取り出す。


 何年も前、母親に無理やり登録させられてから、一度も呼び出したことの無いメモリー。


 真一は、胸がざわつくのを感じながら、思い切って番号を選択し、発信ボタンを押す。


 ……pupu、pupu……


 プッ!


 "ただ今、演奏旅行に出かけて留守にしております。お急ぎの方はメッセージを残してください。気が向いたらこちらからご連絡するかもしれません"


 プッ!


 「ふざけたメッセージ入れやがってっ!」


 いらつきをぶつけるように、携帯をベッドへと放り投げる。


 アイツ、やっぱり子供だろ……。


 繋がらない携帯は、遥か遠い、幼い頃の父と息子の、一方通行の関係をそのまま表しているようだと思う。


 真一は、空しくなる思考にストップをかけ、そろそろ始まるマルレのリハに向けて、総譜を広げると、音楽の世界へと没頭していった。



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