芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 7






 教会を管理する人物は、イタリアの明るい太陽がよく似合う、ひまわりのような笑顔の50代くらいの女性、名前はシモーナといった。


 聖歌隊で歌を指導しているという音楽好きの女性は、NODAMEのことを知っており、思わぬ大歓迎を受ける。


 真一のことは知らなかったが、セバスチャーノ・ヴィエラのもとでオペラを学んでいると聞くと、その大柄の身体を震わせ、力いっぱい真一のことをハグする。


 「ぐえっ!」


 「すばらしいわっ!大好きなマエストロのお弟子さんとNODAMEの結婚式がこの街の教会で行われるなんてっ!」


 シモーナは感激のあまり、真一の次にのだめのことも力いっぱいハグし、その温かな両手でのだめの頬を包み込むと、当日は心をこめて歌うので、期待してほしいと意気込みを伝えてきた。


 「あ、あの……。とてもうれしいお申出なのですが、私たちは二人だけで挙式したいと考えているんです……」


 「まぁ……そうなの?
 まぁ、若い人たちにはそれぞれ考え方があるものね」


 ちょっと残念ね、と呟いたあと、女性はのだめに耳打ちした。


 「NODAMEはそれでいいの?彼は照れ屋さんなのかしら?」


 イタリア語のわからないのだめは、ただぎこちなく微笑むしかなかった。
 








 大歓迎は受けたものの、挙式の許可をもらうための条件は厳しく、まずは二人揃って牧師の面談を受け許可をもらい、真一はイタリア滞在中、仕事でやむをえない場合を除き、毎週礼拝に通う。のだめも式までの間に最低4回は礼拝に来るというものであった。


 「結構厳しいな……」


 「そデスね……」


 そこまでしてこの教会にこだわる必要があるのか、疑問に思わなくもなかったが、真一は最初に訪れた際に見たのだめの幻影が忘れられなかったし、この街に来るたびに感じる、懐かしいような不思議な感覚も無視することができない。


 真一にしてはめずらしい、音楽以外への執着に、のだめは驚きつつも叶えてあげたいと思うようになっていた。


 「真一クン、これも何かの縁デスよ、きっと。できるだけやってみまショウ?
 なによりのだめ、この街がとっても気に入りまシタ」


 そんな風にのだめに背中を押してもらい、シモーナに承諾の意を伝え、改めて挙式の申込をした。









 シモーナから提示された条件により、真一とのだめの挙式日は3ヵ月後となった。


 「もっと早くしたかったな……」


 「ええっ!先輩ってそういうこと言うんデスか?
 もう、のだめにめろめろ?」


 うるさいっ!お前かわいくないっ!痛いっ!先輩、痛いデスー!と、いつものようにじゃれ合いながらシモーナの家からホテルへと戻る。


 「Buon giorno……」


 ホテルの主人は、カウンターの中で、先ほどと同じポーズで新聞を読んでいた。


 「先ほどはありがとうございました。
 無事、挙式をお願いすることができました」


 真一は丁寧にお礼を言うと、3ヵ月後の挙式日を伝え、部屋を予約したいと伝える。


 「それはそれは、お役に立ててよかったです。
 あれでもシモーナはなかなか手強いんですよ?よほどお二人のことを気に入ったのでしょう。


 部屋は……、お取りできますよ。
 でも、せっかくの結婚式の日なのに、こんな古びたホテルでよろしいんですか?」


 「ええ、ぜひ。この街にも、このホテルにも教会にも、なにかとても縁を感じるんです。
 それに、このホテルもとても雰囲気があって、素敵ですよ」


 「ありがとうございます。
 では、お若い二人の門出にふさわしい、当ホテル一番の部屋をお取りしておきます」


 「ありがとうございます」


 のだめにも、部屋がとれたことを伝え、 少し主人と話がしたいんだけど構わないか?と了承を得ると、先ほどから気になっていた事を尋ねる。


 「すこしお話したいことがあるのですが……」


 主人は了承すると、それでは移動しましょうといって、どこかに電話をかけフロントの代わりを頼むと、こちらへどうぞと真一とのだめを事務所へと呼び入れた。


 小さなホテルの小さな事務所の奥にある、ソファーをすすめられる。


 「お仕事中なのに、すみません」


 「あはは、仕事中っていったって、さっきから新聞読んでるだけですから。気にしないでください」


 そういって主人はコーヒーメーカーから3人分のコーヒーを入れて真一たちの前に置いた。


 「で、お聞きになりたいこととは?」


 「はい。先ほどお話されていた、22年前の開業当時に滞在したという、日本人ピアニストの家族についてなのですが……」
 

 「ああ。あのことですね。
 実は、私も先ほどあなたがたにお話したあと、すこし思い返していたところです」


 主人は、このことは、しばらく思い出しもしなかったんだけど、真一たちがやってきて、のだめがピアニストだと聞いたとたん、ひさしぶりに思い出したのだと言った。


 「名前……、なんてわかりませんよね?」


 「そうですねぇ。あいにく3年ほど前に事務所でぼやさわぎがあって、それまでの宿帳もだめにしてしまったのです」


 「そうですか……」


 「お知り合いかなんかですか?」


 「実は、私の父はピアニストなんです。
 記憶はないのですが、もしかしたら22年前に滞在した家族は自分なのではないかと思って」


 「なるほど……。22年前の男の子は5,6才くらいでしたから、成長していればあなたくらいでしょうね」


 「……」


 しかし主人は、それ以上覚えていることがなく、真一が子供時代に父親と母親と3人でこのホテルを訪れていたのかどうか、確証を掴むことはできなかった。








 ホテルを出て、ローマに戻る。


 帰りの車の中で、真一はホテルの主人とのやりとりをのだめにも話した。


 「むきゃっ!もしかしたら、幼い真一クンが、何かを伝えたくて、大人になった真一クンを呼び寄せたのかもしれまセンね?」


 「なんだよ、それ……」


 「過去からの招待状?」


 また訳のわからないことを……と、ためいきをつく。


 「あ!そうだ、征子ママに聞けばいいじゃないデスか!
 どうせ挙式の日取りとか場所とか決まったことを報告しなくちゃデスから」


 むーん!これで解決デス!と胸を張るのだめ。
 なるほど……。そうだよな、母さんだったら知ってるはずだよな。


 真一は気をとりなおすと、アクセルを踏み込み、ギアをシフトさせると車を加速させ、ローマへと急いだ。



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