芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 45






 結局、真一は3日間、のだめのアパルトパンに泊まり込んで、ガラクタと格闘した。


 楽譜や衣類、生活用品以外の持ち物は、ほぼごろ太関連グッズで、そのほかの真一にはまったく価値の見いだせないガラクタはすべて捨ててしまいたかった。


 しかし、こっそり捨てようとしても、のだめが動物的嗅覚(?)で気付いてしまい、阻止されてしまう。


 さすがに真一コレクションの吸い殻やら歯ブラシなどについては、のだめが泣いて懇願しても断固として捨てた。


 「のだめ、これはガラクタですらない、ゴミなんだぞ?
 もし俺たちに子供ができて、これが何かと聞かれて、お前はなんて答えるんだ?」


 「ママの宝物だって答えマスよ!」


 「……」









 のだめのアパルトマンの荷物をすべて運び出した。


 あとはピアノを業者に運んでもらえば終了だ。


 「この部屋、こんなに広かったんデスね……」


 「そうよー、メグミが入ってからは、なんだか手狭になったような気がしたけど……、物(ガラクタ)が多かったってことよね(ぼそっ)」


 アンナが、様子を見に来ていた。


 「まさか、メグミがこの部屋からお嫁に行くとはねぇ……、4年前には想像できなかったけど」


 意味深な目線を真一に投げかけ、感慨深げにつぶやく。


 「あの小さな男の子だったシンイチがねぇ……私も年をとるわけよね」









 アンナやムッシュー長田に別れを告げ、のだめは色々思い出すのか、二人に抱きつき、おいおいと泣いた。


 「おい、同じパリの中で引っ越すだけだろ?またちょくちょく遊びにくればいいんだから……」


 「私も二人の新居に遊びに行くわ。だから、そんなに泣かないで……」


 「ひっく、のだめにとって、アンナとムッシューはっ、ひっく、パリの父と母なんデスっ!うわわぁーーーーんっ!」


 泣きながら車に乗り込み、走り出してからも見えなくなるまで、のだめはアパルトマンに手を振り続けた。









 真一のアパルトマンに二人で戻る。


 すでにある程度まとめてある荷物を、のだめにも手伝わせて荷造りするが、まだ感傷にひたっているようで、ぐずぐずと鼻をすすりながらのろのろと作業をするので、まったく役にたたない。


 まだマリッジブルー継続中なのか?


 なんとか真一の部屋の荷造りも終わり、ピアノ以外のすべての荷物が新居に運び込まれた。


 今日から一週間、挙式まで新居で過ごすことになる。


 「……真一クンと、初めて離れて暮らすことになった、このアパルトマンともお別れデスね。
 三善のアパルトマンにも、この真一クンのアパルトマンにも、思い出がいっぱいあって……離れがたいデス……」


 「……そうだな。お前も俺もこの4年間はいろいろあったな……」


 のだめは別れを惜しむように、部屋をぐるりと見渡し、ふぅっと息を吐き出すと真一の背中に抱きつく。


 「……真一クン、これから何があっても、ずっと一緒デスよ?
 のだめ、離れまセンからね……」


 真一は、腰に回されたのだめの両手に自分の手を重ねる。


 「当たり前だろ?
 また逃げたら、捕まえにいくからな……」


 「……はい……」


 真一のアパルトマンのバルコニーに面した大きな窓の前に立ち、しばらく二人は無言のまま、お互いの体温を感じて、窓からの景色を眺めていた。









 新居での生活が始まった。


 といっても、しばらくは荷物を解いたり、徹底的な掃除が必要な場所があったりで、ばたばたと過ごす。


 一通りのクリーニングと荷解きが終わると、カーテンやクッション、ラグなど買い足しが必要なものをピックアップして、インテリアショップをまわる。


 ショッピングに出れば、のだめは数日前までのマリッジブルーもすっかり解消したようで、はしゃぎまくっている。


 「なんだか新婚サンみたいデスね?
 あ、真一クンっ!このフリフリのメイドみたいなエプロン、のだめに買ってくだサイ!」


 「みたいじゃなくて、新婚だろーが。
 お前にエプロンって何に使うんだよ?」


 「はうん……のだめ新妻デスね?
 じゃあ新妻プレイに使いまショウ!ねぇ、あなた(はぁと)」


 「……」


 真一が、ついでだからと言い訳をして購入したエプロンが、その後どのように使われたのかは、また別のお話で……。









 少しずつ、若い夫婦の住まいらしく、色鮮やかになってきた新居に、いよいよピアノが2台運び込まれた。


 「やぁ、お久しぶり」


 「ど、どーも……」


 「結婚だって?おめでとう!」


 「あ、ありがとう。コイツ、妻の恵です。
 ピアニストなんで、これからいろいろ世話になると……」


 「もちろん知ってるよ!NODAMEだろ?お会いできて光栄です」


 「は、はじめまして、のだめデス……よろしくお願いしマス」


 「いや、はじめましてじゃないよ?」


 「「えっ!」」


 「だって……あの時の女の子だろ?」


 そう言って、意味深な微笑みを浮かべ、調律師はピアノに向かうと、ノクターンを奏でる。


 真一とのだめは、三善のアパルトマンでこのノクターンを聴いた状況を思い出し、二人揃って顔を真っ赤にして固まっている。


 「いやぁ、色々あったけど、よかったよね!」


 「……あ、ありがとう……」








 「真一クン、リクエストは?」


 「……じゃあ悲愴で」


 のだめは、にっこりと微笑み、ピアノに向き直ると、静かに目を閉じ呼吸を整え、ピアノを奏ではじめる。


 もしも、あの満月の夜、真一がのだめに拾われなかったら?

 もしも、あの時、のだめが悲愴を弾かなかったら?

 もしも、二人の部屋が隣同士でなかったら?

 もしも、二人がピアノを連弾しなかったら?

 もしも……。


 きっと二人が出会うのは、宇宙の法則だったから。

 もしも……が1つ欠けたとしても、きっとどこかで二人は出会って、恋に落ちていたに違いないから。


 のだめの奏でるピアノは、"悲惨"から"悲愴"に進化したけれど、それは紛れもなく、のだめの奏でる悲愴であって、真一だけに深く、強く、響いて揺さぶり続ける、特別な音だから。


 のだめの優しい音のつぶが部屋中に溢れて、室内が息づきはじめる。


 "ずっと一緒デス……"


 また二人で、新しい場所で、一緒に歩き始める。


 二人で作り上げる、二人だけの音楽に包まれて。


 結婚式まで、あと1週間。



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