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マエストロの婚礼 44 久しぶりに、真一はパリの自宅で目を覚ました。 キッチンで簡単な朝食をとりながら、今日の予定を立てる。 午前中、洗濯や溜まっている雑用を片付けて、午後からはのだめのアパルトマンに様子を見に行こう。 そろそろ和食が恋しい頃だろうと、洗濯機を回しながらのだめのために料理をする。きっとアイツのキッチンは料理ができる状態にはないだろうから。 できあがった料理をタッパーに詰めながら、のだめの喜ぶ顔を思い浮かべ、こころがほっこり温かくなる真一であった。 のだめのアパルトマンに到着すると、ピアノの音も聞こえず、ひっそりと静まりかえっている。 「まだ寝てる……ってことはないよな?」 ドアノブに手をかけると、施錠されていないドアは静かに開いた。 いつものように乱雑なベッドルームに入るが、ベッドはもぬけの殻でのだめは見あたらない。 リビングへと続くドアを開けながら、真一は声をかけてみる。 「おい、のだめ?いないのか?」 「うっ……うううっ……」 のだめはいた。 いつも以上に散かったリビングには、大量のダンボール。 引越しの荷造り(?)をしようと努力した形跡が見受けられるが、逆に大量のがらくたがリビングいっぱいに広がり、収集がつかない状態に陥っていた。 のだめは、大量のダンボールの中央に体が埋まった状態で、何かを手に取り……泣いてる? 「……のだめ?どうした?」 「ぎゃぼっ!し、真一クンっ!れ、レディーの部屋に無断で入ってくるなんて、失礼デスよ!」 のだめは、真一の登場に大慌てで、手にしていたものを目の前のダンボールにつっこむと、ダンボールごと身体で覆い、真一の目から隠そうとしているようだ。 「無断……て、いつもそうじゃねーか。 てゆーか、その隠そうとしているものはなんだ? 後ろめたさがみえみえじゃねーか……」 真一は、あたり一面のダンボールを蹴り進みながら、のだめに近づく。 「むっきゃーーーー!な、なんでもないデスよ!真一クン、こっちこないでくだサイ!」 ダンボールを自分の背中で隠し、真一の侵入を拒もうとするのだめに、真一は容赦なく詰め寄り、ダンボールからのだめをひっぱがした。 「はぁ……お前はまだこんなものを……」 あきれて言葉を失う真一の目の前には、"佐賀海苔"とかかれたダンボール。"マル秘"とみそ字と同じ書体でかかれたその中身は、のだめのいうところの"真一クンコレクション" 千秋指揮服一式、ガラス瓶いっぱいの吸殻、真空パックされたワイシャツ(5セット)、歯ブラシ、ボタン、etc……。 そして、のだめが先ほどまで手にしていたのは……写真? 「ぎゃぼーーーーっ!のだめのものに勝手に触らないでくだサイよ!」 「全部俺のもんだろうがっ!!!」 確かに(笑) のだめの抵抗むなしく、真一は写真の束を奪い取る。 しかし、写真を見たとたん、その美しい顔がみるみる青ざめていく。 「お、おい……これはなん……だ? いつ、どこで、だれが撮ったんだ……」 真一の手に収まるのは、真一とさまざまな人種の女性たちが写った写真が数点。 指揮コンで優勝したあと、シュトレーゼマンの演奏旅行に同行していた際、シュトレーゼマンがのだめに送りつけたものだが、真一が目にするのは初めてのことであった。 「ひっくっ……の、のだめだって知りまセンよ! これを受け取ったときは、のだめ悲しくて悲しくて……人生で8番目くらいに辛い時期でシタ……」 「ずいぶん中途半端な位置づけだな……」 「うぇっ、の、のだめ思い出しまシタ。真一クンは、浮気者デス! こんな浮気者とは、のだめ結婚できまセン!うわぁーーーーんっ!」 のだめは、涙でぐちゃぐちゃになった顔を両手で覆い、そのために視界がきかない状態で、ダンボールを蹴散らしながら、大暴れでベッドルームに飛び込むと、ベッドに身を投げ出し、おいおいと泣き出した。 「はぁ……」 真一は写真を手にしたまま、のだめの後を追い、こんもりと盛り上がったブランケットの横に腰をかけると、のだめらしき塊の上に覆いかぶさり、優しく声を掛ける。 「……俺は浮気なんかしたことないぞ? だいたい……、この写真、お前と付き合う前じゃねーか……」 がばっ! 真一の言葉に反応した塊がいきなり起き上がり、真一の顎にヒットした。 「いたっ!」 涙まみれののだめの顔が真一を睨みつける。 「だって!真一クン、言ったじゃないデスか!」 真一は、痛む顎を撫でながら、のだめを刺激しないように、小さな声でささやく。 「いつ?俺が何を言ったんだ?」 「あの日……、のだめがバージンを真一クンに捧げた日デス……。 真一クン、言いました。 この、ルビーのネックレスを右手に絡めて、左手でのだめの頬を撫でながら、"このネックレスは上海で買ったんだ。俺はきっとあの時すでに、お前のことが好きだったんだな……"って! そういって、真一クンの綺麗な顔がのだめの顔に近づいてきたカラ、のだめはまたドキドキしちゃって、いつもみたいに目をぎゅっと閉じちゃったんデス……。 そうしたら、のだめの頬を撫でていた真一クンの手が、どんどん下のほうに下がっていって、真一クンのえっちな手がのだめのおっぱ「だーーーーーっ!わかってるから!覚えてるから、いちいち言うなっ!」」 「真一クンは、付き合ってないからって、好きな女の子がいるのに、他の女性とも……。やっぱり浮気者デスっ!」 「はぁ……だから浮気なんかしてねーって」 のだめは真一の手から写真を奪いとると、ひるまず問いただす。 ※注:以下、コミック11巻、巻末の千秋修行記を参照ください。 「じゃあこれはなんデスかっ!こんな巨乳のお姉さんと、身体を密着させて……」 「こ、これはスペイン音楽を学ぶためにだな……、フラメンコを踊ってるだけじゃねーか……」 「じゃ、じゃあこれはなんデスかっ!胸元なんてはだけちゃって、札束なんか挟み込んでホストみたいじゃないデスかっ!」 「はぁ……俺ベロベロで、意識喪失状態じゃねーか……。どうせ、ジジィの仕業だろ……」 「じゃ、じゃあこれはっ!明らかにベッドに連れ込まれて、襲われる直前じゃないデスか! 真一クン、色気ダダ漏れデスよ?キスまで5秒前状態じゃないデスか……」 「こ、これは……(記憶にねえ!)」 明らかに狼狽した真一に、のだめの瞳は怒りに揺れる。 「や、やっぱり……。 うわぁーーーーーーんっ!真一クンの浮気者っ! 婚約破棄デスっ!雅之パパの血を受け継いだ女にだらしない真一クンとは結婚できまセン!」 「はぁ……、いまさらなんだよ、しかも親父のことなんか……。 だいたい、この段階で解決してたんじゃねーのかよ……」 真一は、面倒なことになったと少しのだめを持て余しながらも、これがコイツに唯一きたマリッジブルーというやつかもしれないと諦め、ここは根気よくうまいこと切り抜けようと覚悟を決めた。 のだめを優しく抱きしめる。 「ぎゃぼっ!の、のだめ、いつもみたいに騙されまセンよ?」 「俺はお前を騙したことなんかないぞ?人聞き悪いこというな。 とにかく俺はお前を一度たりとも裏切ったことなんかない。 だいたい、お前以外に……その……そういう気分になんかならねーんだから……」 「じゃあっ、この写真はなんなんデスか?」 「はぁ……そういう状況だったとしたら、誰が撮影してんだよ」 「はっ!3Pデスかっ!痛っ!」 「あ、アホなこと言うな……。 どうせ、泥酔して寝ているところを、ジジィが女に協力させて、それっぽく写るように撮影したんだろ?」 真一は、のだめの頬を両手で包み込み、のだめの目をまっすぐに見つめると、ゆっくりとささやく。 「俺は、お前の"悲愴"を聞いてから、もう心は囚われていたんだ。 いろいろ抵抗して、自分の気持ちに気づくのには時間がかかったけど……。 今はお前のピアノにも、お前自身にも、俺は完全に囚われてるから……。だから変な心配なんてするな」 「ほわぁ……。真一クン、ルビーみたいに真っ赤デス……」 「……うるさい……」 そういって、初めての時と同じように初々しい表情で自分を見つめるのだめの瞳を閉じさせるために、その美しい顔をゆっくりと近づけていくと、のだめの瞳はゆっくりとまつげを震えさせながら閉じ、真一のくちびるを受け入れていく。 「のだめは……ずっと真一クンだけのものデスよ……」 真一はのだめの身体をベッドに押し倒すと、涙でぬれた顔をやさしく撫でながら、優しいキスの雨を降らせる。 「俺もずっと、お前のものだから……」 「真一クン……お部屋の片付けしなくちゃ……」 「後で俺が手伝ってやるから……」 真一は、のだめの鎖骨に埋まっているルビーに優しくキスをすると、のだめの首筋をくちびるで辿りはじめる。 「もう……真一クンのえっち……」 「お前が悪いんだろ?あんなものひっぱりだして、変なこと言い出すから……。 もう諦めろ……」 「あんっ……」 「のだめ、お腹すきまシタ……」 突然のアクシデントで、何故か午後の日の高いうちから、生まれたままの姿でベッドの中にいるのだめと真一。 心地よいまどろみから覚醒すれば、のだめがまず要求するのは食事のこと。 「はぁ……、少しは余韻というものを考えろよ……」 「真一クン、のだめたちにそんな時間はありまセンよ! やることをやったら、しっかり腹ごしらえをして、結婚式に向けて突き進むしかありまセン!」 のだめはブランケットを身体に巻きつけ、こぶしを強く握り締め叫ぶ。 「さ、真一クン?今日のお昼ごはんはなんデスか?」 「はぁぁ……」 真一はベッドから起き上がり服を身につけると、せめて食事をつくって持ってきたのは正解だったと、妻の食欲を満たすため、キッチンへと向かった。 ごはん〜、美味しい真一クンのごは〜ん♪とご機嫌なのだめの歌をBGMにランチを準備しながら、真一はふと、先ほどの写真を思い出していた。 最後に見せられたあの、横たわる自分にのしかかるブロンドの女性。 なぜかうっすらと浮かび上がる残像は、自分の頬を優しく撫でるブロンドの美しい髪、眩しいほど白い肌を這う、自分の指先……。 "俺、やっちまったのか?" 突然、蘇ってきた記憶のかけら。 わ、忘れよう……。墓場まで持っていくぞ、千秋真一。 そして、旅先での飲みすぎは注意しなければと、心に誓う真一であった。 45へ> |