芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 42






 ヴィエラ先生の奥様に紹介してもらって、さっそくローマ市内のジュエリーショップに真一とのだめはやって来ていた。


 「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」


 上得意からの紹介だからか、さっそく個室へ通される。


 「この度はおめでとうございます。それで、お式はいつで?」


 「えと、3週間後なのデスが……」


 「えっ、3ヶ月ではなく、3週間後で?」


 「はい……なんかまずかったですか?」


 店員は明らかに落胆の色を浮かべる。


 「昨日、ヴィエラ様からご連絡をいただいて、お弟子さんと、NODAME様のご結婚と伺い、デザイナーは昨日から徹夜でデザインを仕上げたところなんです。
 オーダーメイドでは少なくとも2ヶ月はいただきませんと……」


 「いや、レディメイドで十分ですよ。
 コイツはピアニストですから、どうせ外してることのほうが多いでしょうし……」


 真一の言葉に、弾かれたように店員は顔を上げ、熱心に語り出す。


 「いけません!私どもは音楽家の方から御依頼を多く受けますが、結局、外したままでつけなくなるですとか、なくしてしまうですとか、よくお聞きするんです。

 宝飾業として、こんなに悲しいことはございません。

 ぜひ、NODAME様には、つけたままでも不自由なく演奏いただける指輪を、当店の威信をかけて!作って差し上げたいと思っていたところなんです……」


 「いや……お気持ちは有り難いのですが、挙式は決まってますし、もうレディメイドで……」


 「店員サン!のだめはわかりマス、その職人魂!
 ワカリマシタ、指輪ができるまでお待ちしまショウ!」


 「NODAMEさまっ!」


 「店員サンっ!」


 テーブルを挟み、熱く両手を握り締めあう二人。


 「おい……」









 「え?駄目デスか?」


 「駄目にきまってんだろっ?!ここまでの道のりを考えろよ……」


 「店員サン、ゴメンナサイ。
 夫はのだめとの結婚をこれ以上待てないようデス……」


 「おい、そんな事言ってねーだろ?
 じゃあなにか?お前はまた結婚式が2ヶ月先送りになっても平気なのか?」


 「そんなこと言ってないじゃないデスか!のだめは店員サンの職人魂に心を打たれたってんデスよ!

 ケツの穴の小さか男たいっ!」


 「なんだと?この変態女っ!」


 ローマの一流ジュエリー店で、罵倒しあう真一とのだめに、思わず店員の制止が入る。


 「だーーーーっ!お止めくださいっ!

 かしこまりました……。
 そもそもオーダーメイドでとお薦めしたのは私どもですから、3週間で仕上げましょう」
 








 とりあえず来週また来店し、その際に試作品を見せてもらうことになった。


 今日は、指輪製作に必要なデータ集めをするという。


 まず、それぞれ指のサイズを測り、のだめに至っては指輪のサイズだけではなく、関節までの長さや、指をまげたときのサイズ、角度まで測定し、店員の手元にあるノートパソコンにデータを入力してゆく。


 続いて、のだめはピアノを弾くときの様々な手の形をとらされ、それをデザイナーがデジカメで撮影したり、細部については手早くスケッチしたりする。


 その間に真一は、女性スタッフから、生活習慣について質問を受ける。


 「NODAME様は、家事は週にどのくらいされるのでしょうか?」


 「い、いやぁ……まったく……」


 「まぁ、お抱えのコックやメイドがいらっしゃるのですね?」


 「ま、まぁそんなもんです……」


 「ご趣味は?例えばテニスですとか、絵を描かれたり、お裁縫ですとか……」


 「趣味は……読書(ごろ太)、映画鑑賞(ごろ太)ですかね……、昔は絵も描いてましたけど(天国ジャンプ)最近はどうですかね……」


 「絵は油絵ですとか、薬品などはお使いになります?」


 「い、いやっ、そういう趣味はないです……とにかく、手を使うのはピアノを弾くだけですよ、アイツは……」


 「まぁっ、素晴らしいですわっ!全身全霊で音楽と向き合っていらっしゃるのですね。
 だから、あのように素晴らしい演奏になるんですわ……」


 「はぁ……」


 俺はのだめお抱えのコックでメイドなのか……。
 分かっていたことではあるが、改めて指摘され、軽く落ち込む。


 「あの、チアキ様?ご気分でも悪いのですか?」


 「いや、大丈夫です……」









 デザイナーからいくつかデザインを見せてもらい、のだめは大興奮だった。


 次に来るときまでに、お互いに贈るメッセージを決めておいてほしいと頼まれ、店を出る。


 「凄いデスね!のだめたちの結婚指輪のために、あんなに色々やってくれて、どんな指輪ができるか楽しみデス!

 のだめ、結婚式で真一クンに指輪をはめてもらったら、もう一生はずしまセン!骨壷にも一緒に入れてくだサイね!」


 「はぁ、縁起でもねーこと言うな……」









 翌週、のだめは空港に到着するやいなや、真っ先に指輪を見に行こうという。


 「荷物くらいおいてから……」


 「大丈夫デスよー、たいした荷物があるわけでもないんデスから。
 それよりのだめは早く指輪が見たいんデス!」


 店に到着すると、さっそく個室に通され、店員が誇らしげな表情でベルベットのトレイを運んできた。


 「お待ちしておりました、さっそく試作品をご覧ください」


 トレイの上には銀色のリングが一組、乗せられている。


 「まず、何もおっしゃらず、こちらを試してみてください。」


 店員は女性用のリングをのだめに渡し、真一にもペアのリングを渡す。


 お互い左手の薬指に嵌めてみる。


 「か、軽い……」


 「ほわぉ……何もつけてないみたいデス……」


 リングの表面は艶消しになっており、指に嵌めていても嫌みのないデザイン。
 これなら、舞台での演奏中もライトに反射しないから、演奏する本人も、観客も気をとられることがないだろう。


 「これ……プラチナですか?」


 「いいえ、チタンでございます」


 「「チタン?」」


 「はい。チタンは強度、耐蝕性ともプラチナやゴールドと同等ですが、これまで加工の難しさからアクセサリーとして使われることがありませんでした。

 しかし技術の進歩により加工が可能になり、貴金属として注目され始めた、新しい素材でございます。

 お二人のように、これから音楽界を背負って立たれる新しい世代の方にぴったりの素材だと思い、選ばせていただきました。

 プラチナの希少性や、ゴールドの輝きはありませんが、チタンの魅力はなんといってもその軽さです。十分な強度を持ちつつ、プラチナの4分の1の重さ、それゆえ、他の金属より身体に優しいのです。

 ピアニストであるNODAME様にはぴったりの素材だと思います」


 「ほわぉ……」


 「デザインですが、指に触れる内側は丸く仕上げておりますので、指の曲げや物を握ったときにも違和感なく、指に馴染みます。
 外側は、NODAME様が指を動かす際に違和感を感じられないよう、できるだけ指の形にそって、平らに仕上げてあります。

 強度を考慮しつつ、可能な限り細く、薄く、軽く、自然な付け心地にこだわっております」


 店員は満足気に説明をすると、のだめと真一にリングをはずさせ、その二つのリングを縦に重ねる。


 「こちらをご覧いただけますか?」


 「あ、これは……」


 リングの表面に彫り込まれた細いライン。のだめのリング中央に1本、真一のリング中央にも1本。二つのリングを重ねると、上下、中央と合わせて5本のラインが浮かび上がる。


 「お二人のリングを重ねると、五線譜が現れます。結婚生活で、素晴らしい音楽を奏でていただくように、真っ白な五線譜をイメージいたしました。いかがですか?」


 「シンプルで……、それでいて自分達らしさもある、素晴らしいデザインだと思います」


 「のだめは……、とにかく指に嵌めていることを忘れてしまうくらい、軽くて指にフィットしていて……、早くこれをつけてピアノを弾いてみたいデス!」


 「大満足だよな?」


 「はいっ!」


 店員は心からうれしそうに笑顔を浮かべる。


 「喜んでいただけて、デザイナーも職人もさぞ喜ぶかと存じます。それでは、こちらのデザインで進めさせていただきます」









 その後、リングをつけた状態で、デザイナーがのだめに指を動かさせて細かくチェックをし、それぞれに贈るメッセージを紙に書き込む。


 「なんて書いたんだ?」


 「それは出来上がってのお楽しみデス。真一クンは?」


 「……内緒」









 ヴィエラ先生から借りた車で、教会へ向かう。


 「サムシングフォーも、結婚指輪も用意できたし、あとはお引っ越しだけ?」


 「そうだな。
 ヴィエラ先生からは、今日、教会で礼拝とリハーサルが終わったら、そのままパリに帰れって言われた。
 式の後も最低でも1ヶ月はパリにいろって……」


 「むきゃ?じゃあ、しばらく真一クンと一緒デスね?」


 「うん……不満?」


 「そんなわけないじゃないデスかー。真一クンは?」


 「……うん、そんなわけないし。
 なぁ、どっか旅行とか行きたいか?」


 「はぅん……のだめは……真一クンと一緒にいられればどこでもいいデス。
 新居にずっとこもりっきりでもいいデスよ?」


 「……それもいいか?」


 「新居で1ヶ月ラブラブデスね。ゲハ」


 「結婚式当日はホテルに泊まるとして……前日はどうするかだな。」


 「そうデスねぇ……」


 砂糖菓子のように甘い二人を乗せて、車は教会へ向かった。


 結婚式まで、あと2週間。




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