芒果布甸/Mango pudding



■top>>>
■長編 index>>>
■SS index>>>
■About Hongkong>>>
■About site,About me>>>
■備忘録>>>
■link>>>





マエストロの婚礼 41






 「牧師サマ、上の空でシタね……」


 シモーナの家に向かう車の中で、のだめが呟く。


 「そ、そんなことないだろ……」


 いろいろ認めたくない真一は、現実から目をそらしているようだ。


 はっきり言って、牧師は上の空だった。


 「あなた方はお二人で挙式を希望されてますので、入場はお二人一緒にしていただくことになります……。
 オルガン奏者は入りますが、それはよろしいですよね?」


 「はい」


 「音楽に合わせて、ゆっくりとお進みください。
 こちらまでいらっしゃいましたら、賛美歌を斉唱いたします。

 私がお話をしたあと、誓約をしていただいて……、指輪の交換、そして宣誓して退場……。

 あの……本当にお二人だけで挙式されるのですか?
 ご両親……、せめてマダムセイコだけでもお呼びしたらいかがですか?」


 「は?いや……私の母だけ呼ぶのは、かえっておかしいですよ……」


 「あああっ!そうですね、おっしゃる通りです……。
 す、すみません……。今日の私はどうかしています。
 申し訳ありませんが、リハーサルは改めて、来週にしていただけますか?」


 「は、はい……。わかりました……」









 シモーナの家に到着すると、すでにシモーナ夫妻と征子は打ち解け、真一の幼い頃の話や、シモーナたちの息子の話などで盛り上がっているようだ。


 「真一、夫婦のお手本はここにあるわ。ぜひ、シモーナたちを参考にしてちょうだい」


 「まぁ、そんなこと……。セイコだって、女手一つで、シンイチをこんなに立派に育てたじゃない?」


 「シモーナ……、それもこれも、ご主人があの時、真一を助けてくださったから……」


 そういって、女性二人は見つめあい、抱きしめあうと、お互いを慰めるように泣き、背中を擦りあっている。


 「よかったデスね……、真一クン」


 のだめまで、女性二人の姿に、もらい泣きをしている。


 「シンイチ、あっちでワインでも飲むか?」


 同じくどうしていいのかわからないのだろう、シモーナの夫がキッチンから手招きをして、真一を救出した。









 イタリアのママンの味が食卓いっぱいに溢れた。
 家庭的な南イタリアの料理が並び、どれも優しく素朴な味で、征子やのだめ、真一の舌まで唸らせた。


 のだめはすごい食欲で、真一にはがっつき過ぎだと怒られたが、シモーナを喜ばせた。


 食後、リビングに移動し、カプチーノを頂く。


 「そうそう、明日は朝いちで出発するから、今のうちにのだめちゃんに渡しておくわ」


 そういって、征子は美しいベルベッドで包まれた、大きなジュエリーケースを差し出す。


 「これは……」


 「私はあなた方の結婚式では何もお手伝いできないから、これをぜひ当日、のだめちゃんに身につけてほしいと思って……」


 「ほわぉ……綺麗デス……」


 「私の祖母から譲り受けたものよ?祖母から母、母から私へ。三善家の女たちに受け継がれてゆくパールなの。
 もしよかったら……」


 「はいっ!アリガトゴザイマス!
 ぜひ結婚式の日につけさせて頂きマスね?

 あ、これでサムシングフォーの古いものがゲットできまシタから、あとは借りたものでクリアできマス!」


 「サムシングボロウね……。私はだめね、失敗してるから」


 「……ノダメ、あとは何が必要なの?」


 シモーナがのだめに訊ねる。


 「そうですねぇ……、ドレスとアクセサリーが揃いまシタから、あとは靴でしょうか?」


 すると、シモーナは"ちょっと待っててね?"とリビングから消えると、なにやら箱を手にして戻ってきた。


 「これ……。私が結婚式で履いた靴なの。
 当日、1回だけ履いただけで、もし息子がお嫁さんを貰うようなことがあれば、譲りたいと思って、とっておいたのを忘れていたわ……。

 どうかしら?汚れはないんだけど、問題はサイズよね」


 シモーナは、のだめの足元にしゃがみこむと、箱をあけ、のだめの足元に美しい純白のシルクにつつまれたシューズを差し出す。


 「ほわぉ……サイズぴったりデス。のだめシンデレラ?」


 真一を除いた3人が、のだめのとぼけた様子に大笑いしている。


 「あ、あほかお前は……。ちょっと立ち上がって、歩いてみろよ?
 結構ヒール高いぞ?大丈夫か?」


 「ぎゃぼっ!視界が高いデス……。
 でも、本当にサイズはぴったりで、ヒールは高いですケド、すごく歩きやすいデス!」


 「それくらいヒールがあったほうが、ドレスも引き立つわ。
 もともと、真一とも20センチくらい身長さがあるから、ちょうどいいわよ。

 ほら、真一も立ち上がって、並んでごらんなさい?」


 「まぁ……素敵よ、二人とも。ねぇ、あなた」


 「ああ、当日、花嫁と花婿の衣装を着た二人を見られないのが、残念なくらいだな……」









 「ほわぉ……のだめ今日は竜宮城につれて来られた亀みたいデス!
 ごちそうをたらふく頂いた上に、古いものと借り物をゲットして、サムシングフォーもクリアしまシタよ!」


 「連れてこられたのは浦島太郎だけど……もうそんなことどうでもいいし。
 なぁ、母さん、今日教会で牧師様と何話したんだ?」


 一緒にローマまで帰るつもりだったが、盛り上がった女たちは別れが惜しいと、征子はシモーナの家に泊まることになった。


 ローマに帰るのだめと真一を見送りに来た征子に、真一が先ほどから気になっていることを問いただす。


 「何って……、25年前の出来事と、あなたが生死を彷徨った1週間、雅之さんが教会に通ったこと、そのお礼に来たことなんか……。
 それが何か?」


 「いや……、別に。
 ……明日はまっすぐローマに向かうのか?」


 「何よぉ、いつも母さんの行動なんか気にしないくせに。
 どういう風のふきまわし?」


 「あー、それはデスね、今日、教会で牧師サマが……ふがふがっ!」


 のだめの口を押さえ、羽交い絞めにしながら真一が答える。


 「べ、別になんでもねーよ。
 じゃ、俺たちは帰るから。気をつけて……。

 いろいろありがとう。アクセサリーのこととか……」


 「ふぅん……。なんだかあやしいけど、今日のところは勘弁してあげるわ。
 じゃ、いろいろ頑張ってね」


 征子はあっさりと息子と嫁に手を振ると、リビングで待つ新しい友人たちのもとへ戻っていった。










 「真一クン……、どして牧師サマのこと、征子ママに隠すんデスか?
 やっぱり、ママに恋愛はしてほしくないんデスか?」


 帰りの車の中、のだめはからかうように真一に言い放つ。


 「な、なにが恋愛だよ……。
 母さんだって1人の女なんだし、俺だってもう立派な大人なんだから、恋愛の一つや二つ、全然かまわねーけどっ!」


 「そですよねぇ……。のだめには、あんなことやら、こんなことやら、いろいろやっちゃう真一クンなんデスから、人の恋路を邪魔するなんてこと、しないデスよねー」


 「……帰ったら覚えとけよ」


 「ぎゃぼっ!」


 「はぁ……」


 真一は、突然母にふりかかった色恋沙汰に、どんな反応をしていいのか戸惑い、憂鬱になるのだった。




<40へ

42へ>



よろしければぽちっとお願いします↓