芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 4






 いい事とは続くもので、突然のドライブオフに、すっかりリフレッシュして部屋に戻ると、携帯に出たのだめは、これからイタリアへ向かう飛行機に乗るところだという。


 「まあ、俺の誘いを振って、香港に行ってたのは気に入らないけど……」


 これも、ヴィエラのいうところの『貰われるほうに必要な事前準備』というものなのだろう。


 千秋真一たるもの、婚約者の小さな我儘くらい、どうってことない。どっしりと受け止められる器の大きな男であるから、余裕で迎えてやるし。


 すっかり俺様ぶりを復活させ、久しぶりに勉強のために総譜を広げると、真一は音楽へと没頭していった。









 鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌な真一に、ここ数日の彼の様子を伺っていたジャンは不思議で仕方ない。


 夕食後、さっさと部屋に引き上げた千秋の後を追って、真相を確かめるべく真一の部屋を訪ねた。


 コンコンッ!


 「si!」


 返事があってすぐ、部屋の主によってドアが開かれた。


 「……ちょっとお邪魔してもいいかな?」


 ジャンは、片手にグラス、片手にワインボトルを目の高さに掲げ、アピールする。


 「断る」


 ゴツッ!


 強引に閉じかけられるドア。


 半分ドアに挟まれながらも、ジャンはめげない。


 「ち、千秋待ってよ。
 たまには男二人で飲みながら、音楽の話でもしようよ〜」


 胡散臭そうに睨みつけながらも、本当は顔のにやけが抑えられないくらいご機嫌な千秋は、しぶしぶ……といったポーズでジャンを部屋に招きいれた。









 ジャンの持ち込んだワインの銘柄をチェックし、及第点を出すと、やっと真一はジャンに椅子を勧めた。


 「今日は、ゆうこと一緒にいなくていいのか?」


 「うん。僕だってたまにはね。
 今日は奥様とサロンパーティーに出かけていったよ」


 「ふうん……」


 「の、のだめは?今、どうしてるの?」


 「アイツは……。
 明日、イタリアに来る予定……」


 「ええっ!エリーゼは大丈夫なのか?(千秋のもう一人の女として)」


 「はぁ?エリーゼは関係ねーだろ……(マネージャーだから関係なくもないけど)」


 「だって……エリーゼだって、のだめがチアキのいるイタリアに行ったって知ったら、気を悪くするんじゃない?」


 「……ちょっと待て……。
 お前、エリーゼって誰のこと言ってンだ?」


 「えー?
 だから、ブラジル人女性で、千秋の第二の女?」


 「お前か!ヴィエラ先生の言ってた、確かな筋って!」


 「え?え?なんの事?(しらばっくれ)」


 「お前、もう部屋帰れー!」


 結局、ジャンは早々に部屋から放り出され、真実の核心に触れることはできなかった。


 「千秋ってば、なかなか口が固いな。でも絶対諦めないんだ」


 変な方向にまっすぐ前向きなフランス人指揮者は、決意も新たに自分自身に誓った。









 翌日、のだめがイタリアにやってきた。
 ローマ市内のホテルに落ち着いたとメールがあり、仕事が終わってから迎えに行くと返信を入れる。


 ヴィエラ先生に仕事の合間に伝えたところ、夕食を一緒にしようと誘ってくださったので、のだめにはドレスアップして待っているようにメールした。


 ホテルに迎えに行くと、のだめはロビーで待っていた。


 光沢のある鮮やかなブルーのシルク地に、美しいチャイニーズテイストの刺繍が施された大人っぽいドレスを身に纏ったのだめは、いつもとはまったく違う雰囲気。


  一流ホテルのロビーでも一際目を引いていて、真一はすぐに声をかけるのを躊躇い、しばらく見入ってしまう。


 「あ、真一くーん!こっちデス!」


 のだめは俺を見つけると途端に破顔させ、こちらに駆け寄ってくる。


 「お、お前うるさい……」


 「だって、一週間ぶりデスよ?夫に逢えるヨロコビを表現してるんデスよ」


 「夫じゃねぇ……、まだ……」


 ぎゃはぁ!新しいツッコミ〜!と大喜びして煩いのだめを引っ張って、待ち合わせのレストランに向かった。









 予想通り、ヴィエラとのだめは紹介が済むと、あっという間に意気投合した。


 共通の趣味があるわけでも、話題があるわけでもないのに、テーブルに並ぶ食事のことでも、最近見た映画の話しでも、どんな話題でも感性が近いのか意見が一致するのだ。


 やっぱりこの二人、似たもの同士なんだな。


 朗らかな笑い声を上げながら楽しそうに会話をする二人を、真一は嬉しいような、ちょっと妬けるような、複雑な心境だ。


 和やかに食事が終わり、ゆったりとしたソファー席に移動して、食後のエスプレッソをいただく。


 「で?式はいつにするんだ?」


 ヴィエラが真一とのだめを交互に覗き込みながら尋ねる。


 「まだ、何も話してなくて……」


 「そうか……。真一のイタリアでのスケジュールだったら気にしなくていいぞ?のだめちゃんのスケジュールに合わせればいいんだから」


 「のだめは……お休みはちょこちょこあるのデスが……」


 のだめはそう切り出すと、言いづらそうに俯いてしまう。


 「ん?なんだよ?」


 「えっと……。さすがに両親に話す前にあれこれ決めてしまうのは、抵抗があるというか……」


 「あ……」


 「真一、まだのだめちゃんのご両親に挨拶してないのか?」


 やべ……、すっかり忘れてた。


 「やっぱり、日本帰るべきか……」


 そりゃそうだろー!とヴィエラに呆れられ、脳内で野田家訪問のシミュレーションをしてみる。


 う……、かなり体力消耗しそうだ。


 今夜にでも電話でご挨拶しなさいと諭され、だから今日はのだめちゃんとホテルに泊まっていけと、ニヤつかれる。


 これから先どのくらい、こんなからかいを受けるのだろうかと考え、早く済ませてしまいたいとため息をついた。




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