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マエストロの婚礼 34 初めて訪れたオクレール邸。 初めて会って、弟子ののだめの夫になることを挨拶し、それで終わるのかと思っていたオクレール氏との会談は、思いもよらぬ急展開となる。 真一はなぜか、初めてのキッチンでのだめとオクレール氏のために美味しい夕食を作り、できあがった料理の数々をいまかいまかとヨダレをたらさんばかりに待ちわびている二人の前に並べているところであった。 「むきゃぁー!たこデスよ、たこ! のだめ、ヨーダのお話聞いているときから、たこが食べたくて仕方なかったんデスよ!」 「メグミもですカ? 私も、超大だこと漁師の死闘を思い浮かべながら、美味しいタコ料理を想像していたんですヨ〜!」 「はぁ……いろんな意味で師弟関係だな……」 真一は、オクレール氏に渡されたワインのコルクを開けながら溜息をつき、3人のグラスにワインを注いだ。 「タコのカルパッチョも、タコとトマトとチーズのオーブン焼きも、タコと鶏肉と蕪の煮込みも最高でシタ〜! はぅん……、のだめ満足デス」 「本当に、どの料理も素晴らしかったヨ! のだめが自慢するだけのことはあるネ。全部君のオリジナルですカ?」 「はい……、まぁオリジナル料理というほどのものでは……」 「せんぱい……、デザートはなんデスか? いたっ!痛いデス……」 「それではデザートの代わりに、私がマサユキ・チアキと、そのお父様のお話をしまショウ」 リビングに場所を移動し、オクレールの入れてくれたコーヒーを飲みながら、俺が知らない、親父と祖父の話を聞くことになった。 「話……といっても、さきほど言ったように、あくまで噂話として聞きかじったお話です。 どこまでが事実なのか、また大した内容のお話でもありませんから、がっかりさせてしまうかもしれませんが。 噂話は本来好むほうではありませんが、なにか、このお話があなたたち二人にとって大切なことのようですから、お話することにしまショウ」 そういって、オクレールはコーヒーを一口含むと、何かを思い出すように遠くを見つめながら、ゆっくりと話し出す。 「マサユキ・チアキ氏のお父様は、私と同じピアニストの指導者をしていて、大変厳しい指導をする方だったそうですが、とても真面目で誠実な方だったと聞いています。 チアキ氏も……、失礼、ここではお父様のことをチアキ氏と呼びますヨ? チアキ氏も幼い頃からお父様の指導のもと、ピアニストになるべく、日々厳しいレッスンを受けていたようです。 お父様の素質を受け継いで、チアキ氏も幼少の頃から卓越した演奏技術を備えていたそうです。 しかし、思春期を迎えるころから、チアキ氏はピアニストとしての道ではなく、作曲の方面に興味を持ち始めたようですね……」 「作曲?親父が?」 オクレール氏は、真一を見つめ、静かにうなづくと、また静かに語りだす。 「しかし、お父様は作曲を始めたチアキ氏を認めることはせず、頑なにピアニストとしてレッスンを続けることを強いたようです。 そこで、チアキ氏とお父様は仲たがいをすることになり、チアキ氏はお父様の元を飛び出した……。 二人は長い間疎遠のまま、チアキ氏とお父様は和解することなく、死別されたと聞いています。 チアキ氏が作曲の道に進むのをやめたのか、それともうまくいかずにピアニストとしての道へ戻ったのか、どのような事情で今のピアニストとしてのマサユキ・チアキとなったのか、それは私にもわかりません。 でも、自分の息子がピアニストになりたいと言ったとき、自身の父親との確執を思い出し、ピアノはやめろと言ったのではないかと、想像はできますね……」 「……」「……」 「今日は、初めての訪問で、このように長居をしてしまい、申し訳ありません。 また、大変貴重なお話をうかがうことができて……ありがとうございました」 「いえいえ、長くなったのは私がわがままを言って、チアキに料理を作ってもらったからですから。 このように手料理をいただいて、チアキのマルレでの演奏を聴くのと同じように、あなたの誠実さを知ることができて、大変満足です。 メグミのことを安心してお任せできますヨ。大変でしょうけど、頑張ってくださいネ?」 「ヨーダ、大変でしょうけどってなんデスか? なんか奥歯にタコの筋がひっかかったような言い方デスけど……」 「あはははっ!その通りですヨ?メグミも少しはお話の本質というものが理解できるようになったのですネ。 これからの演奏もその調子で期待してますヨ?」 こうして、俺とのだめはオクレール邸をあとにした。 「ふぅぅ……、驚きまシタね。賢者はこんなところにいたんデスね。 のだめ、一気に千秋父子の秘密と謎の解明に近づいた気がしマス……」 「……」 「真一クンはどうデスか?驚きまシタか?」 「あ、ああ……」 「週末、のだめと一緒にあの街にいきまショウ。 シモーナのご主人からお話を聞くことになっているんデス。 のだめも一緒だし……。きっともう大丈夫デスよね?」 「……そうだな……」 「ぎゃぼっ!く、苦しいデスよ……」 俺はなんだか胸がいっぱいになって、人目も気にせず、のだめを力いっぱい抱きしめた。 そうしていないと、なんだか自分がバラバラになってしまいそうだったから。 「今夜……、俺の部屋でいいよな?」 「はい……。美味しいデザートつけてくだサイね?」 そういって潤んだ瞳でおねだりする小悪魔の禁断の果実に吸い寄せられるように、俺はのだめの唇をかるく掠めると、アイツの手を握って早足に家路を急いだ。 35へ> |