芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 33






 午後のオクレール邸。


 オクレール氏は、のだめの持参した"博多通りもん"を頬張り、満足気に微笑むと、お茶でのどを潤してから、静かに語り始めた。


 「ある漁村に漁師の父子がいました。
 父はたこ漁の名手で、村一番の大だこ捕獲の記録保持者で、村で彼の右に出るものはいませんでした」


 「たこ……」「大だこの記録保持者……」


 「その息子もまた、たこ漁の道に進みましたが、なかなか父親の腕に追いつくことができず、父を尊敬しつつもいつか父を追い越したいと、日々努力に努力を重ねていました。

 ある、嵐の日。
 漁師たちは仕事を休み、村の居酒屋で飲んだくれていました。

 たこ漁の名手の息子もその場におりましたが、同席した父のライバルにこんなことを言われます。

 『お前の父親がもっている大だこの記録は、本当は一番じゃねぇ。

 3年ほど前、今日みてーな嵐の日、お前の父親はビビッて漁を休んでいたが、こんな日は大だこが出るからな、俺はみんなが止めるのも聞かずに漁に出たんだ。

 その時、俺はそりゃーでかいたこに遭遇して、12時間の死闘のすえ、お前の父親の記録なんぞ倍は超えるくらいの超大だこを捕まえた。

 でも、漁から戻るときに船は大波にさらわれて、大荒れの海に投げ出された俺は、いのちからがら身体ひとつで陸に戻ってきたってわけさ』」


 「超大だこと12時間の死闘……」「ぜってー嘘だろ……。てゆーか、獲れてねーし……」


 「ライバルから父を侮辱され、そして嵐の日に超大だこが出るかもしれないと聞いた息子は、いてもたってもいられなくなりました。

 急いで自宅に戻ると、息子は父親にこれから漁に出て、超大だこを獲ってくると宣言します。

 父は危ないし、超大だこなんて獲れやしないと止めますが、息子は父親の制止を振り切り、嵐の中、漁に出たのです……」


 「がぼん……」「あほだな……」


 「結局、息子はその日以来、漁に出たきり、戻ることはなかったそうです……」


 「はぅぅ……」「……」


 「ふぅぅ……」


 一気に話しきり疲れたのか、オクレールは新しいお茶を注ぎ、カップのお茶を一気に飲み干し、再び口を開く。






 「……というお話です」






 「……美しいお話デスね……」


 「え?えええっ!?あの……、"祈りの洞窟"の件は……」


 「あれ?出てきませんでしたネ?」


 「……そうデスか?
 でもいいじゃないですか、美しいお話だったんデスから……」


 「よ、よくねぇっ!」


 「うーん、そういわれてみれば洞窟のことはお話の中に出てきませんネ(さらり)

 でも、あの洞窟は、父と子で訪れると、絆を深めるとか、二代に渡って同じ職業につく父子の繁栄を約束するとかって伝説があるんですヨ?」


 「たこ漁師父子の話、いらなかったのでは……」


 「ほわぉ……。だから雅之さんは、幼い真一クンを連れて?」


 「ありえねー……。
 アイツは俺がピアニストになりたいって言ったのに、ピアノはやめろって止めたんだぞ……」


 「ああ、マサユキ・チアキですか。あなたのお父様でしたネ。

 マサユキ・チアキのお父様も、私と同じようにピアニストの指導者でしたね、そういえば」


 「「えええっ!!!」」









 「千秋先輩、お父様からお祖父様のお話、聞いたことないんデスか?」


 「ない……」


 「……そうでしたか。

 では、私からするお話ではないですかネ?」


 「よよよヨーダっ!ここまで振っておいて、出し渋りなんて、のだめだって真一クンだって、読者の皆サンだって、納得しまセンよ!
 暴動がおきマスよ!炎上しマスよ!?」


 「……なんの話だ……」









 「では、お話しまショウ。
 ただしこれは、あくまでピアニスト仲間のあいだで、噂話として聞きかじったお話です。

 ですから、そのような類のお話だというつもりで、聞いてください。いいですネ?」


 「「はい……」」


 「あー、でも僕、一生懸命お話したから、お腹すいちゃったヨ?
 そういえば、チアキはとても料理が上手だと聞きましたが?

 ちょうど妻は、料理の腕を磨くためにエジプト修行(旅行)に行って留守なんです。

 チアキ、お近づきのしるしに、美味しい料理をふるまってくれませんカ?」


 「あ、いいデスねー!それっ。
 先輩、ちゃっちゃとお料理つくっちゃってくだサイ!
 のだめ、その間にヨーダにピアノのレッスンしてもらうことにしマスから」


 「はぁぁ……、結局出し渋りじゃねーか……」


 真一は、主が留守のキッチンで、"失礼します……"と断りながら食材を見繕っていく。


 「げ、タコ……」


 冷凍されたみごとなタコをみつめながら、たこ漁師父子に思いを馳せる真一であった。



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