芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 25






 ウィーンに到着した。


 のだめとは一度、ジジィの見舞い目的兼清良に会うために訪れたきり。


 あの時は、ジャンとかゆうことか邪魔者がいたし、真冬であんまりいい景色も見せてやれなかったから、今度こそ子供時代の思い出があるウィーンのいろんな場所を見せてやりたかったんだが……。


 「さ、『マ』のアジトに潜入して、直接対決デスよ!急いでくだサイ!」


 「はぁ……。なんだよ、そのお前のテンションの高さは……」


 ウィーンは小さな街だから、移動は楽だ。
 空港からタクシーであっという間にアイツの自宅に到着してしまった。


 8歳から4年間、暮らした家でもあるから、思い出も多い。
 ヴィエラ先生とも出会った場所でもある。
 俺は、アイツがあの日、「タバコを買ってくる」といって出て行ったきり、戻ってこなかった玄関を感慨深く見つめた。


 「いろいろ思い出しマスか?」


 「そんなこと……、あるかな」


 「ぎゃぼっ!素直な真一クン……」


 「ほらっ、行くぞ?」


 「は、はいっ!」


 俺は20年ぶりに、ウィーンの家の玄関に立った。









 「お、本当に来たな」


 「おっ、おじゃましマス……」


 「どうも……」


 リビングに通され、コーヒーでも飲むか?と聞かれ、じゃあとお願いする。


 のだめを振り返れば、がちがちで白目をむき、完全に石化していた。


 「お、おい……。大丈夫だから、そんな緊張すんなって」


 「は、はい……」


 コーヒーを持って、雅之が二人のむかい側に腰掛けると、突然のだめが立ち上がって切り出した。


 「お、お父様っ!この度、真一さんに貰っていただく私のだめこと、野田恵と申しますっ!」


 「「のだめぐみ?!」」


 「お前、昨日入籍しただろ?」←真一
 「お前、日本人だったのか?」←雅之


 「「えっ?!」」


 真一と雅之が、お互いの発言に驚き、顔を見合わせる。


 「いやデスねぇ、父子だからって、仲良く同時に発言しないでくだサイよ?」


 「昨日、入籍したんだから、千秋恵になったろ?」


 「え?そうなの?はやっ……」


 「てゆーかアンタ、日本人だったのかってどういうことだよ?」


 「いやぁ、NODAMEなんて名前だったから、中国系かなんかかと……」


 「お父様、のだめはれっきとした日本人デス。のだめぐみ、略してのだめですから、お父様ものだめって呼んでくだサイね?」


 「わ、わかった」


 「それからっ!真一クンっ!」


 「な、なんだよ……」


 「お父様のこと、ちゃんと『お父さん』とか、『親父』とか、『ダディー』とか呼んでくだサイ?アンタとか、アイツとか、おかしいデスよ?」


 「えっ!なんで今そんなこと……」


 「だって、これからいろいろお願いしなくちゃいけないこと、あるデショ?」


 「お願いってなんだよ?お祝いはいらないっていってたじゃねーか」


 「ど、どうしても呼ばなくちゃだめか?」


 「だめデス!
 だって、もしのだめと真一クンに、こ、子供ができて、息子から『アンタ』とか呼ばれたら、真一クンだっていやデショ?
 父親が自分の父親のことをちゃんと呼んでなくて、息子にどうやって呼ばせるんデスか?」


 「うっ……」


 「そーだそーだ!のだめが今、いいこと言った!」


 きっ!


 真一が雅之を睨みつける。


 「お、おい……。
 そんな怖い顔で、お父さんを見るもんじゃないぞ?な、嫁」


 「のだめデス!まぁ、嫁って響きも悪くはないデスが……はぅん」


 「な、なんて呼べばいいんだよっ!」


 「「じゃあ、ダディーで」」


 「ふざけんなっ!お前らなんで、息ぴったりなんだよっ!」









 「お、親父……」


 「「おおっ!」」


 「のだっ……、恵と昨日、入籍しました。
 あと1ヶ月半後には、イタリアで挙式します。


 実は、結婚を決めてからまだ半年もたってなくて……。
 突然だったので、二人で住む住居とかまだ見つけてないっていうか……、探す時間もなくって。


 で、頼みがあるんだけど……。」


 「なんだ?お父さんに言ってみなさい」


 なんだか嬉しそうな雅之。
 真一は、父親に頭を下げるという人生初めての経験に、なかなか言葉がでない。


 「し、真一クン、頑張ってくだサイ?」


 隣ののだめからのエールに、思い切って切り出す。


 「か、母さんから聞いたんだけど、親父、16区に結構広めのアパルトマン持ってるって……」


 「あれはだめだっ!あれはやらないぞ!」


 「ぎゃぼっ!」


 「はぁ……、誰もくれなんて言ってねーだろ?
 やっぱりアンタって子供だな」


 「なにぃ?それが父親に対する口の聞き方か?あ?」


 「なにが父親だ?あ?父親ヅラするんなら、それなりのことやってみろよ?」


 「だぁーーーーーーーっ!
 二人ともいい加減にしろってんデスよ!!!」









 「お父様、16区のアパルトマンって、3LDKで、ピアノが二台は余裕で置けるってほんとデスか?」


 「まぁな。あそこは掘り出しモンだったんだよ。
 オーナーが音楽好きの金持ちで、ニナの知り合いだったんだけど、最初はニナにぜひって話だったんだ。
 でも、ニナはすでに郊外に一軒家を構える予定だったから、俺にどうかって話が来て。


 別に、パリにそんなに広い部屋は必要ないんだけど、パリで部屋を探すのは大変だからな、かなり条件もいいし、状態もよかったから、何かの時の備えって感じで購入したんだよ。


 まぁ、場所が16区だから、すごい値段ではあったけど、ちょうどパリがオリンピックの候補地に立候補するかもなんて話が出てる頃で、もしオリンピック地に決まりでもしたら、地価高騰でかなり稼げると思ったしな。
 結果的にはロンドンに決まっちまったから、大儲けはできなかったけどな」


 「まぁ、お父様ったら、結構ギャンブラー?」


 「まぁな、嫌いじゃねーよ」


 パリの住宅事情は、東京よりもキツイ。
 なにしろ、土地は狭いし、高さ制限や景観保護もうるさく、とにかく需要に対して供給が追いつかない。


 需要が多いから、供給側であるアパルトマンのオーナーたちは、横暴になりやすいし、家賃もどんどん上がる。


 パリ市内で、3LDKもの広さがあって、ピアノが二台置けるなんて部屋、自力で見つけようとしたらどれだけ時間がかかるか……、家賃だって俺たち二人で払える額とは思えない。


 「あの、お、親父……。
 譲ってくれとかっていうことじゃなくてさ、貸してもらえないかな?


 もうちょっと落ち着いて、ほかのところが見つかるまででいいからさ。
 パリの相場で払うことは難しいかもしれないけど、ちゃんと家賃だって払うつもりだし……。


 お、お願いします」


 俺は、ソファーから立ち上がって、親父に頭を下げた。
 それを見たのだめも慌てて立ち上がり、一緒に頭を下げているようだ。


 「……よし。家賃は払えるだけでいいから、貸してやる。
 そのかわり、メンテナンスはちゃんとしろよ?綺麗に使え。
 資金が必要になったら、売却するからな。


 あと、俺がパリで仕事のときは使わせてもらう。
 一部屋空けておけ」


 「……わ、わかった」


 「お父様っ!ありがとうございマス!」


 のだめは親父のそばまで飛んでいって、抱きついたので驚いた。


 でも、俺より親父のほうが驚いて、慌てて引き剥がそうとするところがおかしくて、俺はふきだした。


 物心ついてから初めて、親父の前で大笑いした気がする。



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