芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 24






 入籍の夜を文字通り甘ぁーく過ごした真一とのだめ。


 しかし、真一はやはり明け方近く、悪夢に大声を上げ、目を覚ましてしまう。


 "やっぱり、安定剤飲んでないとだめか……"


 大声に一緒に目を覚まし、不安そうな表情を浮かべる真一を見て、のだめはある事を話す決心を固める。


 「真一クン、大丈夫デスか?
 もしよかったら、コーヒーでも飲みながら、少しお話しまセンか?」









 真一がシャワーを浴びている間に、のだめはコーヒーをセットし、リビングで真一を待つ。


 シャワーから出てきた真一にまずミネラルウォーターを一杯飲ませ、キッチンのダイニングテーブルにコーヒーを運んだ。


 「話って……、こんな朝早くからしなきゃいけないことか?」


 「そうデスね……。今の真一クンには一日も早くお伝えしないといけないことデス。そして、その上で、今日は雅之さんにも会ったら、このことについて聞く必要があると思いマス」


 「アイツにも関係あるのか?」


 「おおあり有馬の兵衛向陽閣デスよ!」


 「はぁ?!」


 「ふぅ……、ヨーロッパ育ちの男は日本ローカルなギャグに疎くて疲れマスね。まあ、そっちはスルーしてくだサイ」


 「オイ……」


 「先日……、挙式をする教会のある街には、真一クンが5歳の時に家族旅行で訪れているとお話しまシタね?あのホテルにも泊まっているし、だから、真一クンは懐かしい気がしたのだろうと」


 「う、うん……」


 「それは本当のことなんですが、それともう1つ、あの街で起きた出来事がありマス。


 これをお話すると、真一クンがあそこで挙式をしたくなくなるのではないかと征子ママが心配して、言わないで済むならそうしてほしいと、のだめは頼まれて、真一クンには黙っていました。ゴメンナサイ」


 「それってもしかして……、あのマリーナで倒れたこととか、最近の悪夢とかと関係あるのか?」


 「はい……。真一クンが海恐怖症となった原因は、5歳の時、あの街で溺れたことだそうです」


 「……」


 「海で溺れた真一クンが発見されたとき、心肺停止状態ですでに意識はなく、1週間生死を彷徨ったそうです。


 征子ママと雅之さんは、それこそ最悪の事態を覚悟したそうです」


 「生死……。飛行機事故よりひどかったんだな……」


 「はい……。のだめも征子ママからお話を聞いて、本当に驚きました。
 5歳の真一クンが助かってくれて、本当によかったデス……」


 「幼かった真一クンはその後、奇跡的な回復力で後遺症ひとつなく、無事1ヵ月後には病院を退院することができたそうですが、やはりその時のショックだったのか、溺れたときのことなどは記憶がなく答えることができなかったそうです。


 意識を回復してもしばらくは、ぼぉっとして普段の真一クンではないようだったと征子ママは悲しそうに話していました。


 退院後も入院の時の話は、なんとなく家族で触れないようにしていたこともあり、真一クンの記憶から薄れて行って、辛かった記憶とともに消し去ってしまったのではないかと、征子ママは想像しているそうです」


 「ふぅん……」


 「ショックですか?何か思い当たることとかありマスか?」


 「いや……。5歳の時に海で溺れたことは聞いてたし。記憶がないことを聞かされても、なんだか他人事みたいでピーンと来ないというか……。


 でも、生死を彷徨ったって聞いて、やっと夢の感覚が納得できたよ。


 俺は、真暗な闇の中で、身動きもとれず、声もあげられず、死を覚悟するんだよ……」









 のだめが母親から聞いた話によれば、俺はその日、父親と二人で出かけたらしい。


 父親は当時、ピアニストとして活躍の兆しが見えてきたころで、家族と一緒に過ごせない時間がふえてきたこともあり、俺は久しぶりに父親と二人で出かけることをとても喜んでいたらしい。


 母親がどこにいくのかと尋ねると、男同士の秘密だと、二人で嬉しそうに笑いあって出かけて行ったので、母親は本当にどこに行くのか知らなかったらしい。


 俺が病院に運ばれ、父親から連絡をもらった母が駆けつけた頃には、父親は自分も海に落ちたのか、出かけた時の服装はかなり乱れ、じっとりと湿っていたという。


 かなりのショック状態で、何を聞いても「すまない、俺が悪かった」と繰り返し言うばかりで、とにかくその時は俺が危篤の状態にあったこともあり、それ以上追求することはしなかったそうだ。


 俺が元気になり、しばらくして折りをみて訊ねてみたらしいが、「俺が悪かった」と謝るばかりで、どこで何があったのかを聞くと、口をとざして塞ぎこんでしまうため、最後まで何があったのか、母は知ることができなかったと。


 「だから、真一クンの今の悪夢を止めるには、雅之さんに真実を語ってもらうしかないんデス」


 「マジかよ……。なんだよ、この韓流ドラマみたいな展開は……」


 「ぎゃぼっ!どしましょ?実はのだめと真一クンが兄妹だったりしたら……」


 「死ね……」


 はぁぁ……。俺は大きく溜息をつき、朝食の支度にとりかかる。


 父親にのだめを紹介することだけだって気が重いっていうのに、トラウマの秘密だとか、パリの住居の件とか……、いろいろストーリー詰め込みすぎだろっ!と誰に対してなのかわからない真一のツッコミが入る。


 俺、どうしてこんなにいじられないといけねーんだよ……、普通に結婚させてくれ……。









 朝食をとりながら、今日の予定を相談する。


 「時間があんまりないんデスから、移動は飛行機デスよ?」


 「げっ」


 「のだめが一緒だから大丈夫デショ?
 今は海トラウマのほうが深刻なんデスから、飛行機ぐらいでガタガタ言わないっ!」


 「は、はい……」


 「はぅーんっ!今日も愛夫の作る朝食は最高デシた!真一クン、愛してマス!」


 のだめは俺に抱きついてキスをすると、食べ終わった食器をシンクに片付け、出かける準備にむかった。


 「今日はマサユキ・チアキと直接対決デス!むっきゃぁーーーー!」


 やたらテンションの高いのだめに、俺はまったくポジティブな要素を見出せないまま、のろのろと朝食を口に運んだ。



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