芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 23






 やっと真一と連絡が取れ、ほっと一安心したのだめは、さっそく征子に報告のための連絡をした。


 「征子ママ、のだめデス」


 「のだめちゃん?真一とは連絡取れた?」


 「はい。先ほど退院して、これからパリに向かうって。元気そうでした」


 「そう……。思い出したのかしら?」


 「いいえ……。
 でもあの街のマリーナに何かあるとは気づいたのではないかと。
 今の段階であの街に行くことが難しくなってますカラ……」


 「そうね。のだめちゃんには悪いけど、真一に本当の事、伝えてくれる?」


 「はい、わかりまシタ」


 「そうそう、今日、婚姻届提出したのよ。無事受理されたから、のだめちゃんはもう、千秋恵よ」


 「……」


 「……の、のだめちゃん?もしもしっ!」


 「……す、すみません、少し意識を失っていまシタ……。
 ちょっと刺激の強いワードだったので……」


 「ぷぷっ。チ・ア・キ・メ・グ・ミ?!」


 「……」


 「あははっ!のだめちゃんってば、可愛いわね〜!」


 「はっ、また記憶の欠落が……」


 「はいはい、がんばって慣れてね?
 それより、明日『マ』のところ、行くの?」


 「行きますケド……、征子ママがその言い方します?」


 「いいじゃなーい!なんか隠語みたいで、かっこいいんだもの」


 「……」


 「真一の事、こちらも覚悟をきめて、トラウマを少しでも軽くするように頑張りましょ?『マ』にも明日は協力するように言っておくから」


 「お願いしマス」


 「ところでのだめちゃん、真一の飛行機恐怖症をどうやって治したのか、いつになったら教えてくれるの?」


 「それはデスね、のだめ一生の秘密デス。墓場まで持って行きマスよ?」


 「まぁ……」









 パリに戻ってきた。


 自分のアパルトマンへ寄って、衣類の交換やら、郵便物の整理などを済ませ、のだめのアパルトマンへ向かう。


 中庭に入れば、のだめの奏でる明るい曲に出迎えられて、ドアを開ければそれ以上に明るいのだめに飛び付かれた。


 「おいっ!あっぶねーなー」


 「真一クン!のだめにお祝いしてくだサイ!」


 「お祝い?なんのだよ?」


 「えっと……、の、のだめが野田恵から、ち、ち、ちあ……」


 ぎゃはぁー!無理デス、無理デス、言えないデスよ?こんな破壊力のある言葉は……と、両手で顔を覆い俯いて、もじもじと身体を左右に揺らしている。


 「そんなこといったって、言わなきゃわかんねーぞ?何があったんだよ?」


 「もうっ、真一クンってば、夫婦なんデスから、以心伝心で分かってくだサイよ、もうっ!」


 「あ、もしかして……入籍したのか?」


 のだめは、弾かれたように両手を顔から外し、こちらを見つめると、真っ赤な顔にきらきらとした瞳でこくこくと大きくうなづいた。


 「わかった。呪文料理、作ってやる。
 特別に香港系のデザートも作ってやる」


 やったー!!!
 のだめは奇声を上げながらばたばたしていたが、俺がキッチンで料理を始めるとピアノを弾き始めた。








 こんなお祝いになるとは予測していなかったが、虫の知らせか、先日の香港初体験の余韻か……。
 俺は行きつけのフルーツ専門店でフィリピンマンゴーが空輸されているのを目ざとく見つけ、少し値は張ったがどうしてもマンゴープリンが作りたくなり、購入してしまった。


 のだめのピアノをBGMにしっかりと熟したマンゴーの皮を剥き、ピューレにする。


 キッチンいっぱいにマンゴーの濃厚でワイルドな香りが広がる。


 お、のだめの手が止まった。さすが、匂いフェチだな。しばらくくんくんと嗅いだあと、リビングからどたどたと走りこんでくる音。


 どぉーーんっ!


 「こらっ!あぶねーだろ?」


 俺の背中に力いっぱい抱きつくのだめ。振り返って顔をのぞくと、嬉しそうな満面の微笑みに出会う。


 「し、真一クンっ!ま、マンゴーですねっ!!!」


 「当たり。さすが動物的臭覚だな」


 「むっきゃぁーーー!真一クンっ、大好きっ!」


 「知ってるから。まだ時間かかるから、ピアノの練習しとけ」


 するとのだめは、ジューサーに入れられずに作業台に残されていたマンゴーの種を見つけ、うるうると瞳をうるませて、上目遣いで小首をかしげ、俺のしゃつを掴むと、おねだりモードに入る。


 「真一クゥン……、そのマンゴーの種なのデスが……、その種の周りについている部分が、マンゴーの中で一番美味しい部分であることをご存知デスか?」


 「知ってるけど?だからできるだけこそげ落として、ピューレにしてるんだけど?」


 「はぁはぁ……。でもまだ残ってマスよ?」


 「はぁ……。わかったから、鼻息荒すぎんだよ……」


 作業台に残っていたマンゴーの種を掴み、のだめに手を洗えと鼻先で指示する。
 途端に目を輝かせて、大人しくキッチンで手を洗い、両手を俺のほうにすごすごと差し出す。


 「しょーがねーなぁ……」


 「はぅっ!!!」


 飼い主から『よし』と許可を得た飼い犬のように、のだめは両手で大事そうにマンゴーの種を持つと、うっとりと恍惚の表情を浮かべ、マンゴーの種にかじりつく。


 「はぅっ!はぅぅ……」


 「う、うまいか?」


 まるで動物のように夢中でマンゴーの種にかじりつき、俺の問いかけに一瞬こちらを見て、しゃぶりついたまま大きくうなづくのだめ。


 口のまわりは果汁でべたつき、種を持つ両手からも、果汁が垂れて、腕をつたっていく。


 「ぎゃぼっ!」


 思わずのだめの腕を掴み上げ、垂れた果汁を舐めてしまう。


 「甘いな……。
 なぁ、メシ、もうちょっと待てるよな?今、それ食ったから……」


 「がぼん……、真一クン、スイッチオン?」


 「夫婦になったんだろ?儀式が必要だからな……」


 「なんデスか、それーーー!!!」


 「お前が悪い。俺は料理してたのに……」


 真一は、のだめの両手から果肉をこそげ落とされ綺麗になった種を取り上げると、抵抗するのだめをそのまま抱き上げてベッドルームへとむかった。



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