芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 15






 二人を乗せた飛行機は、定刻通り日付が変わった18時すぎ成田に到着した。


 のだめとずっと一緒にいるからなのか。
 長時間のフライトも以前に比べてさほど辛くない。


 今日一泊三善家に泊まり、明日は大川で一泊、そして翌日には日本を出なければならないという強行スケジュール。


 一分たりとも無駄に出来ない貴重な滞在時間ではあるが、これから横浜の三善家に直行しても21時過ぎ。


 みんな食事を済ませてしまっているだろうから、途中で食事をして帰ろうかと真一が提案する。


 「じゃあ裏軒いきまショウよ!
 のだめ、1年ぶりのマーボ食べたいデス!」


 「完全に寄り道じゃねーか……」


 「いいじゃないデスかー。
 今回は時間もなくって、峰くんや真澄ちゃんたちにだって会わずに帰らなくちゃいけないんですから、裏軒マーボにだけでも会っておきまショウよ?」


 「マーボと同列かよ……」


 ふっ。ちょっと峰や真澄が可哀相だな……。(あなたと呪文料理も同列ですよw)


 タクシーの運転手に行き先の変更を告げ、どっかりとシートに背中を預け、まぶたを閉じる。


 真一は婚約者の左手を握り締めると、薬指のリングをそっと撫でた。









 ガラッ!


 「いらっしゃーいっ!」


 カウンターの中で、扉の開く音に反応して、いつもどおり声をあげた龍見は、なにげなく客に視線を送り、その2人の客の顔に驚くと、喜びの声をあげた。


 「のだめちゃんと……、先生!」


 「峰パパー!おひさしぶりデス!」


 夕食のピークの時間は過ぎ、閑散とした店の中で、再会の喜びの声が響き渡った。


 裏軒も龍見も、二人が日本を出たときと寸分たがわず、そのままの姿でいてくれた。


 激動の数年間だったが、今も変わりなく二人を迎え入れてくれる場所と人があることに、とても安心する。


 自分たち二人の関係は、出会ったころとは180度変わってしまったけれど。


 でもそれは、恋人とか婚約者だとか、一般的な定義だけであって、自分たち二人がお互いの心に占める大きさだとか深さなんかは変わっていないのかもしれない。


 そんな真一の感慨に浸る様子にはお構いなしで、いつものとおり龍見は、のだめにマーボ炒飯餃子セット、真一にクラブハウスサンドを運ぶと、二人のテーブルの前に立ち、話しかけた。


 「今回はどうしたの?仕事?」


 「えっと……、なんて言えばいいデスかね?先輩」


 「えっ!……、そ、そうだな、結婚準備のため?」


 ぎゃはぁー!結婚ーーーー!
 奇声をあげて、わけがわからなくなっているのだめに代わり、千秋が龍見に説明をする。
 もう、いい加減に慣れろよ……と思いながら。


 「結婚することになりまして……、俺の実家とコイツの実家によって、諸々挨拶とか、事務処理とか……」


 「そうでしたかー!それはおめでとうございます!
 残念だなぁ、龍太郎はねぇ、今、舞台の仕事が本番まもなくで、毎日帰ってくるのは真夜中なんですよ」


 「そうなんですか……」


 「お二人にも会いたかったでしょうに、残念ですね」


 「今回はスケジュール的に、明後日には戻らないといけないので……」


 いずれ、落ち着いてからゆっくり時間がとれるときにと告げ、懐かしいクラブハウスサンドを口に運んだ。









 やっと三善の家に着いた。


 自分とのだめの荷物をまとめたいつもより大きめのスーツケースをひきずり玄関に立つと、三善家の面々に迎えられる。


 「のだめちゃーん!」


 「由衣子ちゃーん!」


 従姉妹の由衣子がまっさきに飛びつくのは、いまじゃ俺じゃなくて、のだめなのが当たり前で。
 嬉しいような、淋しいような、ちょっと複雑な気分だ。


 「真兄、とにかく部屋に上がってみてよ」


 従兄弟の俊彦がにやつきながら言うと、由衣子や叔父、母までもが意味深な笑顔で俺達を見る。


 「な、なんだよ……」


 「まあ、私からのちょっとした結婚祝ってとこだ」


 「?」


 叔父からの言葉の意味がよくわからないまま、2階の自分の部屋にあがり、ドアを開ける。


 「な、なんだこれ……」


 「ほわお……劇的ビフォーアフター……」


 中学から高校までを過ごした俺のなんの飾りもない質素だったはずの部屋は、隣の部屋まで壁をぶち抜いたのだろう、倍の広さになっている。


 落ち着いたシックな色ではあるが、男一人の部屋には似つかわしくない、ソファーやテーブル、クッション、ラグやカーテンに迎えられる。


 手前がちょっとしたリビングスペースで、その奥にもう一つ壁で仕切られ、ドアがある。


 驚いて動けない俺にかわり、のだめがそそくさとドアをあけると、そこにはクイーンサイズのダブルベッドがのぞいており、寝室になっているようだ。


 「ファブリックは私と征子ママセレクトよ?」


 ねー♪と、母親と嬉しそうにしてる由衣子。


 「簡単なシャワールームもつけておいたから、いろいろ気兼ねしなくていいぞ?」


 と叔父。


 いろいろ気兼ねって……。


 「寝室は部屋の奥だし、二重扉だし、防音は完璧で、照れ屋な真兄にもばっちりだろ!」


 俊彦、なんでそんなにテンション高いんだよ……。


 「ほらみんな、そろそろおいとましましょ?
 若いふたりの大切な時間を邪魔しちゃ悪いし」


 「そうねー♪のだめちゃん、明日ピアノ聞かせてね」


 「おお、私もぜひお願いするよ。明日は一日オフにしてあるから」


 「父さんは、のだめさんのピアノ好きだなぁ」


 「ああ好きだぞ、本人より好きだな」


 「パパ、それのだめちゃんに失礼!」


 「そうか?最上級の誉め言葉のつもりなんだが……」


 ばたん。


 「はぁ……」


 三善家の一同が騒がしく階下に降りていく音を背後に聞きながら、真一は大きくため息をついた。



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