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マエストロの婚礼 12 翌朝、二日酔いの真一は、昨夜の気まずさもあり、ベッドからなかなか起きてこない。 マルレのリハは午後からなので、時間は十分にある。 仕事のためにすでに起きだし、朝食を作ったり、身支度をするのだめの様子を、ブランケットを頭から被ったまま、聞き耳をたてて様子をうかがっていた。 のだめは支度が調い、出掛けられる状態になると、ベッドの真一の枕元まで来てそっと屈み込むと、優しく話しかける。 「真一クン、キッチンにおみそ汁とおにぎりありますカラ。食べられそうなら食べてくだサイね? のだめは夕方には部屋に戻ってマス。 今日は必ず、誰に誘われたとしても、真一クンのこと待ってますカラ。連絡くだサイ」 「……わかった」 ベッドの中からそっぽを向いたまま返事をする真一がかわいくて、のだめは気づかれないようにクスリと笑って仕事にむかった。 しばらくして起き上がった真一は、バスタブに浸かってお酒を抜き、午後のリハーサルに向かうため身支度を整えていると、二日酔いの原因である母から携帯に着信がはいる。 「昨日のこと、のだめちゃんから聞いた?」 「会って食事したことは聞いたけど……」 「そう……」 「なんかあった?」 「ううん、母親として息子をお願いしたのよ、お嫁さんに」 「あっそ」 「ねえ……、雅之さんには連絡したの?」 「あー……、今、演奏旅行中みたいだから……」 「そう……、じゃあ連絡する気はあるのね」 「うん……アイツも会いたいって言ってるし……」 「そう……。じゃあ、がんばって。 明日の本番と、明後日は帰国するんでしょ?」 「う、うん……」 必要な書類は揃えておくからと言い残し、母は一足先に日本へ帰 って行った。 仕事を終え、部屋に戻る。 二日酔いで辛かっただろうに、今朝のだめが用意して行った朝ごはんは、食器も洗ってきれいに片付けられ、部屋も簡単に掃除してある。 「さすがデスね」 のだめは部屋着に着替えると、カフェオレを自分のために入れ、ソファーへ腰を下ろし考え込む。 今朝、真一が朝食に起きてこなかったのには、実は少しほっとしていた。 もし、昨夜の征子との話を聞かれたら、どうしようかと悩んでいたからだ。 「どこまで話しますカネ?」 昨夜、征子と二人だけで食事をし、教会のあるローマ郊外の街の名前を告げると、征子は一瞬息をのみ、驚きを隠せなかった。 「あの子、なにも覚えてないのよね?」 「はい……。 でも、初めて訪れた時から、なにか懐かしいような不思議な気持ちになるって、二度目に訪れたときも言ってまシタ」 「そう……」 「あのう……、どういうことなんでショウ?」 のだめは、征子の戸惑っているような態度に、堪え切れずに尋ねる。 征子は手元のカフェを飲み干すと、店を移動しましょうと提案し、店員にチェックを頼むと席を立った。 こじんまりとした裏通りの地下にあるバーで、のだめと征子はカウンターに横に並んで座っていた。 征子がダイキリを頼んだので、のだめも同じものをと注文すると、征子は"私のだけラムをダブルにしてちょうだい"と言う。 いつもと少し様子の違う征子に驚きながら、話の続きをを待った。 征子はカウンターの奥をみつめたまま静かに話し出す。 「とっても幸せな時期だったの」 遠くを見つめるような征子の瞳は、とても優しく澄み切っていて、見つめるものを、奥底へと引き込んでしまうよう。 それはのだめに、真一の瞳を思い出させた。 バーテンからカクテルが二人の目の前に差し出される。 「のだめちゃん、もう一度乾杯しましょ」 そうして、征子はカクテルを美しい指で掴むと目の高さまで持ち上げ、のだめににっこりと微笑みかけた。 カクテルを一口飲み、美味しいと呟くと、もう一度カウンターの奥に視線を戻す。 「雅之さんは結婚した当時、まだ無名のピアニストで、結婚式はもちろん、新婚旅行にもいけなくてね」 「一年ほどすると真一が生まれて、それからかしら、少しずつ仕事が入るようになって。 当時、雅之さんは真一のことを幸運の天使だって言ってたわ」 「天使……、真一クンが天使……」 「真一が5才になったころ、雅之さんはピアニストとして転機になるような大きな仕事が成功して、雅之さんったらめずらしく興奮して、だいぶ遅くなったけど、新婚旅行の代わりに家族旅行に連れてってやるって」 「興奮した千秋雅之……。ハイテンションな千秋真一以上に、めずらしいもののような……」 のだめの呟きにクスリと微笑むと、征子は視線をのだめに戻し言った。 「それで訪れたのがその街よ」 「ほわぉ……」 13へ> |