芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 11






 久しぶりにパリに戻ってきた。


 気心の知れた仲間と挨拶を交わし、いつものようにリハーサルが始まると、自分のホームに帰ってきたのだと実感できる。テオのアホ顔さえ、なんだか懐かしく思えるから不思議だ。


 この1年ほどマルレでは、常任指揮者のハードなスケジュールにあわせて、短い時間で仕上げなければならないため、プログラムもマンネリ気味。


 コンマスや首席たちも、口には出さないが物足りなさを感じているはずで、団員たちのモチベーションを維持するためにも、このままでは駄目なことはわかってる。


 今後はエリーゼの計らいで十分な時間も取れそうだし、オペラの勉強はもちろん続けるが、マルレの演奏会でも挑戦的なプログラムや、新しいことにもチャレンジしてみたい。


 "黒木くんや、ポールがいないのは、ちょっと寂しいけど……"


 それでも、まずまずのオケの仕上がりに満足すると、めずらしく予定時間どおりにリハーサルを終え、団員たちとの挨拶も早々に真一は練習場をあとにした。









 運転席に乗り込み、自分の部屋に帰るか、のだめのアパルトマンに行こうか、悩む。


 今日、自分がパリに帰ってくることは伝えてあるが、あいかわらずのだめからは何の連絡もないし、約束もしていない。


 マルレでのリハということがわかっているからだとは思うが、のだめは仕事の邪魔になると思うと、遠慮するところがある。


 俺にしてみれば、少しくらいのわがままは可愛いもんだと思えるのだが。


 そんな風に時間を無駄にしているのも馬鹿馬鹿しくなり、携帯を手にするとメモリーを呼び出し発信ボタンを押す。


 ……pupu、pupu……、pu!


 "アロー!のだめはただ今電話に出ることができません。発信音のあとにメッセージを……"


 「アイツ、何やってんだ?」


 相変わらず、なかなか繋がることのないのだめの携帯。
 繋がらない携帯にイラつきながら、家デンにも電話するが、やはり留守電のメッセージになり、のだめには繋がらない。


 「……」


 めずらしく時間通りにリハが終わったから、ひさしぶりにアイツの言うところの呪文料理でも作ってやろうと思ってたのに!


 「かわいくねー」


 ステアリングに両手をかけ、眉間にしわを寄せた不機嫌な顔を乗せ、車内の時計に目をやれば、まだ夕食には早い時間。


 「ちょっと出かけてるだけだろ?部屋で待ってるか……」


 そして、部屋に戻ったときに、自分の存在(呪文料理の存在)に驚き、喜ぶのだめの顔を想像しては、おもわず弛む頬を慌てて引き締めて、車を走らせた。









 「ぎゃぼっ!」


 のだめが征子との食事から戻ると、片付け途中であったはずの部屋はきれいに片付けられ、キッチンからは美味しそうな匂いが漂っていた。


 これが、3時間前ならどんなによかったことだろうか。


 時間を戻すことができるのであれば、どんな試練に耐えてもいい。


 そんな風に思えるほど、今現在、この部屋のソファーに座り込んでいる元家主は、全身に黒オーラをこれでもかというほど纏って、足元に転がったワインの空き瓶からも、すでにかなり出来上がっていることが想像される。


 「真一……クン……?」


 「……売れっ子ピアニストのNODAMEさん、おかえりなさい」


 「た、ただいまデス……」


 キッチンのテーブルの上は綺麗にセッティングがされ、その様子は呪文料理が用意されていたことと、真一の気合いの入りようがうかがえる。


 「……メシは?」


 「……あ、済ませてきまシタ」


 どかっ!ズカズカズカッ!がしっ!


 よっぱらいとは思えない素早い動きでキッチンに行き、セッティングされた食器をがちゃがちゃと片付けようとする真一。


 「むっきゃー!待ってくだサイーー!!!
 こ、これには、よんどころない事情というモノが……」


 がばっ!


 黒オーラを全身に纏い、鬼の形相のまま、凄いいきおいで振り返り、のだめを睨みつける真一。


 「どんな事情だよっ!言ってみろよっ!」


 「征子さんが来たんデスよ!!!」


 「えっ!」









 「はぁ……、なんだよ母さんのヤツ、急にパリに寄ったりして……」


 不必要な怒りやら苛立ちに無駄なエネルギーを使いまくり、せっかくの婚約者との貴重な時間を横取りされた息子は、疲れきってがっくりと肩を落としていた。


 「それはモチロン、大事な息子の人生の一大事に、駆けつけたンじゃないデスか……」


 「で?


 息子には連絡せず、将来の嫁にだけ会って、ひっかきまわすだけひっかきまわして、自分はさっさと帰国したってか?」


 「はうん、将来の嫁……。 ていうか、べつに征子サンはひっかきまわしてはいないのデハ?」


 がたっ!ばしっっ!


 真一は、のだめのもっともなツッコミに二の句が継げられず、キッチンの椅子から乱暴に立ち上がると、手にしていたナプキンを床に叩きつける。


 しかし、やはり切り返す言葉は見つからず。


 「……寝る……」


 「え……」


 すきっ腹にワインのボトルを空け、諸々の状況にすっかり悪酔いした真一は、すべてを忘れ去りたい一心で、ベッドへと逃げ込んだ。


 「がぼん……。
 久しぶりの呪文料理とスペシャルデザートが……(気にするところはそこか)」


 へそを曲げた大きな子供を持て余したまま、のだめはキッチンの片付けへと向った。


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