芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 48






 シュトレーゼマンの帰った裏軒に、残されたのだめたち五人。


 話題は長野での音楽祭のこと。


 「長野かぁ! 俺、車出すから、みんなで行こうぜ!」


 「まぁ! 皆でドライブ?
 せっかくだから、早めに出て、途中で寄り道しましょうよ?」


 「おお、そうだな? やっぱり夏っていったら、海だろ! な、千秋?」


 ひぃっ! う、海ぃっっ?!


 「お、俺は海はちょっと……」


 「海いいねー。俺、ちょっと泳ぎには自信あるぜ! 恵ちゃんは?」


 「むきっ! のだめだって負けマセンよ? 大川のマーメードと呼ばれてまシタからー」


 「よしっ! じゃあ寄り道して海水浴に決定な!」


 「まっ、待てっ! お前の車に五人も乗れねーだろ?
 お、俺はいいから……巨匠の世話もあるし……」


 「ええー?! 千秋様が一緒じゃないの? 真澄、さびしいです……」


 「そうだよー! 一緒に行こうぜ?
 それに、のだめだって彼氏がいなかったらさびしいだろ?」


 「え……」「ぎゃぼ……」


 「いいんじゃね? 別に付き合ってるからって、四六時中一緒にいなくたって。
 恵ちゃん、たまには千秋なんかほっといて、俺と遊んでよー、ね?」


 幸久が挑戦的な微笑みを真一に向ける。


 そうだった……コイツが一緒だったんだ。


 でも海は……(想像しただけで白目)


 「えと……のだめは……海にも行きたいデスけど……」


 「だよねー! 恵ちゃん、水着は?」


 「お、のだめちょうど、この前シュトレーゼマンに買ってもらったビキニあるじゃん?」


 「お、ビキニかぁー! いいねぇー! 恵ちゃんのビキニ、楽しみだなぁー!」


 「ふんっ! ひょっとこ娘がビキニなんか着たって、一ミリの色気もないじゃないっ!」


 び、ビキニっ?!


 真一が青ざめた顔で、のだめを覗き見る。


 盛り上がる峰、真澄、幸久の三人の男の中で、複雑な笑顔を浮かべるのだめ。


 がたっ!


 「千秋? どうしたんだよ?」


 「の、のだめっ、ちょっと……」


 「ふお?」


 突然立ち上がった真一は、のだめの手を掴むと、あっけにとられる三人を残し、店の外へ向かう。


 「くっくっくっ……千秋必死だな?」


 二人の背中を見送り、幸久はグラスのビールを飲み干した。









 「ちょっ……先輩どしたんデスか?」


 真一はのだめを店の外まで引っ張って出ると、通りの路地に連れ込んだ。


 「あ、あのさ……お、俺……」


 真一は口ごもると、下を向いて黙り込んでしまう。


 「海……嫌いなんデスか?」


 「嫌いっていうか……」


 「……ていうか?」


 途切れ途切れになる言葉を、のだめから促され、真一は思い切って告白をする。


 「……子供のころ、溺れたことあって……。怖くて無理。それに……」


 真っ赤な顔で恥ずかしそうにつぶやくと、真一はもう一度俯いてしまった。


 「それに?」


 「か、彼氏以外の男に、ビキニ姿なんて見せるんじゃねえ……」


 ほわお……千秋先輩真っ赤デス。


 ここは妻として、夫をたてなければいけマセンね?


 「……のだめは海、大好きデス」


 「え……」


 「のだめの生まれ育ったところは海が近くにあって、子供のころは毎日のように海で遊んでまシタから。でも……」


 「……でも?」


 「せっかくの旅行デスから、のだめは千秋先輩と二人っきりで行きたいデス。向こうに行ったら、きっと一緒にいられないだろうし……」


 「う、うん……」


 「のだめのわがまま、聞いてくれマス?」


 真一はのだめの言葉に弾かれたように顔を上げると、嬉しそうに微笑み、うなづいた。


 「ありがとデス! ぎゃぼっ! せ、先輩、ここ外デスよ……」


 「わかってる……」


 真一は言葉にできない気持ちを伝えるために、力いっぱいのだめを抱きしめていた。
 








 「……ということだから、俺とのだめは別行動で」


 真一とのだめは店内に戻ると、まっさきに峰たちに報告をする。


 「ちぇ、やっぱりなー! つまんねーけど、まぁしょうがないよな?」


 「千秋様ひどいっ! 真澄、悲しいです!」


 「……ふーん。まぁいいけど。
 恵ちゃん、あっち行ったら仲良くしよーね!」


 「ぎゃぼ……よ、よろしくデス」


 「なんだよ、松田。のだめに変なことしたら、ただじゃおかねえ」


 「嫌だな千秋くんはー。俺みたいな紳士的な男が、女の子が嫌がることするわけねーだろ?
 お前こそ、恵ちゃんのこと、泣かせるなよ?」


 「は? 意味わかんねーし」


 「まーまー! とにかく皆で一緒にひと夏の思い出、作ろうぜ!」


 「龍ちゃんっていつも前向きでいいわよね……」


 「やだなー真澄ちゃん、照れるよー!」


 「褒めてないっつーの……」


 「……じゃあ、俺たちそろそろ……」


 「おー! 千秋、のだめ、また明日なー!」


 席をたち、出口に向かう。


 扉を開けたところで、幸久が背中を向けたまま、呼び止める。


 「あ、そーだ恵ちゃん。俺さっき、巨匠から頼まれたんだけど、明日から課題曲、一緒に練習するからねー」


 「え?」


 振り返ったのだめに、幸久も顔を向ける。


 「よろしくね」


 「……は、はい。よろしくデス」


 固まるのだめに、幸久はあっさりと背中を向けた。


 「……ほら、行くぞ?」


 「は、はい……」


 真一にうながされ店の外に出ると、途端に真一に右手を掴まれる。


 ぎゅうぅ。


 力強く握り締められる手。


 嬉しいけど、ちょっと怖いような。


 真一はいつものように早足で歩き出すと、振り向かずにつぶやく。


 「……ふらふらすんな」


 「し、してないデスよ」


 「自分でわかってねーのが、いちばん始末が悪いんだよ」


 「……な、なんデスか? それ……」


 ひきずられるまま歩いていたのだめの足がとまる。


 「言いたい事があるなら、はっきり言ってくだサイよ……」


 振り向かない真一の手を、のだめが引き寄せる。


 「なっ……」


 振り向いて、見下ろしたのだめの顔は、強がって怒ったような表情の下に、不安に怯える瞳が隠れていて……。


 「俺、格好悪いな……。
 松田が……お前にちょっかい出すような態度だったから……。
 ちょっと不安になって……ごめん」


 「え……」









 二人は、いつかも立ち寄った公園にやってきた。


 「今日の俺、おかしいよな?
 のだめが俺と二人っきりで行ってくれるって決めてくれて、すげー嬉しくて舞い上がったと思ったら、松田の態度に不安になって不機嫌になったり……」


 すっかり落ち込んで、大きな身体を小さくして、がっくりとうなだれる真一に、のだめは胸がほっこりと温かくなるのを感じる。


 「のだめは……嬉しいデスよ?」


 「え?」


 のだめの意外な言葉に、驚いて振り返った真一は、真っ赤に照れた顔で。


 「ぷぷぷ……頭がよくて、なんでもそつなくこなす俺様千秋様が、そんなふうに悩んだり、落ち込んだりしてくれるのは……のだめのせいなんデショ?」


 そういっていたずらっ子のような目で微笑むのだめに、しっかり挑発されて。


 「……お前、生意気……」


 「んっ……せんぱっ……」


 真一の大きな身体がのだめを包み込み、優しいキスでくちびるを塞ぐ。


 熱くて、びりびりする何かに身体を支配されて、頭の芯が痺れて、真一のこと以外、考えられなくなる。


 離れていく、くちびる。


 朦朧とする意識の中で、真一が耳元でつぶやく。


 「のだめ……俺のものになって?」


 先輩の声、低くて色っぽくて、耳元でそんなふうに囁かれると、のだめはゾクゾクしちゃいマスよ……。


 俺のものになれって……のだめはもう先輩のものなのに。


 先輩は、そうは思ってないのカナ?
 







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