芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 46






 のだめは一人、レッスン室でピアノを弾いていた。


 先日ジャズクラブでピアノトリオの演奏をしてから、自分のピアノに変化を感じて、その正体を知りたくて。


 一人で弾いていても、自分の指によって、ピアノから弾かれ飛び出す音が、空間の中で溶け合ってハーモニーとなるのを感じる。


 のだめはめずらしく楽譜をまじまじと眺めてみた。


 音符と音符の間、休符、五線譜の空白の中にも音の存在、ハーモニーを感じる。


 「ベトベンが表現したかった曲……」


 のだめは吸い付くように譜面を見つめ、その世界観を忠実に再現しようと、没頭していく。


 演奏が終わるまで侵入者には気づかないくらい、夢中になって。


 「ノダメチャンのピアノ、変わりまシタネ?」


 「むきゃ? ミルヒ……いつの間にいたんデスか?」


 「十分くらい前デスカネ?」


 「ふお……全然気づきませんでシタ」


 「とっても集中して弾いていましたカラネ。素晴らしい演奏デシタヨ?」


 「……楽譜に忠実に、弾いてみたくなったんデス。自分の好きなように弾くのではなくて、楽譜と……ベトベンとお話してみたくて……」


 「ほぉ……ベートーヴェンとは楽しくおしゃべりできまシタカ?」


 「まだ……わかるようで、よくわからないところもあって……」


 「そうデスネ。時間をかけて楽しんでクダサイ。すぐにわかってしまうような男は面白くありませんカラ」


 「はい?……とにかく、のだめ頑張ってみマス」


 「このまま……少し聴かせてもらってもイイデスカ?」


 「もちろんデス」


 のだめはシュトレーゼマンの申し出に了承すると、また真剣な表情でピアノに向かっていった。









 「ブラボー……」


 のだめのピアノに聴き入っていたシュトレーゼマンが、つぶやく。


 「すっきり、さっぱり、一見明快なように見えるところが、逆に腹黒そうな男デスね……」


 のだめはめずらしく眉間にしわを寄せ、納得できないように譜面を覗き込んでいる。


 「ぷぷぷ……ノダメチャン、ちょっとお願いがあるのですが、よろしいデスカ?」


 「はい? なんでショウ?」


 「素敵な演奏を聴かせてくれたお礼に、美味しい食事でもご一緒にいかがデスか?」


 「え……ミルヒと食事って、またホテルの部屋に連れ込もうっていうんじゃ……」


 「大丈夫デスヨ。もう、ノダメチャンをモノにするのはひとまず諦めましたカラ。なんなら、同席はさせられませんケド、お迎えにノダメチャンの王子様を呼んでもいいデスヨ?」


 「むきゃ? のだめの王子様って、千秋先輩のことデスか?」


 「チアキ王子ね、ぷぷぷ……。
 それに……今日のお願いは、チアキにも大いに関係のあることナンデス」


 「ふお……先輩に関係のあること?」


 シュトレーゼマンは黙ってうなづくと、立ち上がってのだめに手を差し伸べる。


 「そう。ノダメチャンは以前、指揮者になるためには海外に行く必要があるかと訊ねマシタネ?
 チアキを海外に連れ出すための知恵……ノダメチャンに授けたいと思っているノデス。

 どうシマスカ? 私を信じて、ついて来てくれマスカ?」


 見たことのないような真剣な表情のシュトレーゼマンに驚き、胸騒ぎを覚えながら、それでも魔法にかけられたように身体はシュトレーゼマンに向かって踏み出す。


 のだめは差し出されたシュトレーゼマンの手を掴んだ。


 「よろしい。では行きマショウ」


 シュトレーゼマンはのだめの腕を自分の腕に絡ませると、静かに歩き出した。









 レッスン室で一人、ピアノに向かっていた真一は、一区切りしたところで、携帯の着信に気づく。


 「ん? ジジイからメール?」


 チアキ、今夜はあなたのラッキーガールをお借りシマス。素敵なレストランで美味しいディナーをごちそうするつもりデス。二人で大切な話があるから、絶対に邪魔しないように。師匠より


 「はぁぁ?! 邪魔するなって……ど、ど、どういうことだよっ!」


 真一は血相を変えて、慌ててレッスン室を飛び出す。


 「痛っ!」


 「あ、すいませ……」


 「千秋じゃねーか? どうしたんだ? そんな慌てて。腹でも壊したか?」


 「悪い、ちょっと急いで……」


 レッスン室を飛び出したところで、廊下を歩いていた松田にぶつかった。


 どうしたんだと声を掛けられて、説明もせず先を急ごうかとも思ったが、シュトレーゼマンとのだめがどこに向かったかもわからないこの状況では、一人でやみくもに探し回るより、手分けして探したほうがいいかもしれないと思いなおす。


 「あの……松田これから時間あるか?」


 「特に予定はねーけど?」  








 事情を説明すると、幸久はくすくすと笑い出した。


 「な、なんだよ? 探すの手伝ってくれねーのかよ?」


 「まぁ千秋が必死になるのはわからなくもねーけどさ、お前が心配するようなこと、巨匠がするとは思えねーけど?

 でも、夜の東京をなんの手がかりもなく恵ちゃんを探し出すなんて、最高に楽しそうだから、付き合ってやるよ」


 「……楽しそうって……はぁ」


 「まぁ、お前がSオケ定期で悶々としてるときに、巨匠の夜遊びに散々つきあわされた俺様にかかれば、すぐに見つかるって!

 そうだ……もし俺が先に恵ちゃんを見つけたら、なんかご褒美とかねーの? 一日デートさせてもらえるとかさぁー」


 「……ならいい。一人で探す……」


 「ぷっ! 千秋必死だなー! うそうそ、そんな無理言わねーって。
 心当たりの店が何件かあるから、手分けして探そう。
 ほら、コンマスとかもじゃもじゃとかにも連絡しろよ」


 「え? あ、ああ……」


 正直助かった。


 俺は焦りまくって、右往左往するばかりで、きっと一人じゃのだめのことをうまく見つけ出せなかっただろうから。


 峰と真澄に連絡をして、事情を説明したが、やはりジジイとのだめのことは見かけてないという。


 松田から教えられた店をとりあえず手分けしてあたってみることにした。


 真一、幸久、峰、真澄の4人の男たちが、のだめとシュトレーゼマンを探して、東京の夜の街へ向かう。


 くそ、ジジイのやつ……見つけたら覚えてろよっ!


 真一は携帯を握り締め、タクシーの窓から流れていく東京の夜の街をいらだちながら眺めていた。








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