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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 43 久しぶりに、野田恵を学校で見かけた。 なんだかキラキラして……少し前に会ったときは、健康的で無邪気で、まだ少女のような様子だったのに……。 彩子は気がつけば思わず、声をかけて呼び止めていた。 「野田さん……ちょっ、野田さんてばっ!」 のだめはフワフワと弾むような足どりで、遠くを見つめるような甘い表情で通り過ぎようとする。 この私を無視するなんてっ! 彩子はプライドを傷つけられ、思わず声を荒げていた。 「ほえ? 彩子サン? ほわお……お久しぶりデス。お元気デスか?」 「元気だけど……野田さん、さっきから声かけてるのに、なかなか気づかないんだもの」 「むきゃ? そ、それはごめんなサイ。ちょっと最近、ぼーっと しちゃってて……。のだめに何かご用デスか?」 「べ、別にこれといった用はないけど……用がなかったら、声かけちゃいけない?」 「ぎゃぼっ! そ、そんなことないデスよ? 声をかけてくださってありがとうございマス」 にぱっ! そういって笑顔を作る野田さんはなんだか……とてもキラキラと輝いて眩しくて……私はなんだか無性に気になって、思わずお茶に誘ってしまった。 「あの、もし時間があるなら、少しお茶でもどう? ご馳走するわ」 カフェテラスに移動して、テーブルを挟んで座った。 向かい側で、カフェオレのカップを両手で持ち、ふーふーと息を吹きかけて冷ます仕草は、今までの彩子が知っているのだめと変わらないようだが……。 瞳はキラキラと輝き、頬は健康的に桃色で、かすかに浮かべる微笑みに艶があるというか、女性らしさが加わったような……。 ちょっと大人びたように見えるのは……少し痩せた? 「野田さん、少し痩せた?」 「むきゃ? そデスか? のだめ、体重量ったりしないから、よくわからないんデスけど……。 服もワンピースばっかりだから、サイズもあんまり影響しないし。 あ、でも……最近あんまり食欲なくて、そのせいデスかね?」 「あんなに食べてたのに……どっか具合悪いとか?」 「えと……具合は悪くないんデス。なんだか切なくて、胸が苦しいデスけど。お友達の峰クン……あ、ヴァイオリン科の人なんデスけどね、その峰クンが言うには、それは恋の病≠セって」 「そ、そう……」 またイキナリね……そりゃ野田さんが真一に恋をしているのは、この前も聞いたけど……。 なに? その潤んだ瞳で遠くを見つめて微笑む恋する乙女%Iな様子は……。 「えっと……真一となんかあったの?」 「はうん……彩子サンってば、ストレートに切り込んできマスね? でも、彩子サンはのだめの乙女の貞操の恩人デスし、のだめ恥ずかしいデスけど、教えちゃいマスよ?」 「いや、あの別に……」 そんな私にはお構いなしで、野田恵は饒舌に語り始めた。 「あのデスね? この前、ミルヒがブロンド眼鏡女史に奪還されてしまって、先輩とっても落ち込んでたんデス。のだめ、慰めてあげようと思って、お好み焼きパーティーをしたんデスけど、先輩ってば酔っ払って、のだめのこと好きだって……キスさせろって迫ってきたんデス! でも、酔っ払ってる先輩って、翌日なにがあったか忘れちゃってたりするから、のだめその日は嫌だって、本当に好きならちゃんとデートして告白してくだサイ? ってお願いしたんデス。ぎゃはぁ、のだめナイスディフェンスでシタ。 翌日は松田先輩も一緒のマカロンパーティーがあったんデスけど……美味しいマカロンを頂いたあとに、突然松田先輩がすごいピアノ演奏をして、のだめのこと好きだって告白されて……。のだめも先輩もびっくりしちゃって、どうなることかと思ったんデスけど……。 そのあと、先輩が横浜にデートに連れて行ってくれて……はうん、素敵な夜景を見て、ジャズクラブで美味しい生牡蠣を食べて、先輩はピアノでトリオジャズの演奏に参加して……そのあとロマンチックなジャズの流れる店内で、好きだよって告白されて、キスされちゃいまシタ、ぎゃはぁ!」 野田恵は一気に話終えると、両手で赤面した顔を覆い、身体を左右に揺すり、足をじたばたとばたつかせている。 「恥ずかしいってわりには、色々と赤裸々に語ってくれたわね……(傷だらけ)」 「ぎゃはぁ! のだめ今、生まれてきてから一番、幸せなんデス!」 「そ、そう……よかったわね。 じゃあ、あなたと真一、付き合ってるのね?」 「はい……昨日まではよくわからなかったんデスけど、ちゃんと昨日、先輩が付き合ってくれますか?≠チて、王子様みたいに告白してくれたんデス、ゲハ」 「……すごい惚気っぷりね。 じゃあ、松田君は振られちゃったってわけね?」 「むきゃ? 松田先輩? ほわお……そいえば、松田先輩にも告白されてまシタね、のだめ幸せすぎて忘れてまシタ……」 めきめきっ! 彩子の握り締めていたグラスが、めきめきと音を立てる。 「幸せなのは結構だけど、人の誠意は大切にするべきよ? 松田君のことも、ちゃんとしなさいよね?」 「はい……でも、どうしたらいいんでショウか?」 「そんなこと、私が知るわけないでしょ? 大好きな彼氏にでも相談したら? ……じゃあ、お幸せに」 彩子は表情ひとつ変えずに立ち上がると、伝票をつかんでのだめを振り向かず、出口へと向かった。 真一は今日もレッスン室で一人、ピアノを弾き込んでいた。 夢中になって演奏していて、いつのまにかシュトレーゼマンが部屋に入ってきていたことにも気づかないほどで。 「チアキ、集中できているようデスネ?素晴らしいデス。それになんだか、そこはかとなく漂う男のエロスがいい感じデス」 「なっ!……そんなもん、漂わせてないですよ」 「ほほう、無自覚なのデスネ。本当にキミは繊細なようで鈍感というか……幸せな男デス」 「どういう意味ですか。そんなどうでもいい話より、演奏について指導していただけませんか? 第二楽章のこの部分なのですが……」 「どうでもいいとはナンデスカ? このロマンティックな楽曲をどのように艶やかに観客に聴かせるか、とても大事なことデス。あとはもうちょっと、人生の深みというか悲哀みたいなものを重厚に響かせることができたら完璧デスネ。うん、改善点は把握シマシタ。チアキ、ワタシに任せておきナサイ」 「……何をする気だ、ジジイ」 「チアキの人生にちょっとしたエッセンスを加えるのデス」 「……俺で遊ぶのはやめてくれ、もっと真剣に音楽に取り組んで……」 「失礼な! ワタシはいつだって音楽に真剣デス! それともチアキは真剣に取り組んでいないのデスカ?」 「い、いえ……真剣に音楽に向き合っています」 「それならよろしい。あとのことはこのワタシに任せて、チアキはがむしゃらにやればいいのデス」 「そのアンタに任せる……っていうのが不安なんだけど」 「恐れることはアリマセン! ワタシを誰だと思っているのデスカ?」 「はぁ……」 シュトレーゼマンと入れ違いで、のだめがレッスン室にやってきた。 「むきゃ? 先輩、今日はもう練習終わりデスか?」 「……ジジイと話したら、どっと疲れて集中が切れた。それにお前が来てくれたし……」 真一は自分の前に立つのだめの両腕を掴み、ピアノチェアに座ったまま、うれしそうにのだめを見上げる。 「今日は帰りに買い物して……久しぶりに料理するか?」 「むきゃ? 呪文料理? でも先輩、練習で疲れてるんじゃ……」 「ん? のだめが来てくれたから平気。それに、あんまりやり過ぎると煮詰まるから、料理すると気分転換になって、ちょうどいいんだよ」 「ふお! 先輩のお料理、久しぶりデスね? のだめ楽しみデス」 「よし、じゃあ帰ろう。 ……のだめ、俺疲れて立ち上がれない。引っ張りあげて?」 真一がいたずらっ子のような笑顔を向けて、のだめに甘える。 「しょうがないデスね? じゃあ引っ張りマスよ?」 「うん」 のだめは両手で真一の両腕を引っ張り、立ち上がらせようとするが、真一はすっかり力を抜いてしまって、ニヤニヤとのだめを眺めているだけで、ちっとも自分では起き上がろうとしない。 「もー! 先輩、重くて無理デス!」 のだめは掴んでいた両腕を放し、ふくれてしまう。 「じゃあさ、俺に力が出るおまじない、してくれない?」 「ふお? なんデスか?」 真一はにやりと笑うと、右手の人差し指で唇に触れる。 「のだめ、キスして?」 「ぎゃ、ぎゃぼっ! だめデスっ! 誰かに見られちゃいマスよ?」 「誰も覗いたりしないって……な?」 キスしてくれないと、立ち上がれないと駄々っ子のように甘える真一に、抗えずにのだめはそっと触れるだけのキスをする。 「してもらうのも、いいもんだな……」 真っ赤になって照れて黙り込むのだめを満足気に眺め、真一はピアノチェアからやっと立ち上がり、のだめの手を掴んでレッスン室をあとにした。 帰宅して、久しぶりにちょっと手の込んだ料理をして、二人きりでのんびりと食事を楽しむ。 シュトレーゼマンにからかわれ少し疲れたものの、ピアコンという目標と恋愛の充実から上機嫌の真一に、のだめが突然切り出した。 「あの、先輩。相談があるんデス」 「ん、なに?」 「えと……今日、ガッコで彩子サンに会って、先輩とのこと、お話しまシタ」 「えっ、そうなんだ……彩子、なんか言ってたか?」 「えと……よかったわねって。それで、のだめ思い出したんデスけど、松田先輩のこと……」 「あ……」 「のだめ、どうしたらいいでショウ?」 「……そうだよな」 自分たちの幸福さにすっかり忘れていたが、のだめは幸久からも情熱的な告白を受けていたわけで……。 「松田先輩は、自分の気持ちを知ってもらえればいいって言ってまシタけど、のだめは先輩とお付き合いしてるって伝えて、ちゃんとお断りしたいんデス。 でも断るといっても、お付き合いを申し込まれたわけでは ないので……おかしいデスかね?」 「う、うん……」 「でも、のだめは千秋先輩のことが好きデスから、松田先輩の気持ちにこたえることはできまセン」 「うん、嬉しい。サンキュ。でも、俺が決められることじゃねーから……」 「そデスよね、のだめに言われたことデスもんね。のだめ、自分で決めマス」 「うん」 数日前に堂々と聞かされた、幸久からの愛の告白と情熱的なピアノを思い出す。 お互いの気持ちはしっかりと確認しあった。何も心配はない。けど……。 正体不明のもやもやとした思いに、胸騒ぎを覚える真一だった。 44へ> |