|
■top>>> ■長編 index>>> ■SS index>>> ■About Hongkong>>> ■About site,About me>>> ■備忘録>>> ■link>>> |
|
ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 40 名残惜しそうに、真一とのだめの唇が離れてゆく。 閉じていた瞳が開かれ、二人はお互いを見つめたまま。 「のだめも先輩のこと……大好きデス」 「うん……サンキュ」 優しいジャズのメロディーが流れる中、お互いの気持ちを確認する。 テーブルの下で、真一はそっとのだめの手を握り締める。 二人は無言で微笑みあうと、もう一度ステージに視線を戻し、軽快なジャズの音楽に身をゆだねていった。 帰り際、オーナーの秋生、サムをはじめとするメンバーも、揃って二人を見送りに来た。 「のだめちゃん、また真一と二人でおいで!」 「真一、ピアノ練習しておけよ?」 「今度はのだめちゃんのピアノ、聴かせてよ!」 「はいっ! いろいろありがとうデス! すっごく楽しかったデス!」 賑やかに再会を約束しながら、サムが真一を一人、ちょっと離れた場所まで引きずってゆく。 「な、なんですか?」 「感謝しろ、いい選曲だっただろ?」 「……べつに、感謝させられるおぼえなんか……」 「かわいくねーな! いい雰囲気でキスなんかしてたくせに」 「なっ……演奏中にそんなの見てんな!」 真一は顔を真っ赤にして捨て台詞を吐くと、のだめの手を掴み、後ろ を振り向かずに立ち去る。 「ちょっ、先輩……」 「真一ぃー! 頑張れよー!」 「くそっ!」 古い仲間たちからの声援と冷やかしを背中に受けながら、二人は横浜の街をあとにした。 楽しい時間はあっというまに過ぎて。 二人は、自分たちのマンションに戻ってきた。 部屋の前でのだめを見送る。 「先輩、昨日はいじわる言ってごめんなサイ。のだめのワガママ聞いてくれて、ありがとございまシタ」 「いや、デートできて楽しかった。横浜にも久しぶりで行けたし。俺のほうこそありがとう」 「えと……じゃあ、また明日」 「うん、おやすみ」 向かいあって挨拶をしても、部屋に入るタイミングがわからない。のだめは真一を見上げる。 「あの……」 帰りマスねと言おうとした瞬間、のだめの唇に真一のキスが降りてくる。 「……おやすみ」 「お、おやすみなサイ……」 真っ赤に染まった顔を隠すように、今度こそ真一に背を向けると、部屋に向かって足を踏み出す。 真一のことは見えてないけど、自分を見つめる真一の視線を痛いほど感じる。 部屋の鍵を開けドアを開けると、もう一度だけ真一と目を合わせた。 「いいから早くいけよ?」 真一は優しく微笑んで、からかうように言う。 「はい、おやすみなサイ……」 頬を赤らめた二人は、新しく生まれた幸せな気持ちを抱えて、それぞれの部屋に帰っていった。 真一は翌日、朝日を浴びて、気持ちよく目覚めた。 何も変わっていないようで、昨日までとはまったく違う自分。 それはのだめと自分の関係。 封印するつもりだったのに、溢れてこぼれてしまったのだめへの想い。 でもまったく後悔はしていない。 一度はのだめにおあずけをくらって、仕切りなおしのデート前には松田からの突然の告白も聞き、どうなることかと思っていたけど……懐かしくて刺激的な非日常のシチュエーションの中でかなり盛り上がって、ちゃんと告白をして……。 そして、照明の落とされたジャズの流れる店内で、二人はキスをした。 真一は洗面所で顔を洗って、鏡に映る自分の顔をみると、その唇を人差指でなぞってみる。 のだめの唇……柔かくて、すげー気持ちよかった…… 抑えようとしても、自然と頬は緩んでしまう。 ぱちぱちっ! 気合を入れるように頬を両手で軽く叩き、学校へと向かった。 のだめは校内を、ふわふわとした足取りで歩いていた。 気を抜くと、昨夜の出来事を思い出しては、ぼーっとして身体が熱くなってくる。 のだめは昨日……千秋先輩に好きだって言われて……そして、先輩の唇がのだめの唇に……はうん、千秋先輩、とっても素敵でシタ 瞳はとろんと焦点がさだまらず、口元はだらしなくゆるんで……。 「……だめっ!ちょっと、のだめってばっ!」 「ぎゃ、ぎゃぼっ!」 気付くと目の前に、不審そうに自分を睨みつける真澄の顔があった。 「あんたっ! なにぼーーーっっとしてるのよっ! さっきからずーーーっと声かけてやってんのに!」 「ご、ごめんなサイ。ちょっと考え事してたものデスから……」 「ったく、どうせ食べ物のことでも考えてたんでしょ? それより、Sオケに召集がかかったのよ、あんたも一応マスコットガールなんだから、一緒に来なさい?」 「むきゃ? Sオケってミルヒが帰国しちゃったのに、存続なんデスか?」 「よくわかんないけど……とにかく行くわよ? 千秋様もいらっしゃるだろうからっ!」 「ぎゃぼ、千秋先輩……」 「なに? 千秋様がどうかした?」 「い、いえ? なんでもないデス……」 「千秋様っ、お会いするのは定期以来だわっ、うれしい〜!」 ご機嫌でスキップでもしそうな真澄のうしろを、のだめはおどおどとついていく。 先輩に会うの、なんだかドキドキしマス…… 「のだめ? あんた今日おかしいわよ? 相当お腹すいてんのね? しょうがない、帰りに裏軒でマーボごちそうしてあげるから、それまで我慢しなさい?」 「あ、ありがとデス……」 真澄の気遣いに、のだめは複雑な思いでお礼を言うと、そっとため息をついた。 「きゃー! 千秋様、お会いしたかったですぅ〜!」 「や、やめっ、抱きつくなっ!」 真澄は真一を見つけると、一目散に駆け寄り、飛びついた。 そのうしろで、ぎこちなく立ち尽くすのだめを見つけ、真一が声を掛ける。 「お、おう……」 「こ、こんにちは……」 「……元気か?」 「は、はいっ、おかげさまで……」 その様子を見るともなく眺めていた峰は、真澄を呼び寄せ耳打ちする。 「おい、真澄ちゃん。千秋とのだめ……なんか様子がおかしくねーか?」 「そう? 千秋様はいつ見ても素敵だけど? 特に今日はなんだかキラキラしてるわっ。 のだめはいつも変だし。今日はお腹が減ってるみたいだから、帰りに裏軒でマーボを食べさせるつもりだけど……」 「いや……なんていうか、その……」 ばぁーんっ! 「はーい! Sオケのミナサン、お待たせシマシタっ! 主役が戻ってキマシタヨ? さ、精一杯歓迎してクダサイ!」 「えっ……」 「巨匠が帰還……した?」 Sオケが呼び出されたホールの扉が開き、そこに入ってきたのはシュトレーゼマンだった。 「むきゃ? ミルヒ……千秋先輩、よかったデスね?」 「う、うん……。でもなんだって……」 ただでさえ日本の音大に世界の巨匠が指導にくるなんてありえないことなのに、また戻ってくるなんて……。 「なんでも、入院してた理事長が退院したらしーぜ?」 「まぁ……愛のために追っ手を振り切って戻ってくるなんて、シュトレーゼマンもやるじゃない?」 そんなに巨匠は……理事長のことが好きなのか。 まぁ、恋ってやつは、抑えようとしても抑えきれないものだからな。今なら、俺にもシュトレーゼマンの気持ちがわかる。 Sオケメンバーがあれこれ詮索してささやきあう中、真一はそっとのだめに視線を送る。 するとのだめも自分のことを見つめていて……ふと目が合ったふたりは、周囲にきづかれないように、そっと微笑みあう。 Sオケメンバーにちょっかいを出しながらも、シュトレーゼーマンはそんな真一とのだめの様子に目ざとく気づいた。 へぇー……ふうーん……そういうコトデスカ。 それなら……話は早いかもしれマセン。 さっそく種をまかなければ。 シュトレーゼマンは、世界の巨匠とは思えないような、子供のような微笑を浮かべ、計画を実行に移すべく思考をめぐらせるのだった。 41へ> |