芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 35






 「マエストロ、困りますね。そんなにミナコに会いたかったんですか?」


 「ふごふごっ……」


 シュトレーゼマンは、両手脚を縛られ、さるぐつわをされ(なぜ?)身動きもできず、声をあげることもできないまま捕獲され、爆音の響くヘリコプターに押し込められた。


 がしっ!


 エリーゼが力任せにシュトレーゼマンのさるぐつわを引っ張り、口からずらす。


 「痛っ!……はぁはぁ……エリーゼ、いつものことながら、ワタシを誰だと思ってるんデスカ? 乱暴すぎマス」


 「自業自得です! あなたの気まぐれのおかげで、どれだけの損失が出たと 思ってるんですか……。おとなしく仕事に戻ってもらいますよ?」


 巨匠でありながら、一回り以上も年の若いマネージャーに恫喝されて怯えながらも、シュトレーゼマンは抵抗して言う。


 「エリーゼ、お願いシマス。あと少しだけ……数ヶ月でイイデス。秋には戻りマスカラ、それまでワタシに時間をくれマセンカ?」


 「なにをふざげたことを……」


 「ふざけてなどイマセン。今のワタシ、将来のワタシと音楽にとって、重要なことナノデス。お願いデス、それが終わったら、アナタのいうとおり、いくらでも働きマスヨ?」


 「……どういうことですか?」


 「……ミーナに、助けてほしいと頼まれマシタ。最初はお遊び程度の気持ちだったノデス。キャバクラ目当てで」


 「おい……」


 「でも本気になってしまいマシタ。
 とても才能のある男なのに、自分が本当に欲しいものに、躊躇して手をだそうとしない。なにかに押さえつけられて、諦めてしまっているノデス。
 子供のころに遭った飛行機事故が原因のようデスガ。とても繊細な男だから、その障害を取り除くことはとても難しそうで。だからこそ、ワタシにできることがあれば、手を差し延べたい」


 「……何をするおつもりですか?」


 「弟子にシマシタ。
 あと数ヶ月のあいだに、ワタシはあの男に種を蒔きマス。諦めることをやめて、がむしゃらに自分の一番欲しいものに向かって望むように。
 そしてもう一人、面白い女の子も見つけたノデス。この子は、ワタシの若いころを思い起こさせて、とても切なくナリマス。そして同時に素晴らしい才能を持ってイマス。
 そして、この子がきっと、ワタシの弟子を救う、不思議なパワーを持っているハズデス。ワタシはこの子にも種を蒔き、育て、弟子のために味方につけなければナリマセン」

 







 のだめと真一は、いつものようにマンションへの帰り道を並んで歩いていた。


 真一はシュトレーゼマンのことがショックなのだろう、暗い表情でただ機械的に家に向かって足を進めている。


 のだめが話し掛けても心ここにあらずで、気のない返事やあいづちを繰り返しているだけ。


 「そだ! 今日はまた二人で飲み会をしまショウ!」


 「うん……」


 「お鍋……はさすがにもう暑いデスよね?」


 「うん……」


 「先輩は何が食べたいデスか?」


 「うん……」


 なにを話し掛けてもうんとしか答えない真一に、のだめは真一の前に立ち、通せんぼをするように両手を広げる。


 「わっ! なんだよ?」


 「先輩が全然のだめの話を聞いてくれないからじゃないデスか!」


 「……ごめん」


 「先輩、落ち込んで鬱々してても、どうにもなりまセンよ? 今日は思い切って、のだめと飲みまショウ!」


 「え……俺、料理とかする気力ねーんだけど……」


 「今日はのだめが先輩のために腕をふるいマス!」


 「え……またおにぎりかよ……」


 「ふっふっふー。のだめ、もうひとつ得意料理があるんデスよ。ちょうど、実家からブツも届いてマスし、期待してくだサイ?」









 帰宅すると、のだめは実家から送られてきたという食材の入ったダンボールを抱え、真一の部屋にやってきた。


 真一はのだめに命じられるまま、ほぼ使用されることのなかったために新品同様のホットプレートを箱から出し、テーブルにセットする。


 「な、なにするんだよ? 焼肉か?」


 「ふっふっふー、お好み焼きデスよ?」


 「……ちょ、ちょっと待て、お好み焼きなら俺も知らないわけでもないが、そのバナナとかコーンフレークとか、朝食的食材はおかしーだろっ! あ、なんだその、ベビースターとかうまい棒とかチロルチョコとかの駄菓子的なものは! もはや食材でもねーじゃねーかっ!」


 「ええー、美味しいんデスよ? のだめスペシャルデスからー」


 「……やっぱり俺がやる。せっかくの食材を無駄にすることは、料理人として我慢できねえ。かせっ!」


 「えー! 今日はのだめが先輩に食べさせてあげたかったのにぃー」


 「うるさいっ!」
 








 じゅうー。


 こうして、結局真一がすべて準備することになった正統派の大阪風お好み焼きが今、ホットプレートの上で美味しそうにジュージューと音を立てている。


 「はぁはぁ……せ、先輩っ、もういいんじゃないデスか?」


 「うるさい、もうちょっとだ。おい、お前……よだれが滝のように流れてるぞ? しょーがねーな……」


 真一はティッシュを取り出し、のだめの口許を綺麗に拭いてやると、先ほどのだめから取り上げたチロルチョコを一つ、のだめの口に放り込んだ。


 「むきゃ? ありがとデス」


 「もうすぐだから待ってろ」


 ぷぷぷ……のだめスペシャルお好み焼きを食べさせてあげることは出来ませんでシタけど、先輩ってば、のだめのことぷりぷり怒りながら、少し元 気になってきまシタかね? 先輩ってば、ほんと……世話焼きサンデスね?









 「ほら、ありがたく食え」


 「ふお! 先輩、庶民的なお料理も完璧デスね!」


 「当たり前だ、俺を誰だと思ってんだ?」


 「むっきゃーーー! 大阪の味! 通天閣!」


 「わけわかんねーんだけど……」


 真一の部屋は結局、ホットプレートからの熱で室温は上昇し蒸し暑いくらいで、真一は怒鳴りながら一仕事を終え、ビールが美味しく進む。


 お好み焼きを食べながら缶ビールを数本開けると、やっぱりのだめの実家から送られて来たという麦焼酎を開ける。


 「お前、あんまり酒飲めねーのに、どうして実家から焼酎なんか?」


 「先輩に食事とかいろいろお世話になっていると伝えたら、これをお礼にって。だからこれ先輩のデス。遠慮なく召し上がってくだサイ」


 「……それはご丁寧にどうも……」









 のだめの実家から、俺へのお礼だと出された麦焼酎は、良いもののようでなかなか旨い。


 すっきりした飲み口で、すいすいと酒が進む。


 シュトレーゼマンがいなくなってしまった精神的ショックも手伝って、俺は酔いの回るのが早いのを自覚していた。


 「なんなんだ? あのエロジジイは! 引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、さっさといなくなりやがって……」


 だから、出てくる言葉は愚痴ばかりで、やめたほうがいいと頭ではわかっているのに、酔いに任せて止めることができない。


 「でも、先輩が初めてオケストラを指揮する、きっかけをくれまシタよ?」


 「そうだけど……これからどうしたらいいんだか……」


 「指揮者になるっていう夢に向かって、突き進めばいいんデスよ! 先輩には才能があるんデスから」


 「……指揮者になるなんて、そんな簡単なもんじゃねーよ……」


 「のだめはよくわからないけど……簡単になれるものなんて面白くないじゃないデスかー。先輩ならできマス! のだめ、応援しマスから!」


 のだめが言ってくれることは理屈ではわかるし、うれしくもある。


 シュトレーゼマンに会う前だって、俺は日本でできることを頑張ろうって思ってた。


 でも、実際にオケを振るチャンスを得て、その経験をしてしまったら……やっぱりこれしかないと思った矢先、あっさりとシュトレーゼマンはいなくなってしまうし……。俺の前に立ちはだかるのは、やはり海外へ出られないという障害。


 今、俺の目の前には、その事実だけが大きな壁として立ちはだかっているだけのような気がして……。


 「……お前にはわかんねーよ、俺の悩みなんて……」


 お好み焼きを作りながら、少し元気になってくれたと思ってたんだけど……先輩は酔えば酔うほど思考はどんどんネガティブになっていくみたいで……口から出る言葉は愚痴ばかり。


 最後にはお前にはわかんないなんて言われてしまいまシタ。


 知ってマスよ? 彩子サンに聞きまシタもん。


 でも、聞かなかったことにしてって言われてしまったし、こんなことのだめからは切り出せない。


 先輩、やっぱりのだめには教えてくれないのカナ?


 先輩にとって大切な人は、やっぱり彩子サン?









 さっきまで、俺を元気づけようと言葉を紡いでいたのだめが、急に俯いて黙り込む。


 俺はのだめに悪いとは思いつつ、暴走するネガティブな思考を止めることができない。


 本心とは裏腹にのだめを責めるような言葉を吐いてしまう。


 きっと俺は拗ねて、卑下して、のだめに慰めてほしかったんだろう。


 「大体、俺に才能があるなんて……中途半端に音楽やってるヤツから言われてもな……お前に何がわかるんだよ?」


 「……のだめは確かに先輩から見たら中途半端かもしれないけど……Sオケの演奏すごいと思ったし……モツアルトを連弾したときも、先輩が音楽に対してどれだけ真剣なのか知ったし、それに……のだめのピアノを包み込むような先輩のピアノ、すごく気持ち良かったし……だから先輩はすごいんデス……」


 落ち込んで、これからどうすればいいのか不安になって……そんな俺の心に、のだめの称賛の言葉が優しく染みていく。


 酔いも手伝って、俺は気持ちがふわふわと軽くなっていく気がしていた。


 だからついぽろっとこんなこと……。


 「……だからキスしたのか?」


 「……えっ、な、な、なんのことデスか?」


 「公演のあと。中庭のベンチで寝てる俺にお前、キスしただろ?」


 「……し、してないデスよ?」


 「しらばっくれんな。俺、あんとき寝たふりしてたんだよ、お前のこと驚かせようと思って」


 「……寝たふりしてたんなら、のだめかどうかなんて見てないデショ?」


 「……お前がキスしてるとき、薄目あけて見た」


 「ぎゃぼ!」


 「お前、俺のこと好きなんだろ?」


 え! 見られてたなんて……のだめの気持ち、先輩にバレた?!


 ど、どうしまショウ!……恥ずかしくて、先輩の顔が見られまセン。


 落ち込む真一を元気づけようとしたはずのお好み焼き飲み会は、あらぬ方向へと進んでいって……。


 二人っきりの部屋。


 すっかり酔っ払った真一に、追い詰められたのだめ。


 のだめはただ、羞恥に頬を染め、真一から顔を逸らし、体を固く縮こまらせていた。







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 のだめちゃんってば、真一クンに飲ませちゃだめだって、この前、学習しなかったのでしょうか?(笑)
 いよいよ賽は投げられました。どうなる?!酔っ払い真一クンと、追い詰められたのだめちゃん、二人の恋のゆくえは?!