芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 33






 美味しいものには 魔法があるから(by 中田ヤスタカ)


 ぴんぽーんっ!


 ビーフシチューを煮込む鍋を、ぼーっと見つめていた真一。


 突然鳴ったドアフォンに驚き、キッチンスツールから、転げ落ちそうになりながら、玄関に向かう。


 「はぁーい……」


 ドアを開ける前に向こう側から、だーれだっ?!≠ニ、のだめの声が。


 「くっくっくっ……アホか。
 のだめだ……ろ?」


 がちゃ。


 「「きーちゃった!」」


 「え? のだめ……と、松田?!」


 ドアの向こうには、のだめと並んで、意外な人物が立っていた。
 
 







 「突然悪いな?」


 「大丈夫デスよ?
 千秋先輩はちょっと気難しいケド、そんなに心の狭い人間じゃありまセンから〜」


 「お前が言うな……」


 二人をリビングに通し自分もソファーに座り込むと、微妙な空気に黙り込む真一と幸久にお構いなしで、のだめが一人はしゃいだ様子で喋りはじめた。


 「コンビニにお買い物に行って、ふらふらお散歩してたら……すっごくいい匂いがして……そしたら松田先輩がいて……ケーキをゲットしたんデス!」


 「なんの話だ……」


 「そだ!
 さっそく皆で食べまショウ!
 先輩、美味しい紅茶をいれてくだサイ!」


 「……は?」


 のだめはあっけにとられる真一に、音符柄のボックスを差し出す。


 「美味しいケーキデス!
 松田先輩手作りなんデスよ?」


 「え?」


 「お、俺はっ、スイーツ作りが趣味で得意なんだよっ!」


 あまりの意外性に驚きの目をむける真一に向かって、幸久が答える。


 「きょ、今日はちょっと、スイーツ作り日和だったから……」


 のだめががさごそとボックスからケーキを取り出した。


 「ふぉぉ!
 お店のケーキみたいデス!」


 「お、ほんとだ、すげーな松田……」


 「た、たいしたことねーよ……(すごく嬉しい人)」


 「俺はコーヒーにするけど……松田は?」


 「あ、俺はホットミルクで」


 「「えっ!」」


 「な、なんだよ……チョコシフォンにはホットミルクってこだわりがあるんだよっ! 悪いかっ?!」


 「へえ……いや、悪くねーけど。意外っていうか……(くすっ)」


 「ふぉ?
 じゃあのだめもホットミルクにしてくだサイ!」


 「はいはい……」


 こうして、奇妙な組み合わせの三人による午後のお茶会が始まった。









 「はうん……松田先輩のシフォンケーキ、すんごく美味しかったデス……」


 のだめがいつものように、両足を投げ出し、クッションを抱えてうっとりとつぶやいた。


 確かに……松田の手作りケーキは……プロ並みの味だった。認めたくねーけど。


 それに……俺の料理以外に、のだめが美味い美味いと喜んでいるのも……すげーむかつく。


 「恵ちゃん、気に入ってくれた?」


 松田が得意げに、俺のほうを見ながら挑発するように言う。


 「はいっ! とってもっ!」


 「じゃあ今度は……マカロンとかどう?」


 「ふぉぉ!
 松田先輩、マカロンなんて作れるんデスか?!」


 「楽勝だよ?」


 「お願いしマス!
 のだめ、マカロンって生涯で一度しか食べたこと無いんデス!
 マキちゃんがデパ地下で購入したやつをおすそ分けしてもらって……すんごく美味しくて、忘れられなくて……。
 はうん、また食べられるんデスね……マカロン……」


 くそっ! イライラするっ!


 のだめのやつ……いくら食い意地が張ってるからって、すぐに食いモンに釣られやがって……。


 「のだめ?
 今、お前の好きなビーフシチュー煮込んでるけど……今日も食ってくか?(対抗意識むき出し)」


 「ふおお!
 千秋先輩のビーフシチュー!
 のだめ、大好きデス!

 そだ?
 松田先輩もいかがデスか?
 千秋先輩のビーフシチューは最高デスよ?
 ケーキのお礼に……ね? 先輩、いいデスよね?」


 「「えっ!」」
 








 のだめからの大好きデス!#ュ言に蕩けそうになったものの、夕食まで松田が居座ることになり……複雑な心境の真一。


 それにお構いなしで、のだめは二人の間に入って、無邪気にはしゃいでいる。


 「のだめ、千秋先輩と松田先輩の音高時代の話が聞きたいデス!
 松田先輩、千秋先輩ってどんな音高生だったんデスか?」


 「えっ? ち、千秋は……この調子で無愛想で……。
 バイオリンは音高で一番だったよ。
 まぁ……副科ピアノは……親父がピアニストのわりには、イマイチだったよな?」


 「ふぉぉ? そだったんデスか?
 でも、千秋先輩は、今では桃ヶ丘で一番のピアノの名手デスよ?」


 「へぇ……千秋、音大上がってから、必死で頑張ったんだ?
 まぁ、俺が戻ってきたから……一番ってのはどうかな?」


 「むきゃ? 松田先輩はそんなにピアノが上手なんデスか?
 ねぇ、千秋先輩、音高時代の松田先輩のことも教えてくだサイよ?」


 「松田は……ピアノはすごかった。
 明るくて、リーダーシップがあって、結構面倒見がよくて……音高で一番の人気者だったよ」


 「ふぉぉ! 生徒会長タイプデスね?」


 え? 千秋が俺のこと……褒めてる?


 コイツ……俺のこと、そんな風に見てたのか?


 「そうだな。
 俺は……人付き合いとか苦手だから……。
 いつも人に囲まれてる松田が、すげー羨ましかったよ」


 そういって千秋は、ちょっと照れたように笑って、俺のことを見た。


 千秋って……結構いいヤツだな?(褒められて素直に嬉しい人)


 「そっ、そうかな?
 でも、千秋だって、クールな感じが一部女子から熱狂的な支持をされてたし。
 まぁ、俺ほどではねーけど?」


 幸久は天敵のはずの真一から意外な褒め言葉を聞かされ、のだめからは手作りスイーツを褒められ、定期公演での不愉快な思いなどすっかり忘れ、心地よい高揚感に包まれていた。









 奇妙な組み合わせの三人による、ディナーが始まった。


 「松田は……米とパン、どっちがいい?」


 「うーん、俺は米かな?」


 「むきゃ? 松田先輩もお米派デスか?
 のだめと一緒デス!」


 無自覚に真一を刺激する、小悪魔のだめ。


 「……今日は、バターライスにする……」


 「むふぉー!
 千秋先輩のビーフシチューに、ガーリックのきいたバタライス!
 先輩、今日は気合入ってマスね?」


 「……松田のスイーツも、気合入ってたからな(負け惜しみ)」


 「そう? 俺はあれくらい、片手間に作っちゃうけど?」


 「……のだめ、運ぶの手伝え」


 「はーいっ!
 はうん……千秋先輩のビーフシチュー!
 今日もメイドインヘブンな香りデス……」


 「……ふ、不吉なこと言うな……」


 「え? 褒め言葉デスよ?」


 とろとろに煮込まれて、口に入れれば一瞬でとけてしまいそうなビーフシチューに、香ばしい香りのバターライス。


 旬のグリーンを使った、塩コショウだけのシンプルでサッパリとしたサラダも、こってりしたメニューにほどよくマッチして……。


 「はうん……やっぱり千秋先輩は、厨房のマエストロデスね?
 のだめ……セブンスヘブンな気分デス……」


 「……のだめ、今日お前発言がおかしいぞ?」


 「……千秋、悔しいけど、すけー旨いよ。
 そういえば……音高の年に一度の調理実習でも、お前と一緒の班になりたがる女子、競争率がすごかったもんな……。
 なるほど……」


 さすがの幸久も、至高の料理には抗えないようで。


 素直に旨い、旨いと繰り返し、のだめと先を争うようにおかわりまでした。


 幸久のプロ顔まけのスイーツに、真一の超絶ディナー。


 三人はひと時、幸せに包まれて、おだやかな微笑を浮かべていた。
 








 「はうん……のだめ、今日は最高の気分デス。
 お二人に美味しいものをいっぱいいただきまシタので、のだめはお礼にピアノを弾きマス!」


 「お、恵ちゃんのピアノ、ぜひ聴きたいな?」


 「松田先輩、リクエストはありマスか?」


 「うーん……じゃあベートーヴェンで」


 「むきゃ?ベトベンデスか……じゃあ、これデスかね?」


 幸久のリクエストに応えてのだめが奏でるのは……もちろん悲愴。


 悲愴だけは……自分だけの秘密にしておきたかったんだけどな……。


 真一は複雑な心境で、のだめの悲愴に耳を傾ける。


 すごい……めちゃくちゃだけど、人の心を惹きつけて離さないような、魅力的なピアノ。


 なんなんだよ……野田恵。


 そんなつもり、全然なかったのに。


 もう俺の心は、野田恵のピアノの音色がいっぱいに溢れて……。


 千秋と松田、二人の男は、のだめのピアノにうっとりと魅了されて、言葉もなく、ただその世界に酔いしれていた。






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