芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 32






 甘い愛には罠があるのよ(by 中田ヤスタカ)


 がっしゃ! がっしゃ! がっしゃ!


 ああ、イライラする。


 こんな風にイライラするときはやっぱり……スイーツ作りだよな?


 Sオケの演奏はメタメタになって、千秋が赤っ恥をかいて、巨匠が弟子破門にして……そしてこの俺様が勝利者になるはずだったのにっ!


 松田幸久は自宅のキッチンにたち、昨日のSオケ好演のイライラをぶつけるべく、猛烈な勢いでメレンゲを泡立てていた。


 それでも、大好きなスイーツ作りをすることで、卵や小麦粉、砂糖と戯れているうちに、ギスギスとささくれ立っていた気持ちも静かに凪いでくる。


 本日のスイーツはチョコシフォンケーキ。


 シフォンケーキはなんといってもメレンゲが命!


 ふっ……俺ってやっぱり天才。


 今日のメレンゲも、つやっつやで完璧だろ?


 泡立てたメレンゲを冷蔵庫で冷やす間に、チョコを溶かし、卵黄と砂糖と混ぜ合わせる。


 しっかりと混ざったところで、よくふるった薄力粉を混ぜる。


 冷やしておいたメレンゲを取り出し、ゴムべらを使って、慎重に混ぜ合わせていく。


 メレンゲをつぶさないように、手早くしっかりと混ぜなければならない。


 幸久は、今日もふんわりと理想的な生地が出来上がったことに満足気に微笑み、シフォン型に生地を流し込んでいく。


 百七十度に温められたオーブンで四十分。


 チョコレートの甘く、香ばしい香りがキッチンに広がる。


 あああ……癒されるうぅぅ……。


 シフォン型を逆さにしてスタンドの上に乗せ、冷めるのを待つ。


 幸久は、キッチンのスツールに腰かけ、焼きあがったシフォンケーキを頬杖をついてぼんやりと見つめる。


 そうだ……こんな風にイラついて立ち止まってるなんて、俺らしくもない。


 他力本願で、千秋が失敗するのを眺めていたのが、そもそもの間違いだよな?


 振り返ってみれば、俺は帰国してからというもの、何もしてないのと同然じゃないか?


 男は攻めるのみ! 攻撃こそ、最大の防御だろ?(どこかで誰かがよく言っている台詞のような……)


 そうだ……まずは野田恵だ。


 アイツはたしか……異常に食い意地がはっていたはず。


 女子といえばスイーツ、スイーツといえば女子。


 この俺様お手製の超ふわしっとりチョコシフォンケーキに落ちなかった女子はいねーんだっ!


 よし、この休日の昼下がり、ちょうど食い意地のはったアイツは小腹が減ったところだろう。


 もう、甘いものが食べたくて食べたくて、仕方ないはず。


 ここはさりげなく、焼きたてのシフォンケーキを片手に近所をお散歩していたとこで、ばったり遭遇!よかったこれ……なんつって甘い匂いで誘えば、カブトムシじゃなくたって、メロメロになるってもんだろ?


 ありがちなシチュだしな(おい)


 待ってろよ? この、幸せ者の野田カブトムシ恵めっ!


 幸久はかなり無理のあるシチュにもまったく気付くことなく、しっかり熱のとれたシフォンケーキに粉砂糖をふりかけると、ボックスのストックから五線譜に音符の描かれた音大生仕様ケーキボックスを選んで詰め込むと、嬉々として玄関を飛び出していった。
 
 







 昨日は、徹夜明け、Sオケ公演の成功、ナチュラルハイ状態に突如、小悪魔から祝福のキスを受けるという混乱と興奮の渦に巻き込まれ、午後いっぱい眠ることもできず、悶々と過ごした真一。


 学校からは、のだめも一緒に帰宅したのだが、その様子は一切普段と変わったところはなく……。


 「先輩、さっきはよく眠れまシタ?」


 「ええっ?!」


 「そ、そんなに驚かなくても……。
 中庭のベンチで寝てたデショ?
 ぷぷぷ……先輩ってば、子供みたいな無邪気な寝顔でシタよ?」


 は? なんだ? このなにもありませんでシタよ?%Iな会話は……。


 あのキスは……なかったのか?


 俺はもしかして……ハイテンションすぎて、夢でも見てたのか?


 「お、お前、俺が寝てるところに来た?」


 「えっ?! 行ってまセンよ?(目逸らし)
 ミルヒが先輩を探してたカラ、呼びにいったんデスけど、中庭を覗いたらベンチに寝転がってる先輩が見えたカラ……。
 のだめ、絶対に先輩のそばになんて近寄ってまセンよ?」


 「そ、そばに近寄らないで、寝顔なんて見えるのかよ……」


 「え、えと……のだめ視力はマサイ族なみにいいんデスよっ!
 有明海の干潟を軽く見渡しただけで、ムツゴロの数なんか簡単に数えられちゃいマスよ?」


 「……嘘つけ」


 徹夜明けの俺を気遣ってか、のだめは今日はゴハンはいりまセンよ?≠ニ、早々に部屋に戻ってしまった。


 思考は混乱したまま。


 それでも体は睡眠を求めており、俺はろくにメシも食べずにベッドに潜り込んだ。








 ぐつぐつ……。


 こんなときは、何も考えなくていい煮込み料理が一番だ。


 真一は、正午近くまでたっぷり熟睡して目覚めると、ぼーとした頭で簡単な朝食兼昼食を取り、めずらしくゴロゴロと過ごした。


 ところが、何もすることがないと却っていろいろと考え込んでしまい、それならと午後からは早めの夕食の仕込をはじめていたのだ。


 冷凍庫から牛肉バラかたまりをみつけ解凍しはじめると、そのあいだに玉ねぎ、にんじん、セロリを乱切りに。


 本当は一晩赤ワインに漬けたいところだけど、今日は時間がないから仕方ない。


 鍋に油をしき、潰しニンニクで香りをたてると、野菜とトマトピューレをいれ、炒めはじめる。


 あれは……夢じゃないよな?


 のだめは確かに、俺の頬にくちづけをしたんだ。


 Sオケの公演が成功したご褒美?


 それなら別に……俺に隠すこともないよな?


 野菜がしんなりしたところで、赤ワインと自家製フォン・ド・ヴォーを加え、沸騰させる。


 その間に、解凍された肉のかたまりに薄力粉をまぶし、油をひいたフライパンで焼き色がつくまで焼く。


 沸騰した鍋に肉も加え、火を弱火にして煮込む。


 キッチンのスツールに腰掛けながら、真一はぼーっと鍋を見つめながら、右頬に手のひらをあてた。


 夢なんかじゃない。


 確かにこの頬に、のだめのやわらかい唇が触れた。


 そっと薄目をあければ、目前まで瞳をとじたのだめの顔が近づいていて……。


 のだめに限って……キスも……もちろんその先も経験のないのだめに限って、軽く祝福のキスなんてありえない。


 ……ってことは?


 のだめは俺のこと……俺がのだめに抱いているような思いを?


 えええっっ?!
 








 お腹がすきまシタ……。


 でも、先輩は昨日徹夜でお昼過ぎまで熟睡だろうし。


 ゆっくり休ませてあげなくちゃ。


 お昼はコンビニでお弁当でも買ってすませまショウ。


 のだめは自宅近くのコンビニで買い物をすると、近所の野良猫と遊んだり、通りかかった公園で遊ぶ子供たちのケンカの仲裁をしたりと、ふらふらと寄り道をしながら、帰り道をたどっていた。


 いい天気デス。


 千秋先輩の指揮者としての初公演は大成功だったし……とっても気分がいいデス!


 くんくん……ふぉぉ? どこからか、とってもいい匂いがしマス!


 この甘い香りは……チョコレート?


 警察犬のように甘い香りを辿ってゆけば……。


 「ふぉ?! 松田先輩?」


 「やぁ! 野田恵ちゃんじゃないか? 偶然だなぁ!」


 「松田先輩、風邪は治りまシタ?」


 「風邪? ……ああっ! この間はありがとう、すっかり治ったよ?
 今日は趣味のスイーツ作りに格好の日和だったから、さっきチョコシフォンケーキを焼いたところで……。
 上手く焼けて、あんまり嬉しかったものだから、ついつい箱に詰めて散歩してたところだったんだ。
 そうだ、恵ちゃんはケーキは好き?」


 「ふぉぉ! のだめは今、チョコレートの甘い香りに吸い寄せられて、ここまでたどり着いたんデスよ! ケーキ、大好きデス!」


 「それはちょうどよかった。
 この前、助けてくれたお礼に、このケーキ、恵ちゃんに食べてもらえるかな?」


 「ほえ? のだめがいただいちゃっていいんデスか?」


 「もちろん。女の子に甘いものは必要不可欠だからね」


 そういって幸久は、音符柄のケーキボックスをのだめの目の前に差し出す。


 「むっきゃぁーーっ! とっても甘くていい匂いデス!」


 のだめはボックスを受け取ると、両目をつむり鼻をボックスにくっつけて、うっとりと甘い香りを楽しむ。


 くっくっくっ……かぶとむし以上だな?


 今までいろんな女の子にスイーツをプレゼントしたけど……こんな反応をする女の子は初めてだ。


 しばらく香りを楽しんでいたのだめがふと我に返る。


 「ぎゃぼっ! ご、ごめんなサイ。のだめはちょっと匂いフェチでシテ……。
 とっても素敵な香りで、美味しそうデス!
 松田先輩、ありがとうございまシタ!」


 にこっ!


 松田はのだめから向けられる無邪気な笑顔に、自分まで自然に笑みがこぼれて緩んだ顔になっていることに気付く。


 まただ……この笑顔、なんだか毒気が抜かれて、何も逆らえなくなるような気がするんだよな……。


 「そうだ、恵ちゃんの家はこの近く?
 よかったら……ケーキのお礼にお茶でもいただいちゃったりして……」


 「えっ……のだめのお家でスカ?
 たしかに近いデスし、ケーキのお礼にお茶でも差し上げたいところデスが、のだめのお家に好きでもない男の人を上げるのは、ちょっと……」


 ずきんっ。


 野田恵……毎回、その好きでもない男≠チていう形容詞をつけるのはやめてくれないか? 結構傷つくんだけど……。


 「そ、そうか……」


 ちょっと落ち込んだ俺の様子を見た野田恵はしばらく考えたあと、突然いいことを思いついたというような得意げな表情をして言った。


 「そだっ! じゃあ、二人で千秋先輩のお家に行きまショウ?
 この時間なら先輩もさすがに起きてると思いますから、三人で一緒にケーキを食べてまショウ!
 先輩たちは、この機会に音高時代の同級生として、親交を深めてくだサイ!」


 「えっっ?!」


 「のだめ、音高時代の千秋先輩と松田先輩の思い出話、聞きたいデス!
 さ、そうと決まればさっそく行きまショウ!
 むきゃ! 千秋先輩びっくりするカナ? 楽しみデス!」


 なんでこんなことに……。


 松田は複雑な心境で、はしゃぐのだめのうしろをついて行くのであった。





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 俺様たちの厨房(笑)

 ここで、松田くんの捏造プロフィールを少しご紹介します。
 趣味は今回ご紹介したように、スイーツ作り。かなりの腕前の様子。
 苦手なものは、人込み。その状況次第ではショック状態に陥るほどの恐怖症。
 しし座のB型。俺様でございます。

 それ以外の情報は、お話の中でおいおいご紹介いたします。