芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 27






 千秋真一は今、師匠である巨匠シュトレーゼマンから定期公演での対決を宣言され、Sオケの正指揮者になったものの、これからどう進めばよいのか思い悩み、途方に暮れていた。


 海外に行けないからと腐ってばかりいた自分に、音楽の小さな震えを感じさせてくれたのだめへの恋心は、今の自分はまず、自分のことを頑張るべきと決めて封印している。


 それでも、マンションの隣の部屋同士で暮らし、毎日のように一緒に食事をしたりして過ごしていれば、抑え切れない思いが溢れて零れそうになることもあるわけで……。


 特に、今のようなシチュエーション。


 自信過剰で実力が伴わないメンバーばかりの、ちっとも自分の思い通りにならないオケ、敵意むきだしで何も教えてくれない、師匠とは名ばかりのエロじじい、突然やってきて自分を挑発する理解不能な音高時代の同級生……。


 こんなふうに追い詰められた時、ふとしたきっかけでたがが外れてしまうと、とんでもない暴走をしてしまうのが人間というもの。


 それは理性的でストイックな千秋真一をしても、逃れられない人間の性というものらしく……。

 







 進級して1ヶ月半が過ぎた、5月中旬。


 「千秋先輩!今日は少し冷えマスから、ひさしぶりにお鍋をしまショウ!」


 「は?鍋?今5月だぞ……」


 俺は今、定期公演で演奏するベートーヴェンの交響曲「英雄」の音楽の世界に没頭していた。


 この素晴らしい音楽をSオケで表現するためにはどうすればいいのか頭を抱えているところで、のだめには悪いが、はっきり言って今はメシとかどうでもいいんだけど……。


 「千秋先輩、少し煮詰まってマスよ?
 ちょっと音楽のことは忘れて、週末デスし、お酒でも飲んで気晴らししまショウ!」


 確かに煮詰まっているかもしれない。


 気分転換にそれもいいか?


 「おこたは……」


 「持ってくんな!今、何月だと思ってんだ?
 げ、お前まさか……まだ出しっぱなしなのか?こたつ……」


 年末年始、アレのせいで、どんな目にあったか!


 ほかほか温くて、ふんわりと俺を包みこむアレは嫌いではないが……。









 ぐつぐつ……。


 でも、一つの鍋をふたりでつつくっていうのも……なかなかいいもんだよな。


 少し蒸し暑いけど(本気で汗)


 親密さが増して、ふたりの距離が縮まったような……。


 「先輩、お野菜煮えまシタよ?
 正指揮者なんだカラ、ビタミンをたっぷりとって、抵抗力をつけてくだサイ!」


 「うん、サンキュ」


 のだめが甲斐甲斐しく、鍋から白菜やらシイタケやらを俺の器に取り分けてくれる。


 そんな、なんてことのない、ささやかな幸せ。


 「ほら、肉食え……」


 「ありがとデス!」


 のだめが嬉しそうに微笑む。


 最近はオケに集中してたせいで、食事もどこかおざなりになっていたから……。


 やっぱり食事はこうして、好きな人とのんびり時間をかけて楽しむべきだよな。


 うん、すげーホッとする。


 「先輩、まだビールでいいデスか?」


 「あ、俺ワインにする。お前も飲むか?」


 「じゃあ、ちょっとだけ……」
 








 すごくいい気分で、酔い始めている自覚はあった。


 いつもより饒舌に音楽のことや、尊敬する音楽家たちについて、のだめを相手に熱く語っていた記憶もある。


 それは覚えているのだが……。


 どうしてこんなことに?!


 なぜ、こんな状況になってしまったのか全く思い出せない。


 でも気がつけば俺は、床に横たわったのだめに覆いかぶさり、肩から上に上げられたその両手首を掴み、押さえ込んでいた。


 俺の下で、のだめが切なげにささやく。


 「……いいデスよ?千秋先輩がしたいなら……」


 「え……?」


 なんでこんなことに……いいって……なにが?!


 それは俺がのだめのことを好きにしていいって……そういうことか?


 え?ええーーーーっ!?
 








 千秋先輩は今、とっても大変なんデス。


 Sオケの正指揮者に就任して、定期公演でベトベンの交響曲を演奏するカラ。


 毎日、授業が終わればオケの練習があって、終わってからもオケメンバーからの質問に答えたり、相談に乗ったり。


 家に帰って来ればまた勉強をして……。


 今までのようにのんびり料理をして、一緒にゴハンを食べて、食後にのだめのピアノレッスンなんて余裕はないんデス。


 なんだかとっても疲れているみたいデス。


 思い詰めて、煮詰まってる気がしたから、のだめは少し先輩に息抜きしてもらおうと思ったのデスが……。
 








 ワインの2本目を開けたころ、先輩は眉間のシワがなくなり、目元はとろんと緩んで……ほわぉ、フェロモンがムンムンで……はうん、なんだか可愛いいデス!


 いつものような音楽のウンチク話から始まって、ぷぷぷ、大好きなベトベンの恋の話なんかしたりして……。


 よかった……とってもリラックスして、先輩、楽しそうデス!


 のだめも最初はお付き合いしてワインをちびちび飲んでましたケド、今はもう千秋先輩が一人でぐびぐびと飲んでる状態。


 2本目は……、千秋先輩がほとんど飲みまシタよね?


 うわ、3本目?大丈夫かな?


 でも先輩楽しそうだし、明日は学校もオケ練もお休みだし、いいデスよね?
 








 「……なぁ?のだめって……今まで男と付き合ったことってある?」


 少しの沈黙のあと、急に千秋先輩がそんなことを聞いてきたんデス。


 「ほぇ?いやデスねぇ、のだめがそんなこと、あるわけないじゃないデスかー?」


 「……ほんとに?」


 「本当デスよー」


 「……でも、好きなやつとかは……いただろ?」


 「むきゃ?恋バナデスね?
 んと……のだめは音高のとき、綱渡健くんが好きでシタ」


 「……だれそれ?」


 「えと、知りまセン?お笑い芸人さんデス」


 「ふーん……」


 「だいたい音高って男子が少ないじゃないデスか?
 だから、恋愛なんてのだめには全く縁がなかったデスよ?」


 「ふーん……じゃあキスとかしたことないんだ?」


 「え?……や、やデスねぇ、なんデスか?突然、そんな話……」


 「……自然な流れだろ?

 どうなんだよ?したことあるのか?ないのか?」


 「……ないにきまってマス……」


 「……そ、そっか……」


 「この前はちょっとした危機でシタけど……」


 「えっ?それってこの前のホテルのことか?」


 「えと……違いマス。ちょっといろいろ事情がありまシテ。
 ミルヒーにキスを迫られたんデスけど、正拳突きで撃退しまシタ、ゲハ」
 








 「むきゃっ。な、なんデスか……」


 真一の右手がいきなり伸ばされ、のだめの左手首をつかんだ。


 「お前さ……隙がありすぎると思わない?」


 「スキ……デスか?」


 「そう……例えば今、お前は深夜、一人暮らしの男の部屋で男と二人っきりだ。

 もし俺が、お前に何かしたとしても……お前、逃げられねーぞ?」


 「……千秋先輩は、そんなことしまセンよ……」


 「そんな保証は……どこにもねーだろ?」


 「千秋先輩はそんなことしまセン。

 のだめは誰の部屋でもこんなふうに上がりこむわけじゃないデス。

 ……千秋先輩のお部屋だから」


 がたっ!


 「ぎゃぼっ!」


 真一がのだめの両手首をつかみ、床に押し倒す。


 「ほら、隙だらけじゃねーか……。

 だからエロじじいに……む、胸を2回も……も、揉まれんだろ?」


 「……先輩は怒ってるんデスか?」


 「うん、頭にきてる……」


 「のだめが……ミルヒに胸を……揉まれたから?」


 「そう……」


 「どうしてデスか?」


 「どっ!どうしてって……女なんだから、好きでもないヤツに体なんか触らせるな!」
 








 ぎりっ……。


 真一が声を荒げ、のだめの手首をつかむ手に力が入った。


 「……ごめんなサイ……」


 すぅー……。


 のだめの両目から、溢れた涙がすうっとこめかみに向かって流れてゆく。


 「のだめは……そんなつもりじゃないんデスけど、千秋先輩が言うとおり、隙があるのかもしれまセン。

 でも……先輩のお部屋にこうしておじゃましてるのは、そういうのとは違うんデス。

 ……先輩だったら構わないから……」


 「それ……どういう意味だよ?」


 「そのままの意味デス。

 もし先輩がのだめに……したいことがあるなら……。

 ……いいデスよ?千秋先輩がしたいなら……」


 「え……」


 のだめは、涙に濡れた瞳で、真一を真剣に見つめる。


 「そんなこと……お前……。

 言っておいて……あとで後悔すんなよ?」


 少しずつ、真一の顔が、のだめに近づく。


 のだめは真一が近づくのを感じて、そっと瞳をとじる。


 「……はぁ……やわらけぇ……」


 「えと……き、キスとかじゃないんデスね?あは……」


 「なんだよ……したいことしてもいいって言っただろ?」


 「ぎゃぼっ!は、はい……言いまシタ……」


 真一は、のだめの胸に顔を埋め、つかんでいたのだめの両手首を離すと、のだめの背中に差し込み、のだめをそっと抱き寄せる。


 「お前はさ……自覚してねーだろうけど、男にとっては結構そそるんだぜ?
 結構、可愛いし……意外とむ、胸でかいし……。

 だから……十分に気をつけて、好きでもない男に触らせんな……。

 わかったか?」


 「は、はい……」


 「それにしても……すげー気持ちいい。

 お前の胸……ふわふわでぷにぷにで……最高だ……」


 「そ、それは……喜んでいただけて、なによりデス……」


 「……」


 「ち、千秋せんぱ……い?」


 のだめは恐る恐る、頭を上げ、真一の顔を覗き込む。


 すぅー……。


 すると、のだめの胸の上で、それは幸せそうな微笑みを浮かべ眠り込んだ真一の顔が目に入った。


 「ぷっ!先輩ってば、大きい赤ちゃんみたいデス……」


 のだめは、自分の胸の上で眠る、真一の頭をそっと包み込むと、自分も静かに目を閉じ、意識を手放した。  





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 あ、あの千秋真一さん?言ってることと、やってることがおかしくないですか?(笑)