芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 23






 もういっそ、別の学校にでも転校するか……。


 真一は今の自分の置かれている状況から、またもネガティブモードに陥りそうになっていた。


 でものだめのことは……学校が違ってしまっても見守り続けられるだろうか?


 少しずつでも、音楽に正面から向き合うことの楽しさを知って、のだめの持つ演奏者としての才能に気づいて導いてくれる人間が現れてくれればいいのだけれど……。
 
 







 のだめはそのころ、校内を真一の姿を探して駆けずり回っていた。


 のだめの先輩を思う気持ちは……きっと片思いで叶うことはないけど、せめてのだめは千秋先輩の夢を叶えるために力になりたい。


 普段から勉強熱心な千秋先輩だもの、きっとSオケの指揮を見事にやり遂げるはず。


 ミルヒーだってその姿を見れば、千秋先輩の指揮科への転科を許してくれるかもしれない。


 「あ、いた!千秋先輩!」


 「の、のだめ?
 ここ図書室だから、ちょっと声のボリューム落とせ……」


 「あわわ……先輩、すぐに来てくだサイ!
 のだめのピンチなんデス、助けてくだサイ!」


 「はぁ?おい、ちょっ、ちょっと……」
     








 のだめは真一の手を掴むと、Sオケの待つホールへとむかって、真一をひっぱってゆく。


 「お、おいっ!どこ行くんだよ?説明くらいしてくれ……」


 「はぁはぁ……今日はSオケの初練習なんですが……ミルヒーが急病で指揮できないんデス!」


 「は?それが俺にどんな関係があるんだ?」


 「はぁはぁ……先輩に、Sオケ……振って……もらおうかと……」


 「はぁぁ?!な、なに言ってんだ!俺にそんなこと……」


 真一の足が止まる。それに引っ張られる形で、のだめの足も止まる。


 のだめは真一の腕を掴んだまま振り返ると、息を切らせながら答える。


 「先輩は指揮者になりたいんデショ?だったらチャンスは自分から掴まないと!
 ごちゃごちゃ言わずに振ってくだサイ!先輩なら、できるデショ?」


 「のだめ……」


 「さ、行きマスよ?」


 「う、うん……」


 チャンス……か。


 俺は今まで、指揮者になることを夢みて、毎日勉強してきた。


 でも実際にオーケストラを指揮するなんて……。


 そうだな、こんなチャンスまたとないかもしれない。


 なんだかよくわかんないけど、のだめの言うとおり、あれこれ考えてないで……振ってみよう。


 「……曲はなに?」


 「えと……ベトベンの……交響曲7番デス」


 7番か……ちょうどヴィエラ先生の新譜で勉強したばかりだ。


 これなら……やれる!


 おもいっきり俺が今できる指揮をオーケストラで……。


 うれしい!すげーわくわくする!


 「のだめ……サンキュ」


 「ふぉ?なにお礼なんて言ってるんデスか?
 千秋先輩は、のだめのピンチを救ってくれるんデスよ?」


 「……うん、わかった」


 「……ミルヒー、生きてるといいのデスが……」


 「……おい?なにがあったんだ?
 お前……本当に大丈夫なのか?」


 「あわわ……だ、大丈夫デスよ?
 とにかくSオケの皆サンがお待ちかねデスから、先輩は指揮に集中してくだサイ!」


 「……わ、わかった」









 がたん。


 ホールの扉を開ける。


 今まで、ずっと夢みて、それでも実現できないんじゃないかと思っていた、オケを指揮できる。


 ドキドキして胸が高鳴る。


 ホールの階段を下り、舞台へと近づくと、知っている顔が見えて少しほっとした。


 「あれえ?のだめと千秋じゃねーか。どうした?」


 時間になっても現れないシュトレーゼマンにしびれを切らし帰ろうとしているメンバーもいる中、のだめが宣言する。


 「今日はミルヒーが急病デスから、代わりに千秋先輩が指揮をしマス!」


 ざわっ。


 「なんだよそれ……」


 「千秋ってピアノ科だろ?」


 そんな、不満げな声に混じって、


 「きゃあ!千秋様の指揮?」


 「素敵かも!」


 と主に女子から好意的な声があがる。


 「よしっ!せっかく集まったんだから、やろーぜ!
 千秋ならやれるだろ?」


 一応コンマスである峰からの一声で、千秋の指揮のもと、Sオケの初練習が始まった。









 「ミ、ミルヒー、やっぱり重いデス……」


 ずるずる……。


 のだめは倒れていたシュトレーゼマンを背中にかつぎ、ホールへと足を運んでいた。


 「はぁはぁ……、ミルヒー聴いてくだサイ。
 千秋先輩、きっとすごいデスよ……絶対、指揮科への転科……認めてもらいマス……」


 むぎゅっ。


 「ぎゃぼーーーーっ!」


 がつっ!


 本日、2発目の正拳突きがヒットする。


 「の、のだめちゃん、ちょっとは慣れてクダサイ」


 「セクハラになんて慣れまセンよ!ミルヒー、起きてるなら自分で歩いてくだサイ!」


 「はいはい、どこに行くンデスカ?」


 「Sオケの初練習デス!今、千秋先輩がミルヒーの代わりに振ってマスから、聴いてくだサイ!」


 「へぇ……千秋がね。
 イイデスヨ?お手並拝見シマショウ?」









 前途多難。


 「はぁぁ……」


 真一の記念すべき(?)1回目の演奏が終わった。


 ひどすぎる……。


 こんな悲しいベートーヴェンがあってもいいのだろうか?


 一体、Sオケのスペシャルはなんのスペシャルだよ?


 あのエロじじい、学校中のへたくそと変わりモンを集めたんじゃねーか?


 「なぁ千秋!こう、もっと雄大な感じにしねぇ?
 気高く!はげしく!」


 「峰……とりあえず楽譜どおりに弾いてくんねーか?
 一応コンマスだろ?オケをまとめるどころか、乱し捲くりなんだよ……」


 「え?」


 「チェロの君!音程ヒドイ!
 セカンドクラリネット!音汚ねえ!
 ヴィオラひとりで音でかすぎ!」

 真一は一気に言いたいことを言い切ると、大きくため息をつき指揮台の上で頭を抱えた。


 「はぁぁ……5分後、最初からもう1回……」









 練習が再開される。


 とにかく、今細かいことを言っていても仕方ない。


 俺だって似たようなもんだ。


 今できることを。


 俺なりにベートーヴェンのこの音楽を形にしてみよう。


 「ヴァイオリン、そこの16分、もっと小さくはっきり!」

 「フォルテシモ!」

 「ホルン2、遅れてる!」


 ふぉぉ……。


 千秋先輩はやっぱりすごいデス。


 ちゃんと一人ひとりの音を聞き取って……。


 のだめは、ホール後方に座っているシュトレーゼマンを振り返り、訊ねる。


 「ミルヒー……どデスか?
 千秋先輩の指揮は?」


 「……」


 演奏は何度となく中断され、その度、真一からの細かい指示が飛ぶ。


 再開される演奏。


 しかし、演奏はよくなるどころか、真一の指示通りには1つとしてうまくいくことはなく、真一のイライラは頂点に達する。


 なぜだ?


 音がどんどん悪く、小さくなってゆく……。


 かろーーーーん。


 真一の手からこぼれ落ちる指揮棒。


 がっくりと指揮台に両手をつき、うなだれる真一。


 ホールが静寂に包まれる。


 「ち、千秋先輩……」


 のだめが心配そうに小さくつぶやいたときだった。


 パンパンッ!


 「ハーイ!そこまでデス!

 千秋、失格〜!」


 「え?」


 ホール後方から立ち上がったシュトレーゼマンの声が響き渡る。


 「お待たせシマシタ!
 ミナサン、本物の登場デスヨ?」


 「おおー!巨匠の登場だっ!」


 息のつまったような重たい空気が、一気に華やかに盛り上がる。


 シュトレーゼマンは真一を指揮台から下ろすと、指揮棒を手にする。


 「峰クン、細かいこと気にしないでイイカラ、もっと楽しくヤリマショウ!」


 先ほどから千秋にダメ出しされていたメンバーたちにも次々と声をかけ、シュトレーゼマンはあっという間にオケの雰囲気を変えてしまう。


 「さ、ではあと1回だけ通しマショウ。
 千秋の言っていた通りにね」


 シュトレーゼマンが振る、Sオケ。


 先ほどからは想像もできないような、華やかな音楽が響く。


 真一は、のだめの隣に腰を下ろすと、指揮台の上のシュトレーゼマンを見つめる。


 すごい……。


 あの人が振るだけで、オケが鳴り出す。


 これが……本物の巨匠の音楽。
 





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 復習はこのお話まで……のはずです(汗)
 エロじじいミルヒー、汚名挽回汚名返上、名誉回復。
 結構、打たれ強いよね(笑)

 2.2誤字訂正。汚名挽回とは、汚名返上、名誉挽回を混同してしまう典型的な日本語のいい間違いです(笑)
 ともかサマ、教えていただきありがとうございました!