芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 21






 真一は、足元のふらつくのだめを抱きかかえながら、なんとかタクシーに乗せる。


 「こんなになるまで飲みやがって……」


 「ふぉ……のだめっ、ひっく、シャンパンって、ひっく、初めて飲みまシタっ!
 すごぉーーーくっ、美味しくてぇ……むにゃ……」


 「……おい、のだめ?
 ったく……あんま心配させんな……」


 のだめは安心したのか、真一の隣で頭を真一の肩にもたれかけ、すーすーと寝息を立て始めた。


 真一は、自分の肩に寄りかかって無邪気な微笑みを浮かべて眠るのだめを愛しそうに見つめ、そっと額にかかった前髪をはらってやる。


 「むきゅう……もう食べられまセン……」


 「くっくっ……夢の中でも食べてんのか?
 幸せなやつ……」
   
 







 ばたんっ。ブォォー……。


 マンションの前、走り去るタクシーを見送って、真一は背中にのだめをおぶさり、大きくため息をついた。


 「ちくしょー……重っ!」


 重さにずり落ちそうになるのだめの身体をおぶりなおし、マンションの階段を登る。


 「し、死ぬ……」


 やっとの思いで玄関前まで到着するが、のだめの部屋を開けたくても鍵のありかがわからない。


 「さすがに開いてたりは……しないよな?」


 念のため、のだめの玄関ドアのノブを回してみるが、さすがに施錠されている。


 「のだめ?おい、のだめ、起きれるか?」


 背中を揺さぶってみるも、反応はなく……。


 むにゅっ。


 両手のひらに感じる、この柔かい感触は……。


 やめろっ!千秋真一、自分を自分で追い込むなっ!


 「……しょうがないよな?屋外に放置するわけにもいかないし……。
 こ、これは不可抗力だ……」


 真一は、なんとか自分の鍵を取り出し、玄関を開けると、寝室に進む。


 「はーはー……」


 どさりっ。


 自分のベッドの上に無防備に寝転がる、のだめ。


 靴を脱がせて玄関に置くと、もう一度寝室に戻り、布団をかぶせてやる。


 「……のだめ?」


 すっかり安心しきった顔で、びくともしないのだめ。


 「……」


 真一はもう一度、額にかかる前髪を撫ですいて、現れた額にそっと唇を寄せた。


 「これくらいはいいよな?自分へのご褒美だ……」


 ずっとそばで眺めていたかったけれど、真一はクロゼットからパジャマとブランケットを取り出すと、寝室から出ようとドアのノブに手をかけた。


 もう一度振り返り、のだめを見つめる。


 「……おやすみ」


 幸せそうに眠るのだめに声をかけ、真一は寝室をあとにした。
   








 「ぎゃぼーーーーっ!
 むっきゃぁぁぁぁーーーーーっ!」


 「な、なにっっ!?」


 翌日、疲れと寝不足の真一をたたき起こしたのは、寝室から聞こえてくるのだめの奇声だった。


 ばたんっ!


 「のだめっ!ど、どうしたっ!」


 寝室の扉をあけ、ベッドにいるであろうのだめに目をやると、のだめは布団を首まで引き上げ、壁際に身体を摺り寄せて、ぶるぶると震えていた。


 「こ、ここはっ……千秋先輩のお部屋デスか?」


 「そうだけど……どうした?」


 「はうっ!!!ま、まさかっ!の、のだめは昨日……千秋先輩と?」


 「は?」


 「ひっ!ヒドイっ!のだめヴァージンだったのにっっ!
 先輩の野獣!暴行魔!人でなしぃーーーーっ!!!」


 「はぁぁっ?!」    








 「……すみませんデシた……」


 「ああ、本当にっ!心の底からっ!」


 「ご、ごめんなサイ……」


 「ったく……はぁぁ……」


 「返す言葉もございまセン……。
 千秋先輩には感謝の言葉こそあれ、や、野獣などといった失礼千万な物言い……誠に申し訳ございまセンでシタ……」


 「……わかってくれればいい……」


 真一は、わめき暴れるのだめをなんとかなだめすかし、リビングに座らせると、昨夜の出来事を言って聞かせ、やっとのことでのだめの誤解を解いたところだった。


 「でも……どして千秋先輩は、のだめがホテルなんかにいること……わかったんデスか?」


 「ああ、それは……。
 たまたま店に居合わせた彩子が、お前が危ないってメールしてくれて……」


 「ふぉ……彩子サン?
 でも、どして?わざわざ先輩が?」


 「えっ!?そ、それは……いくらジジイだっていっても、男には変わりないし……。
 彩子1人じゃ、心配だったから……」


 「そデスか……」


 そっか……先輩は彩子サンが心配だったんデスね……。


 「とにかく、ありがとうございまシタ。
 彩子さんにもお礼……言わないとデスね?」


 「まぁ……何もなかったんだし。
 とにかく……子供じゃねーんだから、これからは見ず知らずの人間について行ったりすんなよ?」


 「……はい……」


 「……じゃあ、メシにするか?
 今日は休みだし……よかったらゆっくりしていっていいから……」


 「はい、ありがとうございマス」


 真一は立ち上がると、しゅんと落ち込んで小さくなっているのだめを見て、胸が痛む。


 くしゃっ!


 「ぎゃぼっ!」


 真一は、のだめの頭に手をのせ、くしゃっと髪の毛をかきまぜる。


 「あんま気にすんな?
 とにかく……お前が無事で俺もうれしいし……」


 きゅーーーーんっ!


 「あ、ありがとデス……」


 キッチンに向かう、真一の背中を見送りながら、のだめは胸がどきどきと高鳴るのを感じた。


 のだめはやっぱり……千秋先輩のことが好きデス。


 でも先輩はきっと……彩子サンのことをまだ……。


 のだめは、キッチンに立ちご機嫌で朝食の準備をする真一を眺めながら、小さな胸を恋心に痛めるのだった。
 








 いろいろあったけど、結果的にはいい週末だったな。


 ホテルでののだめ救出劇。無防備なのだめを寝室のベッドに寝かせて、悶々とソファーで夜を明かせば、翌朝、のだめの大誤解から野獣呼ばわりされたけど。


 それでも誤解は解け、久しぶりに手料理をのだめに食べさせ、のんびりと休日を二人で過ごした。


 夕方には一緒にスーパーで買い物をして、ちょっとした夕食の手伝い(野菜を洗う程度)で、二人でキッチンに並んだ。


 新婚さんみたいだなんて、初心な喜びに胸を躍らせ、夕食後はひさしぶりにのだめのピアノを聴いた。


 ああ、俺は幸せだ。


 今は……こんな関係でいい。


 俺は……今、この場所で自分にできることを精一杯やる。


 のだめとのことは……それからだ!









 「ち、千秋っっ!だ、大ニュースだっ!」


 週明け、登校すると、血相を変えた峰が走りこんできた。


 「ん?なんだよ?
 はっ!もしかしてヴァイオリンの試験……」


 「あ?ああ、それなら大丈夫だから。
 そんな小っちぇーことじゃねーんだよっ!

 お前、指揮者になりたいって言ってたよな?」


 「う、うん……そうだけど?それがどうかしたか?」


 峰はそんな俺に、不敵な笑みを浮かべて、もったいぶるように口を開いた。


 「ふっふっふっ……。
 聞いて驚くなよ?あの巨匠シュトレーゼマンが、桃ヶ丘にやってきたらしい!」


 「シュトレーゼマンって……あのシュトレーゼマンか?
 ふっ……そんな馬鹿なこと……」


 「嘘だと思うなら、今、来てるみたいだから見にいこーぜ!
 なんでも……うちの理事長と懇意らしくて……Aオケの指導をするらしーぜ!」


 「っっ!」


 もしそれが本当なら……行きたくても海外にいけない俺にとって、こんなに美味しい話はない……。


 クラシック界最高峰のマエストロから……この日本にいながらにして、指導をうけることができるかもしれない……。


 「おいっ!千秋っ、待てよっ!!」


 俺は気がつけば走り出していた。そして……。


 「おや、これはこれは……。
 この音楽界の至宝、マエストロ・シュトレーゼマンに恥をかかせるどころか、頭突きまで食らわせてくれたお兄サンではないデスカ?」


 ずーーーーーーんっっっ!!!(どん底まで落ちた音)


 そんな美味いい話が……落ちているわけ……なかっ……た。
 





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