芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 18






 「彩子……どうしたんだ?」


 なんでコイツはいつも、俺がのだめとこれからって時に限ってやってくるんだ?


 「……ちょっと真一と飲もうと思って。悪い?」


 「い、いや……悪くはねーけど、俺はこれからコイツと……」


 ちらっ。


 彩子はまるで今まで気づいていなかったとばかりに、のだめに視線をやる。


 「野田……恵さん?」


 「ぎゃぼ、戦友サン、なんでのだめの名前、知ってるんデスか?」


 「真一から聞いたし。てゆーか、戦友サンってなに?」


 「それはデスね……」


 「あーーーーっ!それはまた今度!ゆっくりと!別の機会に!な?!」


 「真一、なに焦ってんのよ……」


 「彩子、悪いけどさ、もう遅いし、今日は先約てゆーか、のだめと予定あるんだよ。また、今度にしてくれないか?」

 







 「ねぇねぇ彩子、聞いた?千秋くんのこと」


 「真一?どうかしたの?」


 「江藤先生のところクビになって、落ち目になったと思ったら、今度はストーカーらしいわよ?」


 「は?」


 「2年生の女子学生にストーカー行為をして、学校中追いかけ回したり、ベランダで覗き行為したり、マンションの玄関先で脅したりしてるって……」


 「……ま、まさか」


 「嘘だと思ったら、千秋くんのところ、行ってみたら?
 さっきも中庭で追いかけてたわよ、女の子のこと……」


 そんな馬鹿なこと……あの真一が……悪いジョークかなんかだろうと足を運んだ中庭で、私は目を疑うような光景を目の当たりにした。


 なによ真一……私のことは追いかけるどころか、いなくなった事にも気づかなかったくせに……!


 本当、音楽バカの最低ヤローだわ!


 あれって確か……真一が心酔してたピアノの……野田恵。


 ふーん、真一ってば振られちゃったのね?









 私は気がつけば真一のマンションに向かっていた。


 必死の思いで守りぬいていたオペ研トップの座を、突然ブー子なんかに奪われて……私はきっと、かなり情緒不安定だったのだと思う。


 どうにかしようなんて事、考えていたわけじゃないけど、傷心の真一を慰められるのは私だけだと思ってたし。


 このまま、もしうまくいけば……もう音楽は抜きにして、ただの男と女として真一とやり直すことができたら……そんなふうに心の片隅では考えてたのかもしれない。


 こちらから連絡するなんて絶対に嫌だし、もしかして断られるかもと思うと電話する勇気もでなくて……。


 ピンポーン。


 ……(しーん)


 部屋の明かりも消えてるし、留守みたい。


 でも帰りたくなくて、らしくないとは思ったけど、真一の部屋の前で待つことにした。









 楽しげな男女のじゃれあうような声がマンションの廊下に響いてくる。


 ふと目を向けると、楽しそうに笑顔で頬を染めた真一と、その背中に抱きつく野田恵。


 なーんだ、仲直り、できちゃったんだ……。


 「げ、彩子……」


 悪かったわね、お邪魔なんでしょ?


 「悪いけど、また今度にしてくれないか?」


 ヒドイ。本当にこの男はヒドイ。


 この私を待たせておいて、このまま帰れっていうの?









 ぶわっ……。


 「……彩子、お前なんで泣いて……」


 「泣いてなんかないわよっ!私が泣くわけないでしょっ!」


 「わかった、わかったから……」


 ずるい。真一は本当にずるい男だ。


 私をこんなふうに追い詰めたのは自分のくせに、そんな私に自分で優しくするなんて。


 「のだめごめん、今日はコイツの相手する。また明日……」


 「はい……おやすみなさい」


 「い、いいわよっ!約束あるんでしょっ?!」


 「別に今日じゃなくて大丈夫だから。
 ほら、もういいから、お前部屋入れ……」









 ばたん。


 先輩が彩子さんの肩を抱いて、部屋の中に二人で消えてしまいまシタ。


 彩子さんが涙ぐんだ瞬間、先輩はとても困った顔をして、それでも優しく彩子さんの名前を呼んで……。


 強がる彩子さんをなだめて……。


 のだめ、なんだかドキドキしまシタ。


 あゆうのが男女の関係っていうのでショウか?


 彩子さんは、美人で大人っぽくてスタイルが良くて……本当に先輩と並んでいると絵になりマス……。


 ずきっ。


 なんでショウ?


 この胸の痛みは何?


 先輩が彩子さんの肩を抱いて部屋に入れてあげた、さっきのシーンを思い出すと、のだめは胸がずきんっ!て痛くなって、呼吸が苦しい。


 二人のことが、すごく憎たらしくて……。


 どうして?


 この感情は、なんデスか?









   がちゃ。


 なんだか昨日は、楽しい気分で帰ってきたはずなのに、ベッドに入ってからも先輩と彩子サンの姿がちらついて……。


 胸がもやもやして、なかなか眠れなかった。


 ガッコ、行かなきゃ。


 ぐずぐずと支度をして、玄関を出る。


 鍵をかけていると、隣の先輩の部屋のドアが開いた。


 「先輩、おはようございマス!」


 「あ、のだめ……おはよう」


 「真一、待ってよ!あ……」


 「ぎゃぼ!さ、彩子サン、おはようございマス……」


 「お、おはよう……」


 「の、のだめも朝からか?」


 「は、はい……あ、のだめ、今朝はちょっと急ぐんで!
 お先に失礼しマスね?」


 「お、おい……」


 たたたた……。


 先輩と彩子サンの横を、急いで通り過ぎて、階段を駆け下り、ふたりに追いつかれないように、しばらくのあいだ夢中で走った。


 「はー、はー……」


 彩子サン、先輩のお部屋に泊まったんデスね……。


 先輩はなんとも思ってないって言ってたけど……本当かな?


 戦友サンだから……男女でもお部屋に泊まって平気なのかな?


 てゆか、のだめはどうしてそんなことを、悶々と考えてるんだろう?


 ふたりと一緒にいたくなくて、どうして逃げてくるようなことしたんだろう?


 どうして?









 「真一……ねぇ、真一ってばっ!」


 「あ?ああ、悪い……なに?」


 「もおっ!ちゃんと人の話聞いてよ!」


 「お前、昨日あれだけ飲んで、どうしてそんなに元気なんだよ……」


 俺は、さっき顔を合わせたときの、のだめの様子が気になっていた。


 やましいことはないとはいえ、彩子を部屋に泊まらせたことは、できればのだめには知られたくはなかった。


 慌てて走っていったのだめ。


 思いっきり不自然だったよな?


 まるで俺とは一緒にいたくないような……避けられた気がして。


 「ねぇ真一?今日も付き合ってよ」


 「はぁ?いい加減にしろよ。
 今日はバイオリン科のやつの伴奏の練習があるから、だめ」


 「終わってからでいい。遅くなってもいいから……。
 ね?真一が落ち込んでたときだって、私が付き合ってあげたじゃない?」


 そ、そうだったのか?全然記憶ないんだけど……。


 「悪いけど……また愚痴を一晩中聞かせられるンなら勘弁な。

 お前はいい声持ってんだから、いい加減気持ち切り替えろよ?

 負けたらまた努力する。それでいいだろ?

 そういうわけだから……もうここでいいよな?」


 学校に着いた途端、のだめに見られるかもしれないと思ったら、彩子とはすぐに別れたかった。


 それに……自分が前向きになっているときに聞かされるネガティブな思考って……嫌悪感しか感じないもんなんだな。


 俺は彩子の顔すら見ることなく、校門近くで別れた。


 「……この音楽バカの……最低ヤローがっ!」


 振り返ることもなく、立ち去る真一の背中に、彩子の罵るつぶやきは届かなかった。





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