芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 16






 「あのぉ……勝負って、何で?」


 「もちろん、ティンパニーで!!!」


 「え?
 のだめ……楽器はピアノしかできないデス」


 「ちっ!しょーがないわねぇ?
 いいわよ、じゃあアンタはピアノで!(敵に塩を送る)」


 「あ、ありがとございマス、もじゃミちゃん」


 「真澄だって言ってんでしょっ!
 じゃあ、いくわよっっ!」


 「いつでもかかって来いってんデスよ!」


 こうして、ツッコミ不在のまま、真澄の真の愛をかけた勝負(ピアノとティンパニーのセッション)が始まった。








 「野田恵……なかなかやるわね?」


 「ふぃー。気持ちよかったデス。
 もじゃミちゃんのティンパニーもすごかったデスよー!」


 「真澄だって言ってんでしょ?」


 「ほわぉ……真澄ちゃんデスね?
 じゃあ、真澄ちゃんものだめって呼んでくだサイ!」


 ふたりの勝負……とは名ばかりのセッションは、打楽器の女王から繰り出される情熱的で魂を揺さぶられるようなリズムに乗って、のだめの魅力的で楽しいメロディーがピアノで奏でられた。


 ふたりはいつしか、なんのために始めたのかなど忘れ、音楽に没頭してセッションを楽しむ。


 「私……狭いレッスン室にいることなんて、ちょっと忘れちゃってたくらい、夢中になっちゃったわ。

 こんなに楽しんで演奏したの、久しぶりよ……」


 「のだめもデス。
 最近、ちょっと嫌なことがあって……こんなに楽しいピアノは久しぶりデス!」


 「ねぇ……お腹すかない?」


 「ふぉ?そいえば……すっごくお腹すいてマス!」


 「じゃ……なんか食べにいこっか?」


 「昨日の敵は今日の友……デスね?」


 「は、腹が減っては戦はできず……よっ!」


 「ぷぷぷ……真澄ちゃんってば。
 いいひとデスっ!」


 「うるさいっ!ワリカンだからねっ!」


 「えー、のだめお金ないデスよー」
 








 真澄は、テーブルに頬杖をつき、向かい側で奇声を上げながら、ガツガツと次から次へと食べ物を口に運ぶのだめを眺め、そっとため息をついた。


 音楽とは恐ろしいもので、先ほどまで殺してやるとまで憎んでいた女を、すっかり許してしまっている。


 それに……あのピアノ。
 誰よりも音楽を愛している千秋様だもの。
 執着しちゃうのも仕方ないとわかってしまって……。


 「ちょっと、めくそっ!
 あんたも女の端くれなんだから、もうちょっとお上品に食べられないの?」


 「む、むがむが……」


 「口ん中入れたまましゃべらない!」


 まったく……。


 千秋様も変な女にひっかかっちゃったものね(涙)


 「ふぃー!もう食べられまセン……」


 「それだけ食べれば十分でしょ……」


 のけぞって膨らんだ腹をさするのだめの姿に、もう一度ため息をつく。


 「はぁ……なんで千秋様はあんたなんかに……。
 ねぇ、どうして千秋様と知り合ったの?」


 「……今は千秋真一の話なんか、したくないデス……」


 「ちょっ、千秋様に対して、その言い草……なんなのっ!」


 がらっ!


 「親父ぃー!ただいまー!」


 「あ、留年太郎……と、ち!ち・ち・ち……」


 「真澄ちゃん?どしまシタ?」


 「あれぇ?真澄ちゃん?」


 その声にのだめが振り向く。


 その視界の先にとびこんできたのは……。


 「ぎゃぼっ!」


 「あ、のだめっ!」


 真一の姿に、逃げ出そうと慌てて席を立つのだめ。


 「龍ちゃん!その女、つかまえてっ!」


 「え?え?なに?」


 がしっ!


 わけもわからず、峰はのだめの首根っこを掴んだ。


 「むきゃーーーーっ!放してくだサイー!」


 「のだめ頼む!逃げないで、俺の話も聞いてくれよ!」


 「のだめは千秋先輩の話なんか聞きたくないデス!」


 店の入り口で、逃げようとばたばたする女を、にがすまいと首根っこを掴む長身の金髪。その前で、必死の形相で説得する長身の美形。


 裏軒では、なかなかお目にかかれないシーンに、居合わせた数人の客は釘付けになる。


 どうしよう……千秋様が困っていらっしゃるわ……。


 乙女は、自分の恋心と今、必死で格闘していた。


 そして……。


 がたっ!


 「のだめっ!女ならいつまでも逃げ回ってないで、はっきりカタをつけなさいよっ!」


 「……ま、真澄ちゃん?」


 立ち上がって、のだめを見つめる真澄の真剣な叫び声に、のだめもついに観念した。


 「……わ、わかりまシタよ……」


 のだめは大人しく、元の席へと戻る。


 「じゃ、じゃあ、俺たちあっちいってるから」


 「あ、ああ……悪い」


 真澄が真一に席を譲る。


 のだめの向かい側に真一が座ると、真澄と峰はそそくさと離れた席へつき、ふたりの様子をこっそりと伺う。


 「なぁ真澄ちゃん……千秋はあの子に振られたのか?」


 「なっ!なにいってんのよ?縁起でもないこと言わないでっ!」


 のだめは俯いたまま、真一もどう切り出せばいいのかわからないようだ。


 重苦しい空気が裏軒を包み込んでいた。









 峰と真澄どころか、裏軒に居合わせた数人の客すべてが聞き耳を立てる中、やっと真一が重い口を開いた。


 「この前は……俺が悪かった。

 俺……お前にあんなこと言うような権利なんてないのに……。

 すごく反省してる。ごめん……」


 のだめはうつむいて、黙ったままだ。


 「許してもらえないかもしれないけど……ちゃんとのだめに謝りたかったんだ。

 それに……のだめが上を目指しても目指さなくても、のだめのピアノを好きなのは変わらない。

 もし許してくれるなら……またのだめのピアノを聞かせてくれないか?」


 のだめは真一を見ずに、ぼそぼそと小さな声でつぶやく。


 「千秋先輩は……のだめのこと、ピアノだけなんデスか?」


 「えっ?」


 「一緒にご飯食べたり……掃除してくれたり……。
 それって全部、のだめのピアノ目当てだったんデスか?」


 「……ちがう、そんなはずない。

 俺の料理……美味いって褒めてくれて……すごく嬉しかったし。のだめと一緒にいるの、楽しかったから……。

 俺は今まで、1人でいたって寂しいなんて思ったことなかったんだ。

 でも、のだめと知り合ってからは……この1週間はすごく……物足りなかったというか……」


 のだめが顔を上げる。


 「のだめは……昔も言われたことがあるんデス。

 上を目指せ!言うとおりにピアノを弾け!海外に行くんだ!って……。

 のだめはピアノが好きだったケド、それからピアノを弾くのが嫌になっちゃって……。

 谷岡センセに言われまシタ。
 千秋先輩に演奏を褒めてもらって、嬉しくなかったの?って。

 嬉しかったデスよ?褒めてもらって、うれしくない人間なんていまセンもん。

 でも……あの日、千秋先輩に上を目指せって言われて……。

 それまでの楽しかったこととか、全部そのためだったのかなって思っちゃったら、すごく悲しくて……」


 「ごめん……」


 のだめを目を見つめて、真一は本心から悪いことをしたと反省していた。


 「もういいデスよー。のだめも大嫌いなんて、ひどいこと言っちゃったし」


 「いや、言わせたのは俺だから。すごく反省してる。

 俺、焦ってたんだ。
 自分のことがうまくいかないから、それをのだめの将来に委ねようなんて、都合のいいこと考えてた。

 これからは俺……自分が今やれること頑張る。

 だから……またのだめのピアノ、聴かせてもらえねーかな?」


 「いいデスよ?
 のだめも……千秋先輩のごはん、すごく恋しくて……。
 また、一緒にごはん食べてもいいデスか?」


 のだめが向かい側でもじもじしながら、上目遣いで俺を見つめてる。


 ドワーーーーーッ!


 ああ……やっぱ可愛いな……もう……俺、気持ち抑えられないかも……。


 「う、うん……俺もお前のこと……」


 「じゃあ、またお友達デスね!」


 「え?」


 「のだめこの前は……千秋先輩との連弾、すんごく気持ちよくって、ついフラフラっとあんなこと言っちゃいまシタけど、のだめって……恋?とかこゆうの疎くて……きっとよくわかんないのに、恋だなんて思い込んじゃったんだと思いマス!」


 「え……」


 「千秋先輩を困らせるようなこと言って……ごめんなサイ」


 え……えええーーーーーーっっ!!!


 それはないだろ……のだめさん……。


 「あ、そだ。今日はここでとっても美味しい中華を食べたので、夕食はいらないデス。

 千秋先輩も食べて行けばいいデスよ?
 ここのマーボ、絶品デス!
 のだめ、真澄ちゃんと待ってますカラ〜。

 ね?一緒に帰りまショ?」


 俺はまたしばらく、この無自覚な小悪魔に振り回せる日々が続きそうだ……。






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