芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 14






 帰宅し、日課のピアノのレッスンをしながら、真一は悶々と思いをめぐらせる。


 とにかくのだめに謝ろう。


 まずはそれから始めて……もう一度やりなおしたい。


 真一は携帯を取り出し、発信ボタンを押す。


 "おかけになった電話番号は お客様のご都合により おつなぎできません"


 がっくり。


 携帯、止められてんのか……。(もちろん料金未納)


 だいたいアイツ、最近気配がねーけど、本当に部屋にいんのか?


 はっ!


 俺がメシを与えてないから、腹減って動けないとかっ!?


 がらっ!


 真一は窓ガラスを開けベランダに出ると、隣室との隔てから身を乗り出し、のだめの部屋をうかがう。


 げっ!(ゴミ袋がちらほら)


 1週間前に俺が掃除してやったばっかりなのに……(涙)


 この、ずぼら女がっ!


 こんな女が好きだなんて、マジで泣けてくる……。


 しかし、のだめの部屋の窓、カーテン越しに漏れる明かりと、時々動く人影 (小1時間のぞき)に、のだめの生存を確認し、ほっと胸を撫で下ろす。


 ちゃんとメシ、食ってんのかな……。


 のだめの様子を、カーテン越し、シルエットだけとはいえ、1週間ぶりに見た真一は、途端にのだめのことが心配になってきた。


 もう、俺のプライドとか、意地はってる場合じゃない。


 一目会って、声を聞きたい……。


 真一は夢中で部屋を飛びだし、気がつけばのだめの部屋の前に立っていた。








 ピンポーン。


 ……(しーん)


 どんどんっ!


 ……(しーん)


 「おい、のだめ?いるんだろ?
 ち、千秋だけど……この前のこと謝りたいから、ちょっと出てきてくれねーか?」


 ……(しーん)


 「……(ムカ)」









 くそっ!あの女……。


 めらめら……。


 のだめの完全シカト状態に、真一のネチネチ粘着な性質に火がついた。


 こんな餌で釣るみたいなことは非常に不本意だが、この際、背に腹は代えられない。


 こうなったら、のだめの顔を見るまで根競べだ。


 真一はいったん部屋に戻ると、のだめが大好きだといって大喜びで食べた自信作、ビーフシチューが入った鍋(無自覚にのだめの分も調理済み)を片手に、のだめの部屋の前に戻った。


 ピンポッピンッピンポンッ、ピッピンポーンッ!(連打)


 ……しーん。


 どんどんどんっ!


 「おい、のだめっ!いるのはわかってんだ!」


 ……しーん。


 どんどんどんっ!


 「の、のだめさん?ビーフシチュー作ってきましたから、出てきて?」


 ……しーん。


 しばらくドアの前で粘ったが、相変わらず反応はなく、真一は鍋を手にため息をついた。


 「……これ、ドアの前に置いておくから、温めて食べろよ?」


 ドアに向かって話しかけると、真一はドアの前から立ち去った。









 ……といっても、決して諦めたわけではない。


 真一は部屋に戻ると、ドアの前に待機して、廊下の様子をうかがう。


 のだめがどんな様子なのか確認したい一心で、スチールの冷たいドアに耳をはりつけて待つ。


 かちゃ。


 きぃぃ……。


 しばらくするとドアのロックが回され、扉の開く音が聞こえた。


 真一も気づかれないように、ドアノブをゆっくりと回し、ドアを少しだけ開けると隙間から覗き込む。


 のだめの部屋のドアが開いているが、のだめの姿はドアに隠れて見えない。


 それでも、廊下の鍋に向かって、腕が伸ばされるのが見えた。


 ちっ!もっと離れたところに置いておくんだったっ!


 それでも、のだめの手がビーフシチューの鍋をつかみ、ドアの中に消えたのを確認すると、これで空腹は満たされるのだと安心する。


 千秋真一……つくづくのだめに甘い男である(笑)









 「ねぇねぇ聞いた?」


 「うんうん、千秋様でしょ?」


 「なになに?千秋様がどうかしたの?」


 「それがさぁ……ひぃぃぃっ!」


 ゴォォ……。


 女子学生たちの背後から、どす黒いオーラが立ち上がる。


 「……あんたたちが千秋様のことを口にするなんて100万年早いのよっ!
 失せなさいっ!」


 「「「ひっ!す、すみませんでしたーーーっ!」」」


 全くっ、不愉快極まりないわっ!
 モブが千秋様のお名を口にするなんて……。


 黒オーラの主は、フワフワを怒りに揺らしながら、慌てて去っていく女子学生たちを睨みつけた。


 でも、それよりなにより……そこまで話題になってしまうような、この状況が気に入らないわ……。


 打楽器の女王こと奥山真澄は、愛しのアポロンである千秋真一の最近の行動に心を痛めていた。


 それもこれもあの女……ピアノ科2年野田恵のせいに違いない。


 少し前から、突然、千秋様の背景に映り込むようになった小娘。


 1週間くらい前から、ぱったりと千秋様の背景から消えうせたから、一時は私の祈り(呪い)が神様に聞き届けられたのかと喜んでいたのに……。


 でも私は気づいてしまった。


 だって私は、誰よりも千秋様をお慕いして、ご理解差し上げている乙女ですもの……。


 あの女と一緒にいるときの千秋様は、いつものような不機嫌そうな表情の中にも、抑え切れない喜びや楽しさがムッツリとうかがえて……。


 悔しいけど、千秋様が幸せになってくださるなら……って、私はこの小さな胸を毎日痛めていたのにっ。


 ここ1週間ほどの千秋様は……完全にハートブレイク状態。


 しかも、レッスン室や教室など、学校内で野田恵を追いかけ、しかも逃げられるというシーンがたびたび目撃されるようになっていて、千秋様ストーカー疑惑まで囁かれるようになって……。


 ゴォォ……。


 ふたたび、真澄のフワフワ呪いの業火が立ち上がる。


 野田恵、許すまじ……。殺すわっっ!









 「……ってわけで、頼んだから」


 「……え、ごめん……よく聞いてなくて。
 なんの話だっけ?」


 「……102号レッスン室。もう、待ってるからさ!
 じゃ、よろしく!」


 「え?おい……」


 真一は、誰もいなくなった教室の席に座り込み、顔だけに見覚えのある同学年の学生に話かけられていた。


 右から左に聞き流していた結果、わけもわからず何かを約束させられてしまったようだ。


 今までなら、そのまま無視するだけで終わらせたが、最後に聞き取った言葉に思考がとまる。


 102号室……のだめの悲愴を、初めて聴いたレッスン室。


 真一は、どうにでもなれという気持ちで、レッスン室に足を運んでいた。


 がちゃ。


 「あ、どうも……」


 部屋に入ると、中には金髪、長身の派手な男がひとり、ヴァイオリンを手に待っていた。


 「……お前だれ?」


 「へ?なんだよ?話、聞いてねーの?」


 「……ごめん、よく聞いてなくて……」


 「ヴァイオリン科2年、峰龍太郎」


 「峰……。
 で、俺はなんでここに呼ばれたんだ?」


 「俺のヴァイオリンのピアノ伴奏を頼んだんだけど……」


 「……曲はなに?」


 「ベートーヴェンの春」


 「春か……」


 「あの……話がまったく通ってないみてーだし、迷惑だったら……」


 「いや、こっちが話聞き流しちゃったから。
 迷惑なんかじゃない。構わねーよ……」


 真一はピアノチェアに座ると、峰から渡された楽譜を譜面台に乗せる。


 「最初は、軽く合わせるか?」


 「えっ?さっそく合わせてくれんの?」


 「……ああ」


 アインザッツを交わし、峰のヴァイオリンと真一のピアノが、ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 「春」 を奏で始めた。






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 傷心で身持ちを崩しまくっている真一クン。ギザカワユス。

 そして、フワフワ&金髪コンビがいよいよ登場です。
 真一クンは、傷心キャラ崩壊状態で、あっさり峰くんを受け入れてしまいそうな……。
 「春」とっても好きな曲です。峰&千秋ユニットによる生演奏……いいですねぇ……。