芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 13






 驚きに目を見開いたまま、のだめの唇が小さく動いた。


 「ピアノで上を目指せって……どゆ意味デスか?」


 「それはつまり……おまえには幼稚園の先生になるんじゃなくて、ピアニストを目指してほしいと……」


 「……どしてデスか?」


 「……のだめのピアノには、人をひきつける特別な魅力があって、それを伸ばせれば、世界で活躍する未来だってある。

 そんな可能性を秘めたお前に、幼稚園の先生なんかで終わってほしくないから……」


 「……のだめが何を目指すのかと、のだめが千秋先輩を好きなのと……それとこれと、どういう関係があるんデスか?」


 「え、それは……」


 「それに……先輩だって、のだめ先生似合うとか、幼稚園の先生になるなら、毎日お風呂に入らなきゃだめだとか言ってたくせに……あれは嘘だったんデスか?」


 「いやっ!あのときは本当に……のだめが幼稚園の先生、似合うだろうなって思ってた。

 でも次の日、あのショパンを聴いちゃったから……。
 素直にのだめにはその力があるって、上を目指すべきだって思ったから……」


 「なんでみんな……勝手なことばっかり……」


 「え?」


 「いつもいつも……昔から……そゆの……もうたくさんなんデスよ!」


 え?コイツ……切れた?


 真一から顔を逸らし、今まで聞いたことのないような低い声で、のだめがつぶやく。


 「楽しくピアノを弾いてたら……なにがいけないんデスか?

 のだめが何を目指そうと、千秋先輩には関係ないじゃないデスか!
 上を目指してるのだめじゃないと、気持ちにこたえられないなんて……。

 そんなこと言う千秋先輩……大っ嫌いデスっ!!!」


 「え……(瞬殺)」


 "大っ嫌いデス……大っ嫌いデス……大っ嫌いデス……"(エコー)


 真一の顔を見ることもなく、のだめは背を向けると、駆け出していく。


 「は、ははは……(号泣)」


 真一は、視界の中で小さくなっていくのだめを、ただ立ち尽くして見守るしかなかった。









 「はぁ……大嫌いってか……。
 上等じゃねーかっっ!!!」


 がつっ!


 真一は自分の部屋で、ワインボトルを瓶のまま煽っていた。


 床にはすでに飲み干されたボトルが数本、転がされたまま。


 夢のような連弾をして、大好きだと告白されたと思ったら、あっという間に大嫌いだと、気持ちを翻された。


 自分の顔を見ることもなく、地を這うような低い声で言い切ったのだめ。


 あんなのだめは見たことがなかったし……。


 もわわわぁーん……。


 (注:千秋イメージによる、のだめ返答シミュレーション)

 "はいっ!のだめ、千秋先輩に振り向いてもらえるように、ピアノ頑張りマスねっ!"


 "のだめ……"


 "千秋せんぱい……"


 ぷしゅぅぅぅ……。(イメージがしぼんでゆく音)


 今でも目を閉じれば鮮明に浮かぶ、自分に背を向けて走り去るのだめのうしろ姿。


 あれから数日。もちろん、のだめとは一度も会っていない。


 同じ学校に通い、同じマンションの隣の部屋で暮らしているというのに……。


 あの日までは、毎日のように一緒に食事をして、ピアノのレッスンをして……。


 あれは……現実だったのだろうか?


 自分の将来どころか……たったひとつ見つけた希望も、あっという間に消え去ってしまった。


 俺、これからどうしたらいいんだ?









 「千秋くん、元気ないね?野田くん、呼んでこようか?」


 「……やめてください」


 「そう?まあ、いいけど」


 あの連弾から一週間。谷岡のレッスンに来るのは、はっきりいって気が重かった。


 「あの……ちょっと違う曲弾いてもいいですか?」


 断りをいれると、真一は<有頂天>を奏ではじめる。
 二人で作り上げた、思い出のオリジナル曲。


 「……有頂天っていうより、絶望のどん底って感じの演奏だね?」


 「うっ……」


 けっ、このたぬき教師が……結構するどいんだよな。









 「ところで……野田くんは連弾のあと、何か変化があった?
 ふたりとも、連弾のこと何もいわないし。
 どうかしたの?」


 「変化……はあったみたいです。
 でも、予想外だったというか……期待してたものとは、全く違ったというか……」


 「期待って……野田くんがピアニストを目指すとか?」


 「……まあそこまでいかなくても……その方向に一歩踏み出す、みたいな……」


 「で?予想外の変化って?」


 「えっ!そ、それは……」


 どうしてだろう?
 谷岡のペースにいつの間にか乗せられて……。


 どうして俺はこの教師に心のうちを明かしてしまうのだろう?


 「……俺に恋したって言われました……」


 「ほぉ……。
 じゃあ千秋くん、嬉しかったでしょ?」


 「はい、すごく……って、なんでっ!?」


 「あはは!千秋くんってクールに見えて、意外とわかりやすいんだよ?
 レッスン室で野田くんを見てるときの表情や、今だって野田くんのことを語る千秋くん……だだ漏れだよ?」


 「……(真っ赤)」


 「それで?千秋くんは何て答えたの?」


 「俺は……怖かったんです。
 そのまま恋に突っ走ってしまったら、もう野田さんと俺は音楽とかピアノとか……どうでもよくなっちゃうんじゃないかって。

 だから……俺に振り向いてほしかったら、ピアノで上を目指せって」


 「で?振られたんだ?」


 「えっ!?なんで……。
 はぁ……大嫌いだって言われました」


 「あはははっ!野田くんらしーや!(大爆笑)」


 「……(ムカ)」









   「千秋くんって意外と不器用なんだなぁ。
 連弾のときとは、別人みたいだね?」


 「……はぁ」


 「まあ、僕や千秋くんの想いなんて、野田くんからしたら、大きなお世話なのかも知れないね。
 僕なんて2年間もじゃもじゃ組曲やらおなら体操の制作に尽力しちゃったし」


 「お、おなら?」


 「それに……千秋くんなんて、ちょっと前に出会った学校の先輩で、ただの世話好きの隣人なだけだろ?(猛毒)」


 「……(がーん)」


 「まあ、千秋くんは野田くんに一曲最後まで弾かせたんだから、僕より立派だよ。
 ……でも、千秋くんだって、そんなに余裕ないでしょ?
 人のこと、世話してる場合じゃないんじゃない?」


 「え……」









 そうだ……のだめにとって、俺はほんの最近出会った、学校の先輩で世話好きなただの隣人。


 自分こそ、何もできちゃいねーのに……。


 のだめに上を目指せとか、幼稚園の先生なんてやめろとか、言えた立場じゃない。


 あいつが怒るのも当然だ。


 とにかく、あやまろう。


 許して貰えるか、わかんねーけど。


 それから……まずは自分だ。


 この前ののだめとの連弾。


 感じた小さな震え。


 俺にだって、この日本でできることがあるはずだ……。






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 なめくじに塩(笑)
 真一クン、君は強い子だ!頑張れ!