芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 12






 のだめ、なんとなく感じてまシタ。


 のだめにピアノを教えてくれる千秋先輩。


 たまに鍵盤の上で指が触れ合うと、大げさなくらい仰け反って……ぷぷぷ。


 夕食をご馳走してくれたり、親切な人がいるものだなぁと思っていたけど……。


 シャンプーしてくれたり、部屋を掃除してくれたり……先輩の世話焼きは"いいひと"の度を越してマス。


 それに……モツアルトを連弾してわかったんデス。


 のだめの自由なピアノに、寄り添うように、包み込むように……。


 それでいて、のだめをひっぱっていってくれるような、俺様なピアノ。


 自信満々で、それでいて切ないくらい甘い、千秋先輩との連弾。


 ピアノを夢中になって弾いて、楽しさに心が弾むことは経験があるケド……これはもっと……頭の芯がじーんと熱くなって、身体がふわふわと浮いてしまうような……。


 今、この世界は、のだめと千秋先輩の奏でるピアノだけで満たされているんデス。


 こんな経験……初めてデス……。









 終楽章。最後の一音が、レッスン室の中に響いて、消えていった。


 すごく気持ちよかった。


 演奏が終わってしまうのが、残念なくらい。


 のだめは……18世紀のモツアルトと同じ音楽を奏でられたのカナ?


 隣に座る、千秋先輩を見つめる。


 ちょっと伏せ目がちの横顔。


 渾身の演奏に、頬は上気して少しばら色に染まって。


 口元には柔らかな微笑みが浮かんでいて……。


 どきっ!


 なんでショウ?


 千秋先輩を見ただけで、のだめの胸はドキドキと激しく脈打っていマス。


 「のだめ?いくぞ?」


 放心状態で、ピアノチェアーに座り込んだままののだめに、先輩が優しく声をかけてくれる。


 その声を聞いただけで……のだめは……はぅぅ、顔が熱くなってくるのを感じマス。


 のだめの前を歩く、千秋先輩。


 すらっと背が高くて……先輩って、こんなに素敵な男性だったのデスね?


 先輩はいつものように、夕食の話とか、今日は特別にデザートでも買いにいくか?とか話しているケド……。


 のだめはドキドキしちゃって……そんないつもの会話にも、うまく答えることができないでいマス。


 「のだめ?どうした?」


 のだめを心配して振り返った千秋先輩は……。


 はぅぅ……キラキラと輝いて、紗がかかったようで……いつものように千秋先輩が見えまセン……。


 先輩の背中に、飛びつきたくて……。


 なんだか身体がうずうずしマス。


 「先輩……のだめ……」









 のだめが俺に、恋をしたという。


 嬉しい。ものすごく嬉しい。


 だって俺も……のだめに恋をしているのだから。


 心臓がバクバクとうるさい。


 俺たちはきっと今、お互いに真っ赤な顔をして、見詰め合っているのだろう。


 自分の好きな人が、自分のことを好きだという。


 これ以上、幸せなことが世の中にあるだろうか?


 このまま、のだめの手をとって、抱き寄せて……。


 その桃色の可愛い唇に、優しくキスすることだってできる。


 俺の思いをすべて注ぎ込むように……。


 真一の視線が、のだめの桃色の唇をとらえた。


 「のだめ……」
 








 じりっ……じりり……。


 真一の身体が、のだめに一歩ずつ近づく。


 2人は熱に浮かされたように、真っ赤な顔をして向かい合っている。


 先ほどまでレッスン室で奏でていたメロディーが、お互いの身体の中で渦巻いていて。


 蕩けるような、恋する瞳。


 「千秋……せんぱ、い……」


 のだめの舌足らずの甘い声が、真一の敏感な耳を刺激して。


 「のだめ……俺のこと、好きか?」


 真一が、低い声で呟いた。
 








 真一の問いかけに、のだめは蕩けるような甘い声で答える。


 「先輩のピアノ……のだめを優しく包み込んで、それでいて俺様で……。

 のだめは……千秋先輩のことが……大好きデス……」


 ドワーーーーーーッ!(いろいろ大放出中)


 真一は、頭の芯が痺れて、意識が朦朧としはじめた。


 視界は虹色に輝き、きらきらと自分とのだめを包み込んで……。


 それでも、頭の片隅で、もう1人の自分がささやく。


 のだめが大好きで、可愛くて……ついつい甘くなってしまう自分。


 ヴィエラ先生が言っていた、震えるような感動を、自分に与えてくれたのだめ。


 そののだめのピアノに惚れこんで、のだめのピアノには特別なものがあると確信している自分だけれど……。


 "本人にやる気がないんだから、どうしょうもないよ……"


 谷岡の言った言葉が、真一の胸に暗い影を落とす。


 俺は今でさえ、コイツに甘すぎる。


 それなのに……このまま恋心にしたがって突き進んでしまったら、どうなってしまうのか?


 2人で、この日本で流されるまま、恋にうつつを抜かして、音楽とか、のだめのピアノとか……どうでもよくなってしまうのではないだろうか?


 真一は今、心の中で、もう1人の自分と激しく葛藤していた。








 真一は覚悟を決めた。


 どうあがいても日本から出ることができない自分。


 人を惹きつける魅力的なピアノを弾きながら、その才能を伸ばそうとしないのだめ。


 夢はあっても未来が無い自分と、可能性に背をむけているのだめ。


 俺は……のだめに会うまでの、腐ったような日常には戻りたくない。


 自分は夢を果たせなかったとしても、のだめの将来を……無駄にしたくない。


 俺はのだめの将来のためなら……自分の恋心を……封印する。


 今、自分のできることを……精一杯やり遂げたいから。


 「もし……俺のことが好きなら。
 俺にお前のことを振り向いてほしいなら……。


 お前は……ピアノで……もっと上を目指せ。


 そうしたら俺は……お前の気持ちにこたえてやってもいい」


 ぐっ……。


 真一は、のだめに気付かれないように拳をぐっと握り締める。


 それでも瞳は逸らさずに、のだめを見つめ続ける。


 「え……」


 真一の言葉に驚いたように、のだめの瞳が見開かれる。


 どきどきどき……。


 心臓の音がうるさい。


 張りつめたような沈黙がふたりを包んで。


 真一は、心音がのだめに聞こえてしまうのではないかとおびえながら、のだめからの言葉を待っていた。
   





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