芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 04






 「ちょっと!真一ってば!
 私の話、ちゃんと聞いてる?」


 「あ、ああ……」


 あの後、彩子にひきずられるまま、静かに話のできるところといわれて、俺たちはいつものバーで、カウンターに並んで座っていた。


 はっきり言って、今の俺には彩子の話なんて、全然頭に入ってこない。


 さっきまで、彼女とレッスン室で作り上げたオリジナル曲が、頭の中で洪水のようにあふれ出していて……。


 早く部屋に帰って、譜面に書き留めてしまいたい。


 彼女の奏でるメロディーが、俺の中で色あせてしまわないうちに。


 「もういいだろ?

 さっきも言ったけど、別に俺はピアニストになるために大学でピアノをやっているわけじゃない。

 ハリセンとか……もうどうでもいいんだよ」


 「だったら……さっさと指揮科に転科しなさいよ……」


 彩子が俺のことを思って言ってくれているのはわかっている。ありがたいとも思う。


 でも今の俺には……そんなことはもうどうでもいいと思えるほど、夢中になっていることがある。


 「彩子は……なんのために歌やってるんだ?」


 「え?なんのためにって……もっと上手に歌えるようにでしょ?」


 「歌ってて……楽しいか?」


 「なによ、急に……。
 上を目指すってことは、楽しいだけじゃないでしょ?」


 彩子の言葉に、めずらしく真一は饒舌に語りだした。


 「俺……昨日、凄い子に会ったんだ。

 テクニックも凄いんだけど、それだけじゃなくて……。
 本当に楽しそうにピアノを弾くんだ。
 俺は、そんな彼女のピアノを聴いてすごく衝撃を受けて。

 彼女のピアノは、俺の胸にすごく優しく響いて……俺が悩んでいることなんか、一瞬で吹き飛ばすくらいのパワーを持っていて……。

 今日は二人でオリジナル曲を編曲したんだ。
 すごく刺激的で楽しくて……。

 音楽やるってさ、そういうことだろ?

 彼女みたいに、聴く者に影響をあたえるような……楽しいって感じさせることができる……俺もそんな音楽が奏でられるようになりたいって思うんだ」


 「真一……」









 彩子は思いだしていた。


 "君の声……すごく綺麗だ"


 真一の言葉は、ストレートに自分の胸に響いて。


 音楽に対しては、いつも真剣な真一の言葉だったから、すごく嬉しかった。


 その言葉に答えたくて……もっと、褒めてもらいたくって……私は歌を続けている。


 でもそんなこと……今さら絶対に言えない。


 「その凄い子って……さっきの子?」


 「うん……野田恵っていうんだ。
 ピアノ科の二年生」


 「先生は?誰のクラス?」


 「あ……それ聞いてねーや。
   なんで?」


 「……別に」


 「彩子が俺のことを心配してくれるのは嬉しいけど……。
 そんなわけだから……もう俺のことは気にしてくれなくていいから」








 俺は、彩子と別れると、一目散に部屋に戻って、今日、彼女と作り上げたオリジナル曲をピアノで奏でながら、譜面に書き留めていった。


 「できた……」


 タイトルは……<有頂天>って言ってたよな?


 ぷっ!何だよそのタイトル。


 演奏を褒めてもらった嬉しい気持ちを表現したって言ってたな、彼女。


 明日、この楽譜を渡したら……どんな顔するかな?


 大きくて、薄茶色の瞳は硝子玉のようにキラキラと輝いて、頬を桃色に染めて。


 真一は、昨日から何度か目にしたのだめの無邪気な微笑みを思い浮かべ、幸福感に包まれて眠りについた。
 








 翌日、授業を終えると、真一は早速レッスン室に向かった。


 レッスン室から聞こえてくるピアノの音に、のだめの音色はない。


 今日は俺のほうが早かったか……。


 真一は念のため、レッスン室を端から覗き込んで、のだめがまだ来てないことを確認すると、空いているレッスン室の1つに入る。


 ピアノチェアーに腰掛け調節すると、昨日書き上げた楽譜を乗せ、弾きはじめた。
 








 真一が弾き終わっても、のだめはまだやって来なかった。


 廊下に出て様子をうかがってみるが、他の部屋からのだめの音色は聞こえてこない。


 真一は諦めて部屋に戻ると、窓辺に立ち外の景色を眺める。


 校内を行き交う学生たちを無意識に目で追った。


 数日前までは、自分以外の学生のことなんて全く興味がなかった。


 でも今は、行き交う学生たちの中にのだめがいないかと探してしまう。


 授業の空き時間、教室の移動中、登下校の最中も。


 ひとりっきりのレッスン室で、真一は久しぶりに孤独感を味わっていた。


 つい数日前まではそんなこと、考えたこともなかったのに……。




 彼女に会いたい。野田恵に。




 真一は突然自分に訪れた変化を持て余しながら、暗くなるまでのだめを待ち続けた。
 








 がちゃ。


 部屋をかたずけ、ひとりきりで廊下へ出る。


 渡す相手が来ず、行き場を失った楽譜は、真一のかばんの中へ戻ってきてしまった。


 人気のない廊下。


 何度も繰り返し見ている光景なのに、今の真一にとってはのだめの不在を強調するかのようで、いたたまれずに足早に立ち去る。


 約束していたわけじゃない。


 今日はたまたま都合が悪かっただけ?


 それとも……昨日、食事に誘っておいて、彩子の出現のせいで結果的にキャンセルしてしまったから……気を悪くしたんじゃないだろうか?


 それとも……。


 たった一日会えなかっただけで、もう二度と会えないのではないかと不安になる。


 だって俺と彼女は……レッスン室で二度会っただけ。


 お互いに知っているのは名前と学年だけ。


 もし彼女が俺と会いたくなければ……レッスン室に顔を出さなければいいのだから。


 「はぁ……」


 自分の部屋、ドアの前で、思わず大きなため息をつく。


 緩慢な動きで鍵を取り出し、ドアを開けようとしているときだった。


 「ぎゃぼ!ち、千秋先輩?」


 「えっ?!」


 振り返れば、今日一日待ち侘びていた相手が、マンションの階段を上がりきった廊下の突き当たりで、驚いた表情で自分を見つめていた。






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 のだめに出会って3日。真一クンは急速に進化しております。
 孤独っていうのは、相手があるから感じることなんですよね。
 会いたい……って求めたり、避けられてるんじゃないかって不安になったり……。

 こんな真一クン……知りませんでした(爆)
 新鮮だぁー。