芒果布甸/Mango pudding



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ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 03






 朝、目が覚めると、昨日までの苛立ちが嘘のように消えていた。


 期待?何に対してだよ?


 どんなに足掻いたって、ここから出ることなんて出来やしないのに。


 真一は、浮き立つ心を諌めるように否定的な考えを浮かべてみる。


 それでも、身支度をして大学に向かう足取りは軽く、視界に入る景色までが昨日より色鮮やかに見える。


 そうか……野田恵か。彼女のピアノを楽しみにしてるんだろうな、俺は。


 のだめのピアノを思い浮かべた瞬間、真一の口元には、わずかだが微笑みのかけらのようなものが浮かんでいた。
 








 授業が終わり、真一はいそいそとレッスン室に向かう。


 レッスン室前の廊下に足を踏み込んだ途端、聞き覚えのあるピアノの音色に思わず顔がほころび、慌てて口元を引き締めた。


 ガラス窓から覗き込み、目が合って会釈をしてからドアを開ける。


 部屋に入った途端、色鮮やかな音色が押し寄せてきて、胸が高鳴る。


 真一は昨日と同じように窓辺にもたれかかると、腕組みをして、そっと瞳を閉じた。








 「それは……オリジナル?」


 ピアノを弾き終わり、ピアノチェアに座って両足をぷらぷらとぶらつかせているのだめは、まるで無邪気な少女のようで、先ほどまでのピアノを奏でていた女性と同一人物とは思えない。


 「はい……千秋先輩が来る間、何を弾こうか考えていたら、この曲が浮かんできて……。

 昨日……先輩にピアノを褒めてもらったじゃないデスか?
 その嬉しい気持ちを曲にしてみまシタ。
 タイトルは……ピアノ・ソナタ<有頂天>デス、ゲハ」


 「もう一回……最初から弾いてもらってもいいかな?」









 「そこ……さっきと違う」


 「え?さっき……どう弾いてまシタっけ?」


 つい、夢中になってしまった。


 気がつけば俺は、彼女の傍らにたち、鍵盤に指を乗せていた。


 「さっきは……こう弾いてた」


 「ぎゃぼ……そうでしたっけ?
 何しろ、考えながら弾いているわけではないので……」


 「だったら……ここはこうしてみたらどうかな?」


 「ほわぉ……素敵デス。
 千秋先輩、なかなかやりマスね?」


 ピアノチェアに座った彼女が、嬉しそうに俺を見上げる。


 かぁー……。


 なんだろう……ドキドキして、胸が高まって、顔がやたら熱い。


 きっと真っ赤になっているだろう自分の顔を想像して、羞恥に顔をおもいっきり逸らしてしまう。


 彼女は、俺の勧めたメロディーを繰り返し奏でている。


 「むきゃ!いいデスね!
 のだめのってきまシタ。もう一度、初めから弾いてみマス。
 千秋先輩、またアドバイスしてくれマスか?」


 視線を感じて彼女に顔を向ける。
 俺を見上げて、キラキラと瞳を輝かせる彼女。


 か、可愛いな……って何考えてるんだ俺!?


 つい、そんな風に思ってしまった途端、また熱がこみ上げてくるのを感じる。


 「う、うん……あっちで聴いてるから……」


 このまま近くにいちゃだめだ……って何が?!


 ふらっ……。


 よろよろと足を進め、窓辺にもたれかかった。


 「じゃあ、もう一回、弾きマスよー」


 「う、うん……」









 目を閉じて、彼女の奏でるメロディーに集中する。


 うん、面白い。


 それに、俺が勧めたメロディーを取り入れた途端、それに刺激を受けたのか、またさらに曲が変化してるし……。


 真一は、そっと目を開くとピアノを弾くのだめを見つめた。


 本当に楽しそうに弾くよな。


 くっくっくっ……また、口がとんがってきた。


 乗ってくるとああなるのか……。


 でも本当に……彼女のピアノはまるで……歌っているようで。


 俺の心に優しく、でも刺激的に響いて、俺を惹きつけて放さない。


 俺もこんな風に、自分の音楽を奏でられたら……。


 真一はもう一度瞼を閉じ、のだめの奏でるメロディーに身を任せた。









 「ぎゃぼっ!もうこんな時間……」


 「えっ……あ、本当だ」


 あれから何度か、彼女のオリジナル曲に二人で手直しをして、ついつい夢中になってしまった。


 「……ごめん」


 「いいえー。のだめも楽しかったから、千秋先輩が謝ることなんかないデスよ?」


 「う、うん……」


 楽しかった、か……。


 そんな、彼女が口にするちょっとした言葉に、俺の胸にはまた温かいものが溢れてくる。


 本当に、音楽にこんなに夢中になって時間のたつのも忘れてしまうなんて……最近じゃあんまりなかったな。


 彼女も、俺と同じように感じてくれていたとしたら嬉しいんだけど……って、なんでだ俺?!









 二人でレッスン室を出ると、外はもう薄暗くなっていた。


 「よかったら……送っていくけど、野田さんの家って……」


 ぎゅーぐるるるー。


 「ぎゃぼっ!」


 「え?」


 「あ、あは……お腹すいちゃって……」


 彼女の腹の虫が、静まり返った廊下に響いた。


 「ぷっ!
 じゃあ、ピアノを聴かせてくれたお礼に、なにか奢らせてよ?」


 「え?いいんデスか?」


 恥ずかしげに俯いてお腹を押さえていた彼女が、顔を上げる。


 本当に嬉しそうに、キラキラと瞳を輝かせて。


 かぁー……。


 今日の俺はおかしい。


 ちょっとした彼女の仕草や表情に、どきどきと胸が高鳴って、きっとまた俺の顔は真っ赤だ。


 「う、うん……野田さんさえよければ……」


 「はいっ!よろしくお願いしマス!」


 「じゃあ、いこっか?」


 俺は赤面した顔を上げられず、俯いたまま歩きだす。


 ひょこひょこと、俺の後を彼女がついて来るのを感じて、妙に心が躍って……。


 なのに……突然、俺の名前を呼ぶ、聞き覚えのあるソプラノの声に、そんな甘いシーンは打ち砕かれる。


 「真一っ!真一ってば無視しないでよ!
 江藤先生のところ、クビになったって本当?」


 「彩子……」


 出会い頭に彩子に遭遇し、強引に腕を掴まれる。


 「ちょっとこれから付き合いなさいよ?」


 「いや、俺はこれから……」


 突然のことに俺以上に戸惑っているだろう彼女を振り返る。


 「あ、のだめは大丈夫デス。家も近いから一人で帰れマス!

 彼女サン……デスよね?
 のだめの事は気にせず、行ってくだサイ?

 じゃあ、千秋先輩、またっ!」


 「えっ?!ち、違っ、の、野田さん?!」


 たかたかたか……。


 彼女は俺に笑顔を残し、手を振るとあっさりと走り去ってしまった。


 「はぁぁ……」


 「何よ?真一、なんか不満でも?」


 「べ、別に……」


 彼女に彩子を恋人と誤解されるとか、二人で食事をする機会が流れてしまうとか、家まで送れなかったとか……、別に俺ががっかりする必要なんて……が、がっかり?!


 なんか俺……すげーがっかりしてる……。


 「はぁぁ……」


 何度目かのため息をつき、俺は彩子に引きずられるまま、学校をあとにした。
 





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 おやおやー?真一クンの様子が、おかしいぞ?(笑)

 のだめちゃんのピアノだけじゃなく、のだめちゃん自身を女の子として意識し始めた真一クン。

 それに引き換え、まったく意識してないのだめちゃん。

 おーほっほっほっ!(真澄ちゃん?)

 そして、突然(というか予想通り?)1日遅れて現れた彩子さん(当て馬第一号w)

 いろいろ頑張ってほしいものです(何様?)