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「はぁぁ?! ど、どーいうことだよ? ターニャ、なんか知ってるのか?」 「……どーせ、のだめの事でしょ? 昨日の夜、すっごい体の大きい、サングラスしたゲルマン系お兄さんがやってきて、あっという間に連れて行っちゃったわよ?」 「オリバーか……。ど、どこに行くって?」 「知らないわよー。のだめの部屋からすごい奇声が聞こえてきたから覗いたら、ゲルマン兄さんに抱えられて、連れ去られちゃったんだもん」 「助けろよっ! てか、俺呼べよっ!」 だだだだ……。 「呼ばなくたって、駆けつけたじゃなぁい? ぷぷっ……チアキ、必死ねー」 走り去る真一を見送り、そのあわてぶりを思い出すと、ターニャはおかしくて込み上げる笑いを抑えることができない。 「でも、ちょっとノダメが羨ましいわね……」 ターニャは手にしていたコミックをテーブルに置き携帯を手にすると、発信ボタンを押した。 「もしもし、ヤス? ワタシだけど……」 Bon Voyage 後編 真一はその日、例によって朝からのだめに定時連絡をした。 しかし、何コール架けてものだめは出ないし、メールにも返信はないし、焦った真一は夕方リハが終わると真っすぐ、三善のアパルトマンにやって来たのだ。 「おい、のだめ?」 ドアは施錠されていたので合鍵で侵入する。 人気のない部屋に感じる違和感。 「……」 クローゼットを開けると、大きめのバッグと洋服が数点、見当たらないことに気づく。 リビングのグランドピアノはかっちりと蓋がしてあって、昨日まで置いてあったサンマロのコンサートで弾く曲の楽譜も見当たらない。 「マジかよ……。あ、携帯……」 朝から必死で架け続けていた携帯は、持ち主の手を離れ、留守宅のテーブルの上で意味をなさなくなっていた。 趣味が悪いと思いつつも、真一はのだめが貴重品をおさめている引き出しを探る。 発券してから三年も経っておらず、まだ数回しか使用されていないパスポートが見当たらない。 蘇る、のだめ失踪事件。 のだめの携帯を掴むと、真一は部屋を飛び出し、階段を駆け上っていた。 ターニャの話で、のだめは自ら失踪したのではないとわかり少しは安心したものの、エリーゼの策略だとすると自分に連絡をしてこないのは意図的なのだと想像がつく。 簡単には教えてもらえないだろうけど……。 真一は迷った末、オリバーの携帯に架けてみることにした。 「あ、もしもしオリバー? 真一だけど……」 「あらチアキ? 結構早かったじゃない?」 「エリーゼ、なぜ……」 「アンタの考えることなんて、すべてお見通しなのよ、ボーヤ」 「の、のだめは……」 「……そうね、説明してあげるから事務所にいらっしゃい」 「え、おい……」 いつものように一方的に切られた電話。 「くそっ……」 真一は三善のアパルトマンを出て車に乗り込むと、エリーゼの待つ事務所へと向かった。 「はぁぁ?! 逃げられたぁ?!」 急いで駆け付けてみれば、エリーゼは苦虫を噛み潰したような顔で真一を待ち受けていた。 「のだめの正体がばれたのよ」 「……は?」 「ロンドンのデビュー以来、のだめの馬鹿が世間にばれないように、ミステリアス作戦で素性は伏せてあったのに、ネットのカキコミでコンバトの留学生だってばれてそこから調べられて……ほらこれ、明日ゴシップ紙に載る記事よ」 「……」 「それが出たら、ほかの記者も殺到するだろうから、今日のうちに海外に飛ばしちゃおうと思ってたのに……オリバーがちょっと背中を向けた途端、背後から襲われたらしいわ」 「襲われた……」 アレか……(蘇るノエルの跳び蹴り) 「まぁ、こうなったら、ふりかかる火の粉はチアキが一身にかぶって大やけどして、この危機を脱して頂戴」 「……オイ」 明日掲載予定だという記事には、三善のアパルトマンに出入りする真一の写真も掲載されていた。 その写真には、『日本からNODAMEをパリに連れて来て、連日のようにアパルトマンに通う恋人、ルー・マルレ・オーケストラ常任指揮者シンイチ・チアキ、通称黒王子』と、ご丁寧にキャプションがつけられている。 「はぁぁ……」 「まったく、ため息つきたいのはこっちよ! なに連日のように通い夫なんてして、面白ネタ提供してんのよ!」 「なっ!」 「これ以上、騒ぎにならないように、自分でなんとかしなさい? じゃ、私は忙しいからこれで」 「え……のだめは?」 「オリバーが探してるけど……まぁ見つけるのは前回同様難しいわね。 まったく、私は昨日からバカンスの予定だったのに!」 「おい……」 とりつくしまもない様子のエリーゼの助けは諦め、真一は一度自宅に戻るべく、疲れた身体に鞭打ち、車を走らせた。 アイツが行きたがってた場所。 トルコ行ってトルコアイス食いたいって言ってたな……(ねばねば好き?) あ、ブエノスアイレスのイグアスの滝にも打たれたいって言ってたか(無理) 真一はのだめの行きそうなところに思考をめぐらせてみるが……。 「はぁ……わかんねーよ。どうしたらいいんだよ……」 真っ暗な自分の部屋に戻り、明かりをつける。 食事もとらず駆けずり回っていたから、精神的ダメージも増幅されて疲労度はMAXに達していた。 それでもジャケットをクローゼットにしまい、シャワーをあびようとワイシャツを脱ぎながらバスルームに向かおうとしたところで、視界の片隅、ベッドの上のブランケットがふわりと動いた気がして動きが止まる。 「ひぃっ!」 ビクビクしながらベッドの上を見つめると、こんもりと盛り上がっているのに気づいた。 じっと動かないそれに静かに近づき声をかける。 「お、おい……」 答えることのない塊。 ブランケットに手を掛け、そっとめくってみれば、見慣れた薄茶色の髪の毛。 身体を小さく丸めて眠り込む探し人がいた。 「……心臓にわりいだろーが……」 探し人は、胸の前に組んだ腕に、しっかりと真一のワイシャツを握り締めている。 「……変態」 真一は大きく安堵のため息をつくと、ベッドに腰を下ろし、すやすやと寝息をたてる恋人をそっと抱きしめた。 翌朝、真一は胸元のくすぐったさに目を覚ました。 「はうん……真一クンがシャワーも浴びずにそのまま寝ちゃうなんて、大サービスデスね……濃厚デス」 胸元にぴったりと鼻先をくっつけ、ふがふがと匂いを嗅ぐ、変態な恋人。 「はぁ、誰のせいだよ……。 昨日、大変だったんだぞ? 誰かさんが背後から襲ったオリバーが入院して、緊急オペになって……」 「がぼん……」 「くっくっくっ……んなわけねーだろ?」 「カズオ! 鬼! 悪魔!」 「鬼で悪魔はどっちだよ……」 「ん……」 言葉とはウラハラな、甘くて蕩けるようなキスが降ってくる。 「なぁ……俺と二人でこれから逃避行しない?」 「……いいデスね? でも1つだけ条件があるんデスけど……」 パリ郊外、サン・ジェルマン・アン・レーにあるアパルトマンを一週間借りた。 最初は……せっかくのバカンスを二人きりでゆっくり過ごしたいと思って探していた部屋。 ドヴュッシー生誕の地。パリからもわりと近くて、静かで、ピアノもあって。 探すのは簡単ではなかったけど……見つけたのは古びたアパルトマンの最上階。 高台にあるこの部屋の窓からは、遠くパリの街も見渡せる。 まさかこんなことで、訪れることになるとは思ってもみなかったけど。 まわりには誰も知り合いはいなくて……。 だから俺たちは、この一週間、お互いのことだけで頭をいっぱいにして過ごす。 「真一クン、できまシタ……」 のだめが俺に出した条件は朝食をのだめが作ること いつものように、おにぎりに味噌汁、不恰好な玉子焼きが出てくるかと思っていたけど、白いプレートにはベーコンエッグとサラダ。 料理と言えるほどのものではないけど。 意外と小ぎれいに盛り付けられた皿を見て、俺の地道な努力も報われたとちょっと感動した。 よろよろと運んでくるアイツが危なっかしくて、ついつい腰に腕を回してしまう。 「むきゃ? 真一クンてば、やっぱりゴハンよりのだめデスか?」 のだめが挑戦的な目で俺を見つめ、微笑む。 俺様をからかう生意気なヤツには制裁を。 甘く誘う柔かいくちびるに、今日一度目のキスを。 --------END--- 10万HITお礼SSです!大変お待たせしました(ぺこり) ゲッターサマからは、「イラスト集を使って、幸せなお話を」とのリクエストをいただき、それであればやはり、皆サマが(そして香水が)大好きなラストページで書くしかないだろうということに。 皆サマからは「新居!絶対新居!」というご意見が多く寄せられておりましたが、ちょっと捻りまして、「二人っきりの逃避行」というシチュにさせていただきました。 NサマとかHサマからは「L135の扉絵の家?」とのヒントもいただき、妄想炸裂いたしました(笑) お話のラストにイラストを重ねていただけると幸いです。 10万HITは一区切りの目標だったので、とっても嬉しいです! 本当にたくさんのアクセス、ご愛顧ありがとうございます。 これからもどうぞよろしくお願いします。 2011.4.29 香水 SS indexに戻る |