芒果布甸/Mango pudding



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 なんで俺は、こんなところにいるんだろう?


 俺の夢はヴィエラ先生のような指揮者になって、ヨーロッパの最高のオーケストラと、最高の音楽を奏でること。


 そのためと思って、大学に入るまではヴァイオリンを、大学に入ってからは、苦手だったピアノを必死でやっている。


 だけど……こんな努力がなんになるんだ?


 どうせ俺は……ここから出られないっていうのに。






   ボーイ/ミーツ/ラッキー☆ガール 01






 桃ケ丘音大の廊下を、千秋真一はいつものように不機嫌な表情で歩いていた。


 くそっ!


 ハリセンのやつ、もうレッスンには来なくていいって……、言われなくたって、こっちから願い下げなんだよ!


 真一の思考は今、定期的にやってくるネガティブな感情に支配されている。


 音高の同級生が、ヨーロッパへ留学するため旅立った。


 どうして俺、こんなところにいるんだろう。


 俺には情熱があるし、努力も人一倍している。


 俺だってここから出ることさえできれば……。


 どうにもならない、負のループに入り込んでいく。









 校舎からは、学生達の演奏や歌声が聞こえる。


 お世辞にも上手いとは言えない音色に、真一は今の自分の惨めな姿を重ね合わせ、さらに苛立ちをつのらせる。


 ピアノのレッスン室から、ベートーベンの悲愴が聞こえる。


 すげーデタラメ。


 これじゃあ悲惨だ……。


 ん?


 違う、デタラメだけど下手じゃない……。


 真一はそのピアノの音色に引き付けられるように、レッスン室に足を向けていた。








 真一の足が、1つのドアの前で止まる。


 そのレッスン室の中に、悲愴を奏でる主はいた。


 女性にしては大きめの手が鍵盤の上を動き回る。


 瞳は閉じられているが、口元には優しい微笑みをたたえて。


 今の自分とは正反対の、ピアノを弾くのが楽しくてしかたがないといった様子で、メロディーにあわせてゆったりと揺れる体と柔かそうな髪。


 真一は、自分が今、大学のレッスン室の廊下にいることも忘れ、その音色にうっとりと耳を傾けた。









   それにしても……なんなんだよ、この作曲者の意思を無視したような、自由過ぎる演奏は!


 あ、また音飛ばしてる……。


 でも……すごく上手い。


 胸が高鳴って、ドキドキして、苦しい。


 こんな気持ちになったのは初めてだ。


 コイツは一体……誰だ?









 のだめは演奏を終わらせると、満足気に微笑み、ゆっくりと目を開けた。


 すると、なにか視線を感じて、レッスン室のドアに目を向ける。


 ドアのガラス窓から、すごく綺麗な顔の男の人が、のだめのことを眉間にシワを寄せて睨みつけてマス。


 むむん、この部屋を使いたいのでショウか?


 さっきは確かに空いてたんだケド……。


 のだめは思い切ってピアノチェアーから立ち上がると、ドアに向かった。









 やばい。演奏に夢中になって……。


 俺の存在に気付かれた!


 逃げるか?


 いや、そんなの思いっきり不審者だろ?


 それに……このピアノを演奏していた彼女が、一体何者なのか知りたい。


 真一は覚悟を決めると、彼女がドアを開けるのを静かに待った。









 かちゃり。


 「あの……のだめに何かご用デスか?」


 「……のだめ?」


 「ぎゃぼっ、ご、ごめんなサイ。
 野田恵といいマス。略してのだめデス」


 「野田さん……。
 ピアノ科?一年生?」


 「いえ。二年生デスけど……」


 「もしよかったら……中でもう少し、君の演奏を聞かせてもらっても構わないかな?」


 「え?」


 「あ、ごめん。
 俺は千秋真一。ピアノ科の三年」


 「ほわぉ、千秋先輩デスか?」


 「……そういうことになるかな。
 で、構わないかな?」


 「えと……構いませんケド……」









 むむん。


 強引というのとは違うけど、なんだか千秋先輩に頼まれると断れないようなオーラがあって……。


 のだめは少し怖かったけど、同じピアノ科の先輩だし、ピアノを聞かせて欲しいという頼みを聞き入れることにしまシタ。


 先輩は部屋に入ってくると、窓辺にもたれかかって、腕組みをする。


 背が高くて、とっても綺麗な顔。


 なんだか先輩が立っている窓辺だけ、まるで映画のシーンみたい。


 のだめがぽかーんと口をあけて座っていると、先輩が不思議そうにこちらを見つめる。


 「曲……決めてない?」


 「……あ、はい……」


 「じゃあもう一回、悲愴を弾いてくれないかな?」


 これが俺と、野田恵との出会いだった。






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 新連載、いよいよスタートです!

 大それたことに、今回の連載は千秋とのだめの出会いからスタートします。

 原作のLesson1、千秋が初めてのだめの悲愴を聞いたとき、"もし彩子さんが現れなかったら二人はいったいどうなっていたんだろう?"という妄想から展開させてみました。

 これから先も幾つかの香水的"もし……だったら?"という妄想により、原作とは違った展開になっていく予定。

 才能に溢れ、努力家でもあるのに不運な真一クンと、ラッキーガールのだめちゃんが出会って、どのように二人が変わって行くのか、まだ大まかな筋しか決めていないので、香水にも楽しみなところです。

 読者の皆さまにもワクワク、ドキドキしていただけるような、素敵なお話にしたいと思っております。頑張ります!

 2011.1.9 香水