芒果布甸/Mango pudding



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 ……不意打ちだった。


 おかしいだろ?こんなの。コイツとかれこれ、何年いるんだよ、俺。


 控え室のドアを開けると、目に飛び込んできたのは、薄暗い室内に光を差し込む窓を背負って、振り返ったのだめ。


 ドアの音に驚いたのだろう、顔には驚きと、不安が一瞬よぎったかと思ったら俺の姿を見て、はじけるような笑顔を咲かせたアイツ。


 真っ白なドレスに身を包み、うっすらとメイクした顔にはベールがかけられていて、うすく霞がかかっている。


 その姿に、背後の窓から光が降り注ぎ、まるで後光が差しているようで。






 ……反則だろ。






 思わず、
 『綺麗だ』
 と、言葉がこぼれそうになったのを、理性を総動員してぐっと飲み込もうとした。


 でも、無意識に開いた口は閉じることができず、気管から吐き出した息が漏れる。


 「きぃぅっ……、」


 のだめ以上に意味不明な奇声を発してしまい、羞恥に顔が熱くなる。
 なんとか意味のある言葉をかけなければと焦って吐いた言葉だった。







 「ゆ、雪見だいふく……みたいだな」







 そう言った瞬間、のだめの顔がくにゃっと歪み、俺は
 『あ…、やっちまった』
 と後悔したけれど、一度吐き出した言葉は、元に戻すことができない。


 「のだっ……」






 ”ぷいっ!”






 のだめは窓に向かって身体を回転させ、俺に背を向けた。 


 振り返り際、ちらっと見えたのだめの頬は、いつもよりも膨れていて。

 
 そして俺のアマテラスは天岩戸に隠れ、世界はこの瞬間真っ暗闇になったことを、俺は受け容れるしかなかった。









 のだめだって、本気で怒ったわけじゃないんデスヨ?


 真一くんが部屋に入ってきた瞬間、その顔に浮かんだ表情がどんな感情を表すものなのかくらい、妻ですからわかってるってんデスよ!


 でも、のだめだって不安だったんデス。部屋には真一くんいないし、一人ぼっちで支度したから、ちゃんとできてるか心配だったし。


 真一くんが戻ってきてくれて、逃げられたんじゃないって安心して。
 いつもステキな真一くんだけど、やっぱり純白の衣装は最強に破壊力バツグンで…。


 はぅん……って負けちゃいそうだったけど、それ以上にのだめに驚いた真一くんの表情を見て、今日くらい素直に気持ちを伝えてもらえるかもしれないって、ちょっと期待しちゃったんデス。


 それを言うに事欠いて、なんデスか?雪見だいふくとは!!!


 そんな素直じゃない真一くんに、ちょっとお仕置きしようと思っただけだったんですケド……。


 のだめに思いっきり笑われて、顔を真っ赤にした真一くん。


 こんなにかわいい真一くんを見せられたら、のだめ、降参するしかないじゃないデスか。









 のだめは黙って真一の手からテディベアを奪い取る。


 「あっ……」


 奪い取ったテディベアを見つめると、キスを1つ。


 そして、テディベアに向かって話しかけた。


 「あの…、どう思いマスか?
 自分の花嫁に向かって、『雪見だいふくみたいだな』という第一声を投げかける花婿を。」


 「うっ……」


 のだめは、チェストに取り残されていた、花嫁のテディベアも手に取ると一緒に抱え、続けて話しかける。


 「テディベアの花嫁さんも、どう思いマスか?
 のだめ、このまま結婚してもいいのでショウか?」


 「オイ……」


 「どう思いマスカ?」


 のだめは、テディベアを抱えたまま、真一にむかって顔をあげ、瞳をしっかりと見つめる。


 ふくれっつらは元にもどり、微笑をうかべた頬はうす桃色に染まって。
 その大きく透明感のある瞳には、いたずらっ子のような光が戻ってきている。




 ああ、俺は許されたのか?




 真一は、静かにのだめに近づきテディベアの花婿を取り返すと、手に持ったテディベアを自分の顔の前に持ち、その真っ赤な顔を隠して言った。
















 「すごく綺麗です……。
 どうか俺と結婚してください、のだめさん」














--------- End ----




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